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二十一話 乙女三人

 気が付くとノーザはアイリスとイレイナを伴って、三人での昼食を取っていた。というよりは気をよくしたイレイナが半ば無理やりに誘った形となる。

 イレイナはそういう少女である。気が強く、物怖じしないというのは何も生意気な性格というだけではない。こうして、誰に対しても分け隔てなく接することのできる少女であるということだ。


「小さい頃にガーデンに乗り込んだって話は有名ですけど、またなんだってそんなことをしでかしたんです?」

「動かしたかったからよ。興味があるものはなんでも自分で調べないと気が済まないたちなの」

「へー!」


 イレイナは昼食だというのにやたら肉料理を並べていた。彼女は意外と小柄で、身長だけで言えば一五〇になるかならないかの少女である。そんな子のどこに三つも四つも大皿に盛られたステーキが入るというのか。

 ノーザは彼女の質問に答えながら、そんなことを思っていた。


「それに九歳でドラゴン退治! 入学早々に五人抜きして、しかも三年を決闘で一方的に叩きのめす! 一体全体どんな怖い人なんだろと思ってたけど」

「想像とは違った?」

「見た目は完璧かなと思った。だって目つき鋭いし、なんかおっかない顔だし」


 イレイナは即答した。

 ノーザとしても当たっているので、苦笑するかない。


「ちょっと、イレイナ!」


 しかし、アイリスの方はそうもいかないわけで、さっきから馴れ馴れしい言葉をかけるイレイナに耳打ちしては抑えようとしていた。


「いいよの、アイリス。正直な方が私も話しやすいもの。ほら、私、こんな見た目でしょう? よく誤解されるのよ。男を踏んでるとかね」

「あ、それわかります! 鞭とか持ってそうですもん」

「イレイナ!」


 まぁ確かにノーザの見た目はドSな女王様のように見えなくもないだろう。実家から送られてくるパーティードレスの中にはなぜか黒とレースで編まれたきわどいものがあり、それがまさしく女王様に見えるデザインなので、ノーザは棚の奥底に封印していた。


 昼食はイレイナが食い気味に質問を投げかけ、ノーザがそれに答え、アイリスが失礼じゃないかと慌てふためく形で彩られた。

 楽しい会話というものは食事を進めるものらしく、ノーザはいつもよりは多くの食事をとっていた。

 そして、食後の紅茶を注文し、一息ついた頃、アイリスが初めて自分から話題を切り出した。


「そういえば、近々ガーデンデュエルが始まりますね」


 ガーデンデュエル。それは学内の行事であり、まさに目玉ともいえる催しであった。その名の通り、ハイメタルガーデンを使った決闘の場であり、言ってしまえば見世物の場であるのだが、巨大なガーデンが激闘を繰り広げる様は白熱する。

 このガーデンデュエルは節目ごとに幾度も開催されるものなのだが、今年は他国よりの留学生を迎え入れる事、そしてその他国のガーデンが学園にやってくるというもので、大いに盛り上がりを見せていた。


「あぁ楽しみです! 一体どんなガーデンが出場するんでしょうか! レクーツァ王国からはファル=ブレースが出るみたいですけど、ちょっと心配なんですよね。工場にいた頃に試作機を見たことがあるんですが、完全な格闘特化機体ですけど、装甲が薄いですし、機動性を重視した機体ってちょっと軟弱そうで……それに騎士団長クラスの方が乗ることを前提にしているせいで、装飾も多めで、余計な重量がかさばっているんですよ。それなのに機動性重視ってちょっとおかしいですよね。かといって一般兵用に……」

「あー、はいはい、アイリス、落ち着いて落ち着いて」


 一気に語り始めたアイリスは若干興奮気味で、テーブルから身を乗り出す勢いだった。そんなアイリスの肩を掴み、椅子に戻すイレイナ。その見事なやり取りを見ると、どうやら部屋でも同じようなことをしているようだなとノーザは感じた。


「全く、ガーデンの事になるとすぐに興奮するんだから。ルームメイトが私でよかったわねぇ、これが他の子だとノイローゼよ」

「ご、ごめん、イレイナ。でも、色んな国のガーデンがやってくるんだよ! それってすごいことだと思うんだ!」

「ほら、また」


 イレイナは呆れたような顔をしているが、決して嫌がっているわけではないようだった。


「あら、私も気になるわよ」


 そして、ノーザもまたアイリスの熱に当たられたように話題へと乗りかかった。


「ファル=ブレースも気にはなるけど、なんと言っても有翼人たちの浮遊型ガーデンや魔族の術式ガーデン、それに獣人たちの四足歩行ガーデンとかね。それぞれが独自に進化を遂げたガーデンが一挙に集まるのだし、興味があるわ」

「おぉ、ノーザさんもアイリス寄り……」

「フフフ、だって、七歳でガーデンに忍び込む女ですもの」

「あぁ……」


 その一言でイレイナは納得してくれたようだった。


「ガーデンデュエルねぇ。となると、近々学園中の騎士候補生が集められて出場選手を決めるって事になるけど、どうなるんだろ? やっぱ三年ばかりかしら」


 イレイナはクッキーをかじりながら、呟く。

 流石に騎士候補生である生徒全てを出場させるわけにもいかなかった。そもそも学園内に配備されたストーレンにも限りがあるし、そこに新型であるファル=ブレースが加わるとなるとそちらへと整備員が引きずり込まれる。


「候補生同士を戦わせてのトーナメント式だと思うわよ。今回のガーデンデュエルは親善試合のようなものだけど、だからと言って適当な相手を出すわけにもいかないし、国としても優勝を目指したいはずよ。名誉にもなるわけだしね」


 物知り顔で言うノーザだが、それは前世におけるゲームの記憶だ。

 今回のガーデンデュエルは各々の国から三人が参加することになる。ゲームだとウェンディーズ王子が新型のファル=ブレースの性能に助けられ、一枠を得ていた。残りの二人は名前すらなかった。


(もしかしたら、その内の一人はグレイシオかしら? ざっと見た中でガーデンの操縦が得意なのはあの人ぐらいらし……)


 しかしながらゲームではモブキャラの戦歴が開示されることはなかった。そもそもこのイベントはゲームでも序盤も序盤、なのに駆け足気味で描写されたせいで、いきなり準々決勝だった。

 それに至る過程、そのドラマもなくである。

 試合の余韻もへったくれもないまさかの展開で、唖然とした記憶がノーザにはある。


(ま、ヒロインとヒーローの恋愛話がメインだからロボットバトルは二の次ってのもわからない話じゃないんだけどね)


 ちなみに、優勝するキャラはアイリスにかかっている。このガーデンデュエルが開催されるまでにアイリスは一人を除いた攻略キャラと出会う。既にウェンディーズとは出会っているので、残り二人だった。

 そして三人のうち、誰も応援しないもしくは決めかねると残りの一人の優勝となる。ハーレムルートに行く場合はそっちの方が好感度を稼げるので楽ではあるが、まぁこのあたりはアイリスの自由にさせるべきだろう。


「ノーザさんは、もちろん参加なされるんですよね?」


 イレイナの質問にノーザは頷いて見せた。


「そりゃね。腕試しの意味もあるし、実際に他国のガーデンを肌で感じたいもの。こんな機会、学生の内じゃないと味わうことなんてできないしね」

「そうですよねぇ。今どき、ガーデン同士での戦いなんてこんな機会でもないとありませんしねぇ。国同士の戦争なんて起きっこないですし」

「……そうね」


 ノーザは表面上は同意して見せたが、そのイレイナの言葉が短い間に覆されることを知っている。戦争は起きる。その背後に潜む魔王の手によって引きこされるのだ。

 それはどうあがいたところで止められるものではない。


(戦争を寸前で止める方法なんて私には思いつかないし、それこそ政治的なセンスがないと無理な話だもの。それに、魔王に操られて戦争を始めるんじゃねぇ……被害を最小限に抑えるなら、早期解決が望ましいわけだし)


 ノーザはどこか他人事のようではあるが、戦争の阻止という点はそうそうに諦めていた。それに一番手っ取り早く、かつ安全なのがアイリスが聖光女に目覚めて魔王を倒すハーレムルートなわけで、ノーザの目的が必然的にそちらを優先するのは当然ともいえる。


「あの、ノーザ様!」


 ふと、アイリスが妙に緊張した面持ちでこちらを覗いていた。


「ん? なぁに?」

「私、ノーザ様を応援しますね! ノーザ様ならきっと出場できますよ! いえ、もしかたら優勝するかもしれません!」


 そう熱弁するアイリスの鼻息は荒く、またも興奮気味だった。


「そ、そう。ありがと」


 ノーザはそんなアイリスの勢いに少し飲まれながら、紅茶を飲み干した。


(……ま、まぁ大丈夫よね……)


 その時、ノーザはなぜだか言い知れぬ不安を感じていた。

 でも、それが具体的に何なのかは、ちょっとわからなかった。



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