#972 ベイカーの町の呪いと攻略会議
地上がそんなことになっているとは知らない俺はまず助けてくれた人にお礼を言う。
「ありがとうございます」
「礼は不要だ。私はまだ人の心がある君を助けたかっただけだからね」
「人の心ですか?」
「あぁ。もう気付いていると思うが、この町の人たちは人の心が歪になっている。個人的には興味深いことだが、許容は出来そうに無い。それに比べて君たちは人々を助けようとした。だから私も君を助けたくなったのさ」
あの時の判断は間違っていなかったみたいだ。ただリリーたちが死んでしまった事実があるからもっとやりようはあったのかもしれない。
「自己紹介をしたいところだが、今はついてきてくれ」
俺はその人の後をついて行くと扉に辿り着いた。その中に入るとなんと地下に町が広がっていた。ただ上のロンドン風の町より少し昔の雰囲気がある町だ。
「ようこそ本当のベイカーの町へ。君と君の仲間たちを歓迎しよう」
「ありがとうございます。ってそうだ。他の皆は?」
「この町に住んでいる皆が助けに向かったから大丈夫なはずだ。魔女の贄になった者たちも時機に上の町で蘇生するだろう。詳しい話は君たち全員の前で話そう。ついて来たまえ」
俺は町の広場まで案内されると生き残ったルインさんたちと合流を果たす。
「タクト君は無事だったのね」
「攻撃をする前にウィッカーマンが燃えちゃいまして…あの人に助けられました」
「私たちは子供たちに助けられたんだよ!」
「子供にダンディなおじさん。やっぱりあの人は有名なあの人かな? というかそうだよね!」
俺も呼ばれた瞬間にその名前が過った。すると俺が最後ではなく銀たちがやって来た。そこで町が跡形もなく消し飛んだ事を聞いた。そして助けてくれた人が話をする。
「生き残ったのはこれで全員だね。それでは自己紹介をしよう。私の名前はダーウィン。今もあるか分からないがフリーティア王国で召喚獣の研究をしていた者だ」
「「「「ここまでフラグを出しといて酷すぎる(違うんかい)!」」」」
全員がシャーロックホームズを期待していただけにこの仕打ちだ。何ともここの運営らしくはあるけどな。
ダーウィンもイギリスの有名人で進化論で知られている。というか今、物凄いことを言ったな。
「ちょっと待ってください。フリーティア出身なんですか?」
「その様子ではまだ国はあるんだな…良かった。そうだな…まずは私の事から話そうか。最初に言っておくと私は君たちにとって、ずっと過去の人物だ」
ダーウィンさんの話によるとダーウィンさんはフリーティアの建国と獣魔ギルドの創設に深くかかわった人物でなんと図書館にある召喚獣やテイムモンスターの一覧を書いた人物であることが判明した。
驚くべき情報だが、それよりもそんな過去の人物がここにいること自体が不自然だ。その理由とこの町の異常性が語られる。
「私は召喚獣やテイムモンスターを研究している時に幽霊のモンスターに興味を持ってね。旅の果てにこの町に辿り着いた。そしてこの地を支配している魔女に囚われてしまったのだ」
「囚われたから今も生きているんですか?」
「そうだ。何せこの町には魔女の不死の呪いが掛かっている。どれだけ死んでも死ぬことが無く、また老いることもない不老不死の呪いだ。それがこのベイカーの町全てに掛けられている」
スケールがいきなりぶっ飛んだな。さっきまでロンドン風の町にいたせいか余計にギャップを感じる。しかし絶句しているわけにも行かない。
「先ほど魔女の贄になった者たちも時期に上の町で蘇生するだろうとおっしゃいましたよね?」
「あぁ。論より証拠。外に出て見て行こうか」
俺たちは外に出るとそこには何もない荒野が広がっていた。ルインさんが呟く。
「ここに町があったの?」
「あったのさ。その証拠にマンホールの蓋があるだろう?」
確かに後ろを見ると俺たちが出て来たマンホールの蓋があった。すると懐中時計を確認していたダーウィンさんが言う。
「そろそろ始まる時間だな」
ダーウィンさんがそう言うと謎の紫の光の柱が四方に発生すると遠くに突如謎の塔が現れる。その塔を中心に地面に超巨大な魔方陣が描かれる。俺たちがいるところに一つの線が描かれているぐらいだから範囲は国全体レベルだろう。
すると紫色の光が魔方陣から発生し、徐々に町が元の姿に戻っていく。そして町が完全に元に戻ると今度は人々が蘇った。その中には当然リリーたちとメルたちも含まれていた。サバ缶さんや数人いないのはログアウトしているせいだろう。
「タクト! 無事!」
「あ、あぁ…みんなのお陰でな」
「どうかしたの? タクト?」
「いや…なんというかな…」
蘇ったメルたちとリリーたちはどうやら町の人とは違う蘇生になったようだ。その証拠にみんなのおでこに怪しく光る六芒星が描かれていた。すると無事だったセチアが笑いを我慢しながら言う。
「み、皆さんのお、おでこに…何か書かれてますよ」
「「「「ん? おでこ? 何これ(なんじゃこりゃ)!?」」」」
これでセチア、イクス、和狐、ユウェルとプレイヤーの数人が噴き出してしまう。俺はなんとか堪えた。流石に俺のために死んでしまったリリーたちをここで笑うのはあまりにも失礼だからだ。俺たちはダーウィンさんの指示で一度地下に戻り、ダーウィンさんが説明してくれる。
「どうやら魔女の呪いを受けてしまったようだな」
「魔女の呪いですか?」
「あぁ。魔女は生贄の儀式を妨害しようとした存在を呪うのだ」
「その魔女が決めたルールがあるなら教えて貰えるかしら?」
「いいとも」
魔女のルールは以下の通りだ。
・魔女の国から出ることが出来ない。
・この町にいる人間は不老不死になる。
・二十一時までに仮装するかパンプキンクッキーもしくはそれ相当のお菓子を用意する。これが出来なかった人間は魔女の生贄に捧げられ、連帯責任で町に魔女の裁きを落とす。
・生贄の儀式を妨害をした者、魔女に敵対した者はお菓子、仮装に関わらず魔女の呪いを受ける。
こうなると気になるのが、魔女の呪いと目的だ。まず魔女の呪いは掛けられた人を調べると分かり安い。スキルと武器の封印、バフの無効化を受けていた。しかも呪いの解除が出来ない。この事実にメルたちは絶句し、状況が理解できていないリリーが聞いてくる。
「どういうこと? タクト」
「つまりリリーたちは呪いを解除しない限り武器とスキルを使った戦闘が出来なくなったと言う事だ」
これは致命的だ。何せカボチャのほとんどは空を飛んでいる。空を飛ぶためには現状スキルか魔法、装備、乗り物、アイテムが必要になる。一応スピカに乗って確認したが封じられていた。騎乗スキルも封印対象のせいだろう。これで呪われた人は空中戦はまず出来なくなった。
「これって、このままじゃ詰んでいるよね?」
「ダーウィンさん、この呪いを解除する方法を知りませんか?」
「知っているとも。ソウルケーキを食べればこの呪いは解除されるよ」
まだ確認していなかったソウルケーキの使い道がこれか。つまり俺はリリーたちの分のソウルケーキをリリーたち抜きで集めないといけない訳だ。最も事前にかなりのカボチャを集めたし、今回はギルドメンバーがいるからなんとかなるだろう。
「「「「呪われたらソウルケーキが食べられる…」」」」
「呪われたままだと戦闘はずっと出来ないけどな」
「「「「う…」」」」
ソウルケーキ目当てて、呪いを受けに行きかねないので釘を刺しておいた。次は魔女の目的だ。
「済まないがそこまでは分かっていない。分かることと言えば魔女は人間を不老不死にして、信仰と力を集めているという事と人間を弄んでいるという事だ」
「どういう事ですか?」
「町を見ればわかるだろうが皆が色々諦めていただろう?」
「確かにどうせ死んで蘇ると言った印象を受けたわね」
ダーウィンが頷くとこの町の過去が語られる。
「この町の人たちは最初は不老不死になれることを歓迎していたんだ。しかし段々魔女の仮装とお菓子のルールを守れない者が増えて来て、その度に生贄と魔女の裁きを受け続けて来たのがこの町の歴史だ。最初は生贄と魔女の裁きの苦痛に苦しんだ人たちだったが、やがてそれも慣れてしまい、諦めるようになってしまった。そして死んでも蘇るという状況にいつしか感謝をするようになってしまったんだ」
この裏では魔女のルールを守れなかった奴への攻撃や魔女から苦痛を受けたことで魔女に復讐心を持った人間もまたいたらしい。そういう悪の感情もまた魔女の力になっているそうだ。
「魔女はこうなることを知っていたと言う事かしら?」
「間違いない。魔女が作ったルールがその証拠だ。人間の復讐心を煽った上でやがて自分に感謝するように仕組んでいる。しかも魔女は生贄にされた人間を力に変えていることも魔女の裁きが生贄の後に発動することから明らかだ」
人間を不老不死にして、無限に生贄の儀式を行う状況を作ったわけか。これを聞いたセフォネが俺のローブを強く握って来て、その目には怒りが宿っていた。セフォネは不老不死の苦しさをよく知っている。それを利用している魔女とやらにセフォネが怒りを持つのは当然かも知れない。
「その魔女の正体は判明しているのかしら?」
「あぁ。彼女がこの町に不老不死の呪いを掛けた日に名乗っている。『妾こそはアンデッドの女王にして、生者と死者の境界に立つ魔女サウィンリッチ』と言っていた」
「「「「リッチ!?」」」」
今回のボスの名前に皆が戦慄する一方で俺は聞く。
「リッチってなんだ?」
「「「「…」」」」
全員が頭を抱えた。だって、知らないんだもん。
俺はリッチというモンスターの説明を受けたがどうやら人それぞれ認識が違っていた。これはゲームや漫画で色々なリッチが描かれているせいっぽい。ただ皆が共通しているのが上位のアンデッドモンスターで強力な魔法使いであるという事だった。
「そういえば叡智で召喚獣の最終進化先にも名前が出てたな」
「「「「どの進化先!?」」」」
召喚師たちが詰め寄って来た。すると俺が答えるより先にダーウィンさんが答える。
「バンシーの次の進化先だ。そちらのリッチも非常に強力な召喚獣だが、この町を呪ったサウィンリッチの実力はリッチのレベルを超えている」
リッチのレベルは恐らくティターニアに匹敵する。それを越えていると明言されてしまったな。ここでルインさんが一番重要なことを聞く。
「サウィンリッチがいるのは、さっき見えた塔なのかしら?」
「あぁ。最上階にいると言われているが誰もそれを確認出来ていない。それは簡単にはそこに辿り着けないからだ」
「何か条件があるのかしら?」
「そうだ。この塔に行くためには魔方陣の四方にある結界装置を破壊しなければならない。当然その結界装置は魔女の配下に守られている」
つまり今回のイベントは四つの結界装置を破壊して、魔女がいる塔を攻略する流れになる訳だな。ここで銀が質問する。
「結界装置って、もしかして砦の中とかにないかなん? 時計塔の上から偵察していた時に四方に砦が見えたんだけど」
「それは知らなかったが…四方にあったと言うなら間違いないだろうな」
結界装置の破壊は砦攻略になるのか…攻略時間足りるだろうか?
「君たちがどうするかは君たちの判断に任せよう。魔女の呪いを受けていても宿屋には泊まれるから今日のところはゆっくりするといい。私はいつも地下のあの場所にいるから、聞きたいことがあれば、遠慮せず来てくれ」
ここでダーウィンさんと一度別れる。俺たちは会議をする。まず先程の死に戻りについてだが、これは死に戻りではなく、蘇生扱いになるためデスペナは発生しないことが確認された。最も魔女の呪いで既にデスペナのようなものだけどね。
更に俺が気になっているラーンの網の成果をシャローさんから教えて貰うとゴールドパンプキンは捕まえることが出来なかったらしい。それでも他のカボチャならかなりの量を捕まえることが出来るらしく教えたことを感謝された。
次に攻略についてだ。今日を入れてイベントの残り日数は五日。つまり実質四日で俺たちは攻略しないといけない。
「土日があるにしても一つ一つ攻略している時間はありませんね…」
「塔の攻略がボスだけだったら、時間に余裕が出来るんだけどね」
「雑魚を倒してからボス戦があるとしたら、土日があるにしても時間が足らない…というかイベント内容からして、塔の攻略はこっちの可能性が高いと思う」
レッカの言う通りで攻略が途中で終わることを想定しているような書き方だった。更に攻略の障害になるのが魔女の呪いだ。
「結界装置の破壊に動いた者は間違いなく、呪われるだろうな」
「あのウィッカーマンを倒しちゃえばいいんじゃない?」
「ウィッカーマンで死ぬことが呪い条件ならいいかも知れないがレベルを識別出来ない敵をあの短時間で倒せるか?」
「しかも戦闘に参加した人はウィッカーマンの中に入れられちゃうし、呪われている私たちは戦闘に参加出来ない…リサちゃんの倒したい気持ちは分かるけど、現実的じゃないかな」
「こうなるといよいよタクト君が考えた作戦が重要になって来そうね。運営はたぶんソウルケーキの獲得を生産職に任せるつもりでしょうから」
ソウルケーキを毎日人数分揃えることが出来たら、呪いの問題は解決する。俺たちがイベント攻略に集中するためにもまずは生産職に協力することが決まった。ここでサバ缶さんがやって来た。そしてこれまでの事を説明する。
「掲示板に書き込んでいる間にそんなことが起きていたんですね…はぁ~…また書き込まないと」
「それは僕が代わりますよ。というわけでお先に失礼します」
「「「「お疲れ様」」」」
今度はサバ缶さんから掲示板の情報を教えて貰うと生贄に大人しく応じたプレイヤーは呪いを受けないことが判明し、生贄から逃げようとしたプレイヤーは呪いを受けたことが判明した。
そして議題はサウィンリッチの話に移る。
「ハロウィンに魔女はよく出て来ますけど、まさかリッチが登場するとは予想外でした」
「そのことなんだけど、本当にラスボスはリッチなのかしら?」
「ルインさんは違うと思っているんですか?」
「ちょっと魔女の塔が気になったのよ。あの塔、バベルの塔に似てなかったかしら?」
バベルの塔は聖書に登場する人間が作った有名な塔の名前だ。天まで届く塔を人間が作ろうとして、神様が塔を破壊する話として登場している。
「確かに似ていた気がしますけど、バベルの塔とハロウィンって繋がりなんてありましたっけ?」
俺の疑問に霞ちゃんが答えてくれた。
「…バベルの塔というよりバベルの塔の企画発案者であるニムロドと関係があります。なんでもハロウィンはニムロドを祝賀するイベントでもあったそうです」
「そうなのね。確かニムロドはバベルの塔の一件で神への反逆者となり、悪魔とされているのよね」
「それじゃあ、このイベントのラスボスはそいつなのか?」
「それはどうなんでしょう? だって、ニムロドってノアの子孫でしたよね?」
「悪魔や魔王として登場するなら何でもありなんじゃないか? ゲームってそんなもんだぞ」
クロウさんの意見にみんなが頷く。ただバベルの塔と決めつけるのも良くないという意見も出た。何故ならマルドゥク神殿に築かれたジッグラトという聖なる塔もあるからだ。
更にそもそもサウィンリッチが魔女として登場することが確定しているからラスボスが男になるのはおかしいという意見も出る。
「ここで議論しても何もわからないわね」
「ですね。取り敢えず塔の敵として登場しそうな敵を調べておくと言う事で今日は終わりにしませんか?」
「それしかありませんね。明日は夜まではカボチャ集め。夜は結界装置の破壊という事になりますね。タクトさんは呪いを受けていませんよね?」
「はい」
「では、銀たちと別れて砦の偵察をお願いしていいですか? 出来ればテントの設置もお願いします」
こうして俺の明日の予定が決まり、ログアウトした。




