#660 晩餐会とグラン国王からの提案
夕飯を食べた後にログインするとみんなで着替えて、お城の晩餐会に出席したのだが、もう大変だった。
「タクト! あれが食べたい! 連れてって~」
「タクトさん! あの机まで連れてってください!」
「タク! わたしはあっちだ!」
「タクト~ボクはあの机~。ほらほら。腕を貸して!」
またヒール靴を履くことになったリリーたちのエスコートで俺は振り回されていた。みんなそれを見ているだけだ。
「女の子ばかり召喚するからそうなるんだよ」
「…うん。兄様の自業自得」
「私たちもエスコートしてね~」
出来るか!この状況をみろ!他の子を運んでいる間にご飯を食べ終えて、また運んでとお願いされている状況なんだぞ!俺の足が死ぬわ!
「こういうの見るとホッとするよな」
「えぇ。フリーティアの英雄殿にも弱点があるとわかりますからね」
聞こえているからね!?ガルーさんとブラスさん!
リリーたちに強制ストップを発動し、俺は料理を持ってバルコニーで休憩。なぜ俺は晩餐会で走り回っているんだろう。
「お隣、いいですか?」
ジャンヌとレギンたちが来た。
「いいですよ」
「失礼します」
ジャンヌとレギンたちが座ると俺に決意を話す。
「私は…これからシャルル王子と共にゴネスの復興を目指そうと思います」
「そうか…大変だぞ」
「分かっています。それでもベルトランおじ様とジャンおじ様、シャルル王子と話し合って決めました。私たちの国には確かに神様がいて、私たちの願いや祈りは届いていた。それが分かりましたし、法王様の王冠もあるのなら、復興出来ると思うんです」
今度はレギンたちが話す。
「私たちも話し合って、ゴネスの復興に力を貸すことに決めました」
「…元々、私たちは教会の者だから」
「私たちの他にも他国にいる信者はいる。彼らの力を借りれれば復興は出来るだろう」
確かに出来そうに聞こえるが問題がある。
「はぁ~…お金や建物を建てたりとかどうするつもりなんだ?」
全員が固まる。何をするにしてもまずはお金と人材は必要不可欠だ。そしてこのメンバーの欠点はお金があまりないということだ。
「ゴネスには俺もエビデンス・ゼロを撃った責任がある。ちょうど明日イクスの兵器の話で大きなお金が入るからそれを寄付するよ」
「いいんですか?」
「あぁ。なんだかんだで俺もみんなには助けられた。困ったことがあれば頼ってくれ。たぶんみんなも力を貸してくれると思うからさ」
『ありがとうございます!』
するとブリュンヒルデさんとシグルドさん、エイルさん、スクルドが来る。
「話は決まったようですね」
「はい! 私たちはゴネスに向かいます」
「私たちはここに残ります。あなたたちがいつでも帰って来れるようにね」
「私たちはパラディンロードに戻って、孤児院を再開したいと思います」
ブリュンヒルデさんとシグルドさんはここに残って、エイルさん、スクルドはパラディンロードか。寂しくなっちゃうがこればっかりは応援しないといけない。
するとリリーたちが俺を呼ぶ声がした休憩時間短くないか?
「頑張ってください。女の子を待たしたら、ダメですよ?」
「…いってきまーす」
ブリュンヒルデさんにそう言われたら動くしかない。結局晩餐会が終わるまでリリーたちのループ攻撃が続き、俺は完全ダウン。俺はここに誓う。次の晩餐会があったら、前回のファリーダのようになる!
俺が出来るか分からないことを誓っているとシルフィ姫様が来た。
「父が二人っきりで話がしたいそうです。ついてきてくれますか?」
「はい」
明日の話かな?
俺が案内された部屋に入るとベッドにいるグラン国王様がいた。シルフィ姫様が部屋を出て行く。
「すまんな。呼び出して」
「いえ、大事な話なのでしょう?」
「そこまでの話ではないのだがな。お主もわしが召喚したドラゴンを見たな?」
「はい。この国には本当に守護竜がいたんですね。驚きました」
ゾンビの時に町ではリリーを守護竜様と湧き上がっていた。あれは偶然じゃなかったわけだ。
「あれはわしの指示でな。フリーティアの王には代々王杖と共に初代フリーティア国王の召喚獣であるドラゴンを継承することになっている。国民ならそれを知っておるから、あの時はそうしたのだ」
「シルフィ姫様は病で倒れ、失意の中迫るゾンビの軍団を前に国民に希望を与えたわけですね」
「その通りだ。本来ならその役目はわしがするべきだったのだが、わしは才能に恵まれなくてな…無理な召喚は召喚主に大きな負担がかかる。あの状況でわしが倒れたら、それこそ国が機能しなくなってしまう。困っていたところにお主の召喚獣の話が飛び込んできたわけだ」
そういう事情だったわけね。するとグラン国王様は俺に話す。
「わしは次の召喚には耐え切れないであろう。よってこの王杖はシルフィが受け継ぐことになる。だがシルフィにはまだ女王は早い。シルフィが女王になれると思えるまではわしは国王を続けるつもりだ」
「どうして俺にそんな話を?」
「うむ…まだ先の話なのだがな。お主はシルフィと結婚する気はあるか?」
うむ…けっこん…結婚!?
「ちょ、ちょっと待ってください! どうしていきなりそんな話に!?」
「ふふ…お主でもそんな顔をするのだな」
おちょくられた?いや、今のは本気だったぞ。落ち着け~俺。
「理由はシルフィには支えとなる者が必要だと思うからだ。わしも妻に支えられここまでやってこれた。そしてわしはおぬしこそシルフィに相応しいと思っている」
やっぱりガチだ。どうなるの?この流れ?このまま話の流れになったら、女王の夫。つまり王様?いや、この場合は王配になるのかな?
王配は女王の夫を意味する言葉なのだが、これは王ではなく、配偶者という立ち位置となる。あくまで王は女王だからこういう言葉が生まれた。女王の夫が王を名乗ったら、王が二人になってしまうからね。
今回のケースも女王がシルフィ姫様となるなら、その夫は王配となるはずだ。立場的には女王のサポート役と言ったところだろうか?もし日本で女天皇が誕生したら、この言葉を耳にすることになるかもしれない。
「ただ今すぐというわけではない。しかし今、話す必要があると思ったのだ」
「なぜですか?」
「英雄という者はどの国もその力を得るために姫の婚約などを申し込み、自分の国に引きずり込もうとするものだ。特にお主の持つ力は強すぎる。魔神を倒す英雄など歴史の中でもたった数人いるかどうかぐらいの御伽のような存在なのだ」
まぁ、分からなくもない。実際にそういう話は結構あるからな。そこで俺は気がついた。
「つまり…明日の国際会議は俺の取り合いの場になる可能性があるということですか?」
「恐らくはな。シルフィには一応話しておく。明日の国際会議はそれで上手く躱すといいだろう。後はその話をどうするかはお主たちで決めるといい」
「はぁ…わかりました」
偉いことになってしまった。まさかゲームでこんな話になるとは思ってもみなかったぞ。ジャンヌの前で法王に興味がないと言ったばかりなのに…それにしてもシルフィ姫様と結婚か…。
帰った俺はリリーたちから疑惑の目を向けられる。
『怪しい…』
ログアウトした俺はずっと上の空だった。




