秘密と裏世界
■ ■ ■
珍しくクロが遅刻してたので、しばらくナセとボイスチャットをしていた。
「なぁ、ナセ。どうにかクロ倒せねぇかな?」
「まだ言ってるのか?全く、懲りないね」
相変わらず女とは思えない口調でナセが言ってきた。
「そうだな。まあ教えてあげなくもないけど?」
「本当か!」
「ただし、今度のオフ会に例の焼肉屋にだな・・・」
「はぁ・・・」
ったく。こっちが学生なの知ってんのに社会人がたかるかよ。食べ放題だからまぁいいか。
「・・・いいよ」
「よっし!じゃあ教えてやろう」
それは嬉しそうにナセが語り始めた。
■ ■ ■
敵の焦りようがよく見て取れた。自殺コマンドのあとに復活してから俺はある作戦を実行していた。敵は俺の居場所を探しているようだがなかなか見つからない。
その焦りは徐々に怒りへと変わっていた。
「クソが!どこにいやがる!正々堂々出てこい!」
ダダダダダダッ!
アサルトライフルの銃声が響き敵はまた倒れた。
敵の残りチケット数1。対してこちらは自殺コマンドで失った1枚だけだった。
ーーどちらが勝つかはすでに一目瞭然だった。
俺はヘッドホンを外して先輩を睨みつけた。
「先輩に正々堂々なんて言葉使われたくないですね」
「なんだと?」
今度は先輩もヘッドホンを外して席を立ちこちらを睨みつけた。喧嘩の前の独特の空気を感じたのかコンピューター室は静けさに包まれ、俺らは注目を集めた。
「学習してください、先輩。同じことは2度も言いません」
「なぜかって聞いてんだよ。俺が正々堂々戦ってないとでもいうの・・・」
「ええ。先輩の戦い方は卑怯だと言いました」
その言葉にその場にいた全員が息を飲んだ。そして、先輩の顔は真っ赤に燃え、額には青筋を浮かべていた。そして、向かいの机からこちらに大きな足音を立てて向かってきた。
「てめえ、いい加減にしろよ」
胸ぐらを掴まれ顔を詰め寄れられた。そしてふと先輩の目線が俺の画面に移った。そこに映るのは画面下半分の真っ暗な世界と上半分は先ほどまで戦っていたステージ・・・を下から見上げているものだった。
「なんだ、、これ」
そしてハッとした顔で俺の方を見直した。
「チートか、てめぇ!」
そして先輩の振り下ろした拳はーー
「校内での暴力は停学処分だぞ」
七瀬先生に腕を掴まれ止められていた。
「な、七瀬先生・・・」
そうつぶやいて先輩は掴んでいた胸ぐらを離した。
「今回は目を瞑ってやるが、理由は聞かせてもらうぞ」
「なんで七瀬先生がここに?」
先輩から助けてもらったのは嬉しいけど、なんで?
「私はFPS部の顧問だ。気づいてなかったのか?」
「いえ、気づきませんでした」
てか、どっかに気づける要素あったか?
「まぁいい。それで何があった」
「先生!こいつがチート使って俺と戦ってたんです」
その言葉に七瀬先生は俺の画面を一瞥し今度は俺の方を向いた。
あれ?よく見たら見覚えのあるけど、どこで見たっけ・・・
「玄野。これは裏世界か?」
「・・・え、あっはい」
「なるほどな・・・」
それだけ聞くと先生は小さくうなづいた。口元はなぜか笑ってるようだった。
「玄野はチートなんか使ってないよ」
そして先生は先輩の方を向きそう言い放った。
「じゃあ、これはなんですか!」
「裏世界だよ」
「裏世界?」
その名の通り裏の世界。ゲームのステージには何かしら壁が存在しているが、実はその裏にも「場」が存在していることがある。本来ならばそこにはいけないようにゲームはプログラミングされているが、一部の場所はすり抜けられることもある。大抵はそのバグが見つかった時点で修正が入ることが多いのだが、
「BFT2はすでに修正はしないと公式で言われててね。その発表から後に見つかったバグは残ったままなんだ」
つまり、
「ゲーム部で禁止しているのはゲームでは行えない不正をすることで、今回のことは対象外だ」
俺はルールにのっとってやっていたのだ。ルールの文言の隙間を探して。というよりも、このルールはそれを狙って作られたようなものだろう。
「な・・・」
「まぁそれにしてもあまり褒められた戦い方ではないがな」
「先生。その言葉は甘んじて受けますけど、先輩も同じような戦い方で南城先輩と戦ってましたよ」
その言葉に先輩は顔を強張らせた。
「お前、、、何言って・・・」
「わざわざ前のシリーズの2をやる理由がわかりませんでした」
そして、驚いた顔をしている南城先輩を見た。
「南城先輩、いつもよりヘッドショットが当たらなかったりしませんでしたか?」
「なんで、それを・・・」
「最新作の3は弾速や弾道がよりリアルに近づいたことで注目されました。つまり、先輩のエイムの仕方は3に慣れていました。そこで弾道なんかが違うシリーズの2をプレイすれば狙いがずれます。さらに言えば南城先輩はヘッドショットが基本の狙い方なので少しずれるだけで全く当たらなくなります」
ふぅ。少し長く話しすぎたな。
「つまりはそういうわけですよ。チートなんかで不正はしていないけど、シリーズでの差を用いたズルです。まぁ僕は裏世界に行きましたから責める権利はないですけど、、、」
先輩は秘密を暴かれ青ざめていた。そう言って南城先輩を向いたが、不思議と怒ってはいなかった。
「例えそうだとしても、それに気づかなかった私に落ち度があるわ・・・」
「そうですか」
「でも、、、、」
南城先輩は拳をぎゅっと握り俺の顔を見上げた。
「最後は正々堂々勝って」
はぁ〜
「分かりましたよ」
仕方ない。チャットを開いて
[/suicide]
そして、もう1つ先輩に条件を加える。
「先輩、最後です。どうせなら楽しくいきましょう」
少しずつ冷静さを取り戻したのかこちらを黙って向いた。
『どうせなら楽しく』
クロの口癖だった。
「次に倒れた方の負けです。正々堂々戦いましょうよ」
もはや残りチケット数さえ関係のない勝負を持ちかけた。
ーーーどうせなら楽しく。面白く。




