#497 桜花の都と帝
俺たちが町に入る手前で一ヶ所だけ不自然に草が置かれているのを見つける。
『…スルーしたほうがいいと思うか?』
『港の人たちが野盗が現れるって言ってたからこれで出てくると思うよん』
『野盗ならいいアイテム…持っているかもです。村人から集めたものとか』
『結論を言うとギルマスやっちゃって!』
やれやれだ。まぁ、どんな罠か見てみるのもいいか。
俺たちが上を通ると縄が現れる。がっかりだ。そして野盗が現れた。
野盗Lv20
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
野盗ってモンスターなんだな。
「ヒャッハー! 引っ掛かった! ばーかばーか!」
「こいつの命を助けたければ金目のものをーーぎゃああああ!?」
ダーレーの蒼炎で縄ごと野盗を焼いた。
「な!? な、なんだ!? あの馬!」
「腐れやべ~」
「逃げろ~!」
「あ、あれ? 動けない?」
銀たちの影縫いだ。さて…
「ばかと言ったのは誰だ?」
「こ、こいつ!」
「お前だろうが! 最悪だな! お前!」
「俺じゃねーよ! だから助け」
助けるわけがない。全員蒼炎で焼く。
「なんで…俺たちまで…」
「喧嘩売ったのはお前らだからだ」
「ひ、酷い…ガクッ」
野盗に酷いと言われる筋合いはない。因みにアイテムは無かった。
そして遂に都に着いた。宗次郎が門番と話をする。
「話は帝から聞いている。どうぞ歓迎いたします」
都に入ることができた。それよりも帝から聞いている?どういうことだ?連絡などしていないはずだが。
都に入ると寂れていた…店はどこもしまっている。せっかくの大通りに…悲しくなるな。
「…本当は物凄く活気があるんですよ? お店がたくさん並んでみんな食べ歩きをしていたりするんです」
「是非その光景を見たいものだな。それでこれから帝に会えばいいのか?」
「はい。それで港町で使ったお薬と食糧を頂ければと思います」
すると銀がとんでもないことを言い出す。
「それってギルマスだけでいいかな? ちょっと町を見てみたいんだけど」
「大丈夫だと思います。ただ乱闘騒ぎとか止めてくださいね」
「わかってるよん。じゃあね。ギルマス~」
なんて奴だ!俺も見てみたいのに本当にみんなばらけたよ!
結果俺だけお城に…酷い。お城の中は戦国武将がたくさんいた。時代がめちゃくちゃだな…帝でどんな人物が出てくるかわからないぞ…これ。
そして遂にこの国の帝と出会った。その帝は30ぐらいの髭を生やした知的な男性だった。手には笏を持っている。
この人物は…まさか。
「遠路はるばるよくぞ参られた。私の名は厩戸王。私のことは聖徳太子と呼んでくれ」
そう来ますよね!日本初の憲法を作った人物が生きているなら国のトップにいるのは不思議じゃないだろう。
更に先程の門番とのやりとり…聖徳太子なら俺が来るのを予知しても不思議じゃない。それほど聖徳太子は伝説もたくさんあるんだよな。
「お初にお目にかかります。自由の国フリーティアでギルド『リープリング』のギルドマスターをしております。召喚師のタクトです」
「流石大陸の王たちと面識があるだけはある。色々話したいことはあるが、今はそなたらが作っておる薬と食糧を買いたい」
「分かっております。とりあえず食糧はこれぐらいで大丈夫ですか?」
俺はインベントリに溜め込んだ食糧を出す。それを見た女官や周りの人がざわめく。しかし聖徳太子は冷静だ。
「お金は用意させている。お主らの金額、ピッタリのはずだ」
どこまでも読み通りなわけね…あれ?金額が合わないな。
「港の村で薬を使用しただろう? その分の金額も入っている」
なるほど。それならルインさんが決めた金額ピッタリだ。しっかりしているな。
「確かに…ではお受け取り下さい。薬はどうしますか? 残り少ないので、案内して頂ければ自分が使いますが」
「客人を使ってしまうのは不本意だが、食材を配るので手一杯か…悪いが頼めるか? 案内人はこちらで手配しよう」
「わかりました」
「お前たちは何をしている? 早く食材を都に届けよ」
『は、はい!』
食材を急いで運んでいく人たちを聖徳太子は止めた。
「待て。村人の食糧を奪った者たちには渡すことを禁じる。その者に出会ったら、伝えよ。私は全てを知っているとな」
おぉ…こわ。凄い脅しだ。
「他の者も料理を食べるといい。暫くこの者と二人で話がしたい。みなは下がれ」
「し、しかし帝を一人にするわけには!」
「私が危ないとでも?」
「い、いえ! 失礼いたします!」
一人にするんかい…それでいいのか?いや、とんでもない雰囲気を放っているから勝てる気しないんだけどな。
すると聖徳太子はいきなりあぐらをかいた。
「さて、邪魔者はいなくなった。ラーメンを食べさせてくれ!」
ラーメンを食べたいから追い出したの!?聖徳太子のイメージが完全に崩れた瞬間だった。




