#388 バエルイベント前夜作戦会議
俺は夕飯を食べてから、ログインする。イベントの最初の島に着くとそこは軍事拠点のようになっていた。目の前には立派な石造りの建物があった。ここが拠点なんだろうな。
周りを見ると壁が城壁のようになっている。
今でもゴーレムやコロッサスが岩を運んでいる。すごい光景だな。するとルークがいた。
「あ、タクトさん! クエストクリアおめでとうございます!」
「ありがとう。ルーク。みんなはまだ集まっていないか?」
「はい。流石に人数が多いですし、参加できない人もいます」
朝、昼にゲーム出来る人を集めているからな。それは仕方無いだろう。ルークに拠点を案内してもらう。随分本格的に作ったな。
「ここが本部です。タクトさんが来ましたよ」
みんな集まっていた。色んな人からクエストクリアのお祝いと魔導船について聞かれた。しかし実際に見せたほうがいいと考え、後で公開することにした。
そして時間となり、作戦会議が始まった。
「じゃあ、今から作戦会議を始めます。一応この事は掲示板での公開はしないようにお願いします」
全員が頷く。別に競いあっているわけじゃないがこういうのはやはり公開しないのが、普通らしい。決闘イベントもあったからというのもでかいみたいだ。
「まず始めにみんな、ご苦労様。みんなの努力と協力のお陰で拠点はここまでになり、アイテム、食料も出来るだけ集めることが出来たわ。一応報告するわね」
ルインさんが報告すると凄い数の食料とアイテムの報告があった。だが、気になるのは大砲の弾と木材だな。
「木材と大砲の弾については素材が品薄で集められなかったわ。現状節約して使うしかないわね」
まぁ、みんな欲しがるものだもんな。品薄でポーションなどのアイテムの値段も爆上がりしたそうだ。
「誰かたくさん木材を持っていると嬉しいんだけどな~チラ」
「俺は持ってませんよ。この前、船の修理や杖や矢に全部使っちゃいましたから」
「そうだった…」
アカシアの木を全部使ったのはユグさんです。苗木は殖えているが全然育っていないから当然無理。こちらもなるべく破損は避けるようにするしかなさそうだ。
食糧は現状三日間は大丈夫なのだそうだ。調達も出来るから四日間は問題無いだろう。節約すれば五日間持たせることが出来るそうだ。ただこれは避けたいというのがルインさんの考えだ。生産職の沽券に関わるそうだ。
俺からも提供しよう。何も提供しないのはちょっと気が引けるからね。というわけでフィンヴェナハのリブロースを提供。
『なんじゃこりゃ…』
「レア度7のお肉…いいんですか? こんな巨大なお肉」
「説明見てください」
それを見てサバ缶さんが納得した。
「男性限定の食材なんてあるんですね…」
「俺もこれが初めてです。男性プレイヤーは多いですから使ってください」
『いただきます!』
見るからに美味しそうなお肉だから男性プレイヤーは喜んでいるが、当然女性プレイヤーはいい顔をしない。でもきっと女性のお肉もあるはずだ。怪しいのがユニコーン、お肉があるなら男性は絶対に食べれないだろう。
俺がお肉を提供して更に食料は増えたが、それでもアイテムの問題は解消されていない。ルインさんは注意する。
「アイテムについては不測の事態が起きるかも知れないわ。そこだけは頭に入れておいてちょうだい。じゃあ、編成について、まとめるわね」
大雑把にこんな感じだ。
スクナビコナ(大型魔導船):タクト
ガレオン船(大型砲船):流れ星
ガレオン船(大型砲船):鉄鋼師団
砲船:与一たち、トリスタン、その他弓術師
高速船:メルたち、アーレイたち、ルーク、鉄心さんたち、その他戦闘職
工作船:火影たち、その他忍者
運搬船:ユグさんたち、ニックさんたち、クロウさんたち、その他生産職
護衛部隊:チロルたち召喚師、雷電さんたち猛獣使い、ティータイムなど
防衛部隊:満月さんたち、その他戦闘職種
司令部:ルインさん、サバ缶さんなど
こんな部隊編成になった。ただしこれは限定的なものだ。特に俺の扱いは場面で変わることになるだろう。防衛部隊も島での攻略には必須と言っていい盾役だ。砲船の弓術師たちを守るのにも必要だろうな。こればっかりはやってみないとわからない。
船は連携しているところなら許可を出せば乗れるらしいので、ルインさんたちに託す場面があるだろうな。シールドなんてあるのスクナビコナだけだからね。
一番多いのは、やはり高速船だ。衝角と大砲が一つ装備されている船のようだ。突っ込んで大砲を撃てと言っているな。次が運搬船と砲船という感じだ。
「次に攻略についてだけど、最初は高速船の人たちが島を攻略する感じで行くわ。その後ろから砲船、ガレオン船が続く形ね。問題はタクト君だけど」
「俺は初日、動かなくて良いですか?」
『え!?』
俺の言葉に全員が驚く。
「理由を聞いてもいいかしら?」
「今まで魔導船のクエストにかかりっきりだったんですよ? 準備ぐらいさせてください」
俺の発言には全員が苦笑いだ。鉄心さんが聞いてくる。
「ポイントは全員共通だが、戦闘は参加しないと経験値は貰えないぞ? いいのかい?」
「はい。エーテルビーストとウッドドラゴンで経験値は凄い貰いましたし、疲労が凄いので入れません」
俺の疲れきった様子に全員がドン引きだ。
「じゃあ、タクト君は一日目は拠点で待機でいいのね?」
「はい」
「因みにどのくらい経験値だったんですか?」
「俺はクラスチェンジして、他の召喚獣たちもほとんどが進化しました」
全員がざわっとする。
「どんなクラスチェンジですか?」
「ロコモコちゃんは!」
「スピカちゃんは!」
「リリー様も進化したんですか!」
はいはい。答えられることには答えますよ。因みにロコモコを出すのは却下した。絶対に戦争になる。
というわけで俺はイベント初日はのんびり準備に当てることにした。
その後、編成や大まかな動きの確認、情報共有手段の確認をする。そこで俺は気になるところがあった。
「すみません。情報共有手段はコミュニケーション以外の方法も考えておいたほうがいいかも知れません」
「どういうことかしら?」
「俺の魔導船ではわざわざパイプで連絡しあっているんですよ。もしかしたらマングローブの森みたいに魔法を封じてくるかも知れません」
「十分考えられますね…通信を潰してくるのは戦争でも使われた戦法です」
戦争では通信の傍受や妨害が戦闘に多大な影響を及ぼしたことは有名な話だ。敵の位置、作戦がバレ、孤立無援の状況。そんなことだけは避けないといけない。
「戦争では無線を使ったが、無いよな?」
「自分たちが調べた限りではありませんね。コミュニケーションがある以上、不要のものですから」
烈空さんの指摘にサバ缶さんが答えるとニックさんが提案する。
「信号弾というか花火なら作れますよ。ショボい花火ですが」
マジで!?花火作れるの!?いいなぁ。俺も作りたい。
「…兄様はお休み!」
むぐ…ミライに怒られた。倒れた過去があるからな…大人しくしてからチャレンジしよう。俺は諦めが悪い男だからな!
「「「じぃ~」」」
俺は義姉妹の視線攻撃から顔は反らす。この義姉妹たち、絶対エスパーか何かだと思うんだよ。
「花火ならありなんじゃないか?」
「ですね。実際に使われていた物ですから」
「ただ複数の色を出せたり、数も揃えられません」
「それなら撤退の合図にだけに使いましょうか」
全員が頷く。その後もアイテム分配、持ち込むアイテムを決めた。俺は氷を熱望された。どうやら、俺が知らない間にリープリッヒのかき氷がバカ売れだったみたいだ。
その後、スクナビコナをみんなにお披露目する。そして説明するとみんなのリアクションが同じだった。
『ヤマトだ…』
俺も思ったがあえて避けたんだよ!サバ缶さんたちは大興奮。
「…エーテル魔導砲、試射してみませんか?」
「五日に一回しか撃てないので、ダメです」
俺も気になるがダメ!一方でシャローさんは…
「窓から釣りが出来そうですね…」
『海で安全に釣り…』
やめて!?スクナビコナを漁船にしないで!めちゃくちゃ苦労したんだよ!欲しかったら自分たちで作ってください!こうしてスクナビコナのお披露目と会議は終わった。
そしてナオさんからこっそり完成した指輪を受け取った。
俺の指輪はシンプルなシルバーリングにリープリングのエンブレムが刻まれているものだ。
そして肝心のリリーの指輪はダイヤモンドがあり、それを守るように聖竜がデザインされている。鑑定するとこんな感じ。
エンゲージリング:レア度4 アクセサリー 品質C
効果:召喚獣とのエンゲージ
男性用のシルバーリング。クラン『リープリング』のエンブレムが描かれている。
エンゲージリング:レア度6 アクセサリー 品質B
効果:召喚師とのエンゲージ、全ステータス+5、暴走無効
女性用のダイヤモンドがあるシルバーリング。聖竜のデザインがされている。
完璧だね。見事な出来映えだ!
「素晴らしい指輪をありがとうございます!」
「気に入っていただいて良かったです。残り二つはもう少し時間を下さい。手抜きはしたくないので。指輪を渡すの頑張ってください」
それがあるんだよな…どうやって渡すべきなんだ?や、やばい…混乱してきたぞ。どうすればいいんだぁ!