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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第1章 秘密
9/41

秘密と凸砂

  ■ ■ ■



 それは俺らが知り合ってしばらく経った頃だった。


『なぁ、クロ』


『どうした?クロネコ』


 いつも通りの午後7時。自分の部屋の机に座りパソコンの画面を見ていた。桜が散り始めて、住んでいた北国にも夏の兆しが垣間見えてた頃だったはずだ。

 耳からはキョトンとした顔が思い浮かべられる声が帰ってきた。


『BFT2でびっくりするような倒され方ってなんだ?』


『どうしたいきなり』


『いや、今後の参考にしたくてさ』


 本当はクロに勝ちたい一心で弱点を探していただけなんだが。まぁ、嘘は言ってないからいいだろう。


『そうだな。まずはやっぱりあれかな。あれは確か・・・』


 負けた理由を話しているというのに、クロはそれは楽しそうに話し始めた。



  ■ ■ ■



 こちら側の初期リスポーン地点、つまり最初に生まれ出た場所はこのマップで一番高いビルの一階だった。

 となると、敵のリスポーン地点は東の方向の道の突き当たりか、一番北のホテルのエントランスか。

 今回のステージはビルの立ち並ぶオフィス街。中央を東西に分ける川。ビルとビルの間の小さな道。複雑に入り組む地下。そんなマップになっている。


 まぁ敵も俺と同じようにリスポーン地点の目星はつけてるだろうから、とりあえず探すか。


 そう思って、暗く曲がり角の多い地下へと階段を降りていった。

 降りた先は地下鉄の駅だ。もちろん地下鉄は通っていないので、線路を走ることも可能だ。


「タッタッタッ」


 自分のとは違う走る足音が聞こえた。どうやら敵も地下に来たらしい。地上はどうしても開けているところが多いため、入り組んで簡単には場所が特定しにくい地下に行くのがこのマップの定石になっている。

 なるほど、多少は戦術をわかってるのか・・・。なら何故お前はあんな手で南城先輩に勝とうとした。

 そんなことを考えすこし意識が違うところに行っていると、画面右側に赤いグレネードのマークが光っていた。


「やべっ!」


 すぐさま爆発の陰に走りこもうとしたが、線路を走っていたため逃げ場がなく当たってしまった。


「くっ!」


 体力はさほど減ってはいないし敵が来るまでに自然回復する量だが、問題は敵に居場所がばれたことだ。

 BFTシリーズでは自分の、もしくは自分のチームの攻撃が当たった敵は一瞬マップに表示されるようになっている。

 つまり、敵は俺の居場所をピンポイントで把握したことになる。形勢は敵方に有利・・・とでも勘違いされてるんだろうか。


 地下鉄の線路から近くのホームに素早く飛び上がった。グレネードの軌道からある程度は場所を予測できるのだ。さらに言えば、


「もらったぁーー!」


 先輩の叫びがヘッドホン越しからでも聞こえた。その声とともに右奥に見える自動販売機の陰から飛び出し、アサルトライフルを撃っている敵の姿が見えた。

 ーー何もかも予想通り。



 パァーン!



 見事なヘッドショット。1発の銃弾で倒れた。


「なっ!まさかお前!」


 俺は倒れた敵の姿をスコープ越しに見た。


「凸砂だぁ?!」


 ーー倒れたのは先輩の方だ。

 凸砂。とつすなと読むのだが、これは突撃スナイパーの略である。基本的にスナイパーライフルは遠距離からの攻撃を得意としているものだが、1発でも体に当てると敵を倒すことのできるものが多い。ならばとわざわざ遠いところに立てこもって敵を待つより、敵地に乗り込んで撃つスナイパーがでてきた。1発当たれば即死というとんでもないアタッカーの誕生だ。

 しかし、欠点がないわけではない。スナイパーライフルはスコープを覗いてエイム(狙い)を定めなければ命中率が大幅に下がる特徴がある。そこでさらに先人のゲーマーたちは考えた。


『スコープを覗いた時の視野をあらかじめ予測し、敵をスコープに映るように視線を動かし、一瞬で覗き撃てばいい』


 いわゆるクイックショットの誕生だ。こんなことを考えたゲーマーは果てしない努力家か、はたまたドMゲーマーだろう。

 つまり一瞬でエイムをすればいいだけ、と言っているのだ。そんなもの一朝一夕に習得できるものでもないが、習得すればそれはそれは強いものだ・・・と思っていた時期も俺にはあった。

 ーー上には上がいるのだ。



  ■ ■ ■


『なっ!』


 気づけば俺は打ち負けていた。


『はっはっはっ!お前が凸砂なんて珍しいな』


『クッソ。今度こそ勝てると思ったのに』


『なるほどな。それで俺が驚いた負け方聞いたのか』


 いつも通り勝てたのが嬉しいのか、クロは笑っているのが分かる声をしていた。


『俺が負けてなにも対策してないとでも思ったか?』


『うぐっ』


 言われればそれもそうだ。実は凸砂は1発外してしまうとそのあと大きな隙が生まれてしまう。逆に言えば1発外せば敵にはチャンスが生まれるということだ。


『それであんな避け方したのか、クロ。・・・動きがキモかった』


『はっ!なんとでも言え!」


 クロがやっていた動きはダッシュ、ジャンプ、しゃがみ、うつ伏せを繰り返す動きだが、その切り替えが常人では考えられないスピードで、控えめに言っても気持ち悪かった。あんなの人間のやることじゃない。


『おいっ!クロネコ!さすがにそれば傷つくぞ』


『チッ!わざと言ってるのばれたか』


『おいおい』


 ピコーン


 電子音とともにボイスチャットに誰かが入ってきた。


 [Username:Nase IN]


『なんだ君たち、またいちゃついてるのか』


『ナセ、その表現やめろ』


『俺らがホモみたいじゃないか』


『相変わらず息ピッタリだな』


『『誰がだっ!』』


 その叫びにナセはまた吹き出して、いつもの定例会議が始まった。



  ■ ■ ■



 その後の先輩の動きは凸砂への対策として予測しづらいような動きへと変わった。急停止、ジャンプ、うつ伏せ。

 が、あいつに鍛えられたエイム力をなめないでほしい。



 パァーン!



 ヘッドショット。久しぶりにしてはなかなかだな。自分でも正直驚いてるが、やっぱ楽しいな。


「あ、やべ。弾なくなってるし」


 すでに先輩は4回俺に倒されている。さらにクイックショットの練習のために何度か撃ったために弾が全て消費されていた。1発で仕止めるために威力の高いこのスナイパーライフルにしているが、いかんせん弾の持ち数が少ないのがネックだな。

 仕方ない。チャット欄を開いて・・・


 カチャカチャ


 [/suicide]


 カメラが急に三人称視点になり、自分の倒れた姿が見えた。


「「「「はぁあああーーー!?」」」」


 その場にいた井口、橋本、副部長、そして相手の先輩が一斉に驚いた。

 次の復活までは少し時間がある。ヘッドホンを外して振り返る。


「あんまり大きな声出さないでくださいよ」


「いや、玄野。なんで自殺コマンドなんて使ったんだよ!」


 そう。俺がチャット欄に打ったのは自殺コマンド。その名の通り、自分の扱っているプレイヤーを殺すコマンドだ。


「なんでって、弾切れたからだよ」


「サブウェポンあっただろ!」


 どの武器職にもサブウェポンというものが存在し、俺の扱っているスナイパーはピストルを持つことができる。だけどそんな武器で戦ったって、


「面白くねぇじゃん」


「「「はぁー?」」」


 またも3人に呆れられたが、相手の先輩は違うことを思ったらしい。


「つまりそんな理由で自殺をしても勝てると思ってんのか?」


「えぇ、もちろん」


 振り返った体を元に戻し何事もないかのように言った。画面には復活の準備が完了していることが示されていた。

 じゃあ、あと6チケット削りますか。

 外していたヘッドホンを再び取り付け、復活のボタンをクリックした。


 ーーーもちろん、また別の武器職に変えたけどな

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