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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第2章 信頼
30/41

信頼と放置

「はーい」


 305号室のチャイムを押すと、中から聞きなれた声が聞こえてきた。


「あの、俺だけど」


「えっ・・・!」


 向こうも声を聞いただけでわかったんだろう。小さく驚きの声をあげて、ゆっくりととドアを開け、顔だけ出した。


「な、なに?」


「いや、その、、、少し話したいことがあって


「ちょっ、ちょっと待ってて」


 そういうと、紗羅は急いで部屋に戻りなにやらドタバタ動いているようだった。

 部屋を少し片付けているに違いない。


「いいよ、入って」


「サンキュー、、」


 お互い幼馴染みなのにどこか距離のある態度をとりつつ、とりあえず部屋に入った。

 俺らの部屋と違い、部屋の窓からは蝦夷富士が一望できた。


「なんだ、こっちの部屋は羊蹄山見えんのか」


「綺麗だよね」


 なにかとりあえず話題を、と思って窓際に寄ると、紗羅も俺のそばに寄ってきた。


「ああ、綺麗だな」


 それしか口からは出て来なかったが、不思議と会話が続かない居心地の悪さとかはなかった。

 むしろこれが一番いい距離感だと、そう感じた。


「それで?」


 しばらく2人で蝦夷富士を見ていたら、紗羅が小さく口を開いた。


「何か言いたいことでもあったの?」


「え、あー、、、そうだったな」


 と、言っても、実はなにも考えていなかった。エレベーターに乗ってここにくるまでなにを言えばいいか考えていたが、特になにも思いつかなかった。

 少し頭の中を整理し、紗羅の方を向くと小首を傾げてこちらをじっと見ていた。


「・・・ぷふっ!」


「ちょ、ちょっと!なに笑ってるのよ!」


「あははは、ごめんごめん。なんか急に可笑しく思えて」


「なにがおかしいのよ!」


「悪いって」


 本当に俺はなにに悩んでいたんだか。今更どうでもよくなってきた気がした。

 ただ俺の隣に紗羅がいて、紗羅が俺のことを見ている。それだけでなんだか心が落ち着いてきた。


「全く、心配して損したわ、、、」


「え?紗羅、心配してくれてたのか?」


「なっ!誰があんたの心配なんかするのよ!」


 いつもの返しに、俺は頬が上がるのを抑えられなかった。


「ちょっと!だから笑わないでよ!」


「はいはい、悪かったって」


 今はただそばにいる、昔から一緒にいる幼馴染み(こいつ)との幸せを噛み締めていたかった。




「周、ごめんね」


 ひとしきり自分の馬鹿さ加減に笑っていたら、紗羅が小声で謝った。


「どうしたんだよ。紗羅が謝るなんて、らしくない」


「なんか分かんないけど、周が女の子と仲良くしてると、、、」


「ん?」


「その、、、なんかやな感じで。突っかかっちゃった」


「なんだよ、それ。俺のことでも好きになったか?」


「なっ!」


 ふざけてそう言ったのに、思い切り拳で頭を殴られた。


「ず、図に乗らないでよね!」


「い、痛いです」


 顔を真っ赤にして言ってもあんまり説得力無いんだが、これ以上いつと俺の頭蓋骨が心配になるから黙っておこう。

 まさか、紗羅に限ってそんなことないだろうしな。

 ただ、紗羅も同じことを気にしていたのには素直に驚いて、なぜか心が穏やかになっている気がした。




  ■ ■ ■




「あ、おかえり。ずいぶん長かったな、、って、悩みは解決したのか?」


「お前はなんでそういうのがすぐ分かるんだよ」


 部屋に戻ると早速柳に茶々を入れられた。


「ん?なんか眉間のシワが減った気がする」


「マジかよ」


「おい、引くな引くな。そんなところまで見てるわけないだろ」


 なんだ冗談か。


「で?実際どうなのよ」


「ん?んー、まぁひと段落はしたかな」


「まだひと段落かよ」


 とりあえず今出た結論は『放置』。少しの間考えない時間が必要だった。

 紗羅がそばにいればいいとはいったものの、それでもあの時に抱いた負の感情がなぜか説明できない。しばらく考えても答えが見つかりそうもないため、今は考えるのをやめようと思った。

 きっとそのうち答えが勝手に出てくるだろう。


「あ、そう言えばさっきエレンちゃんが部屋に来たよ」


「は?御田が?何の用で」


「さぁ、なんかお前のこと探してたけど。今はいないっていったら、夕飯の時に来るようにいっておいて、だってさ」


「あ、そう」


 なんなんだ?一体。


「そんな話ししてたら、もうすぐ飯か」


 スマホの電源を入れると、もうすぐ6時半になるところだった。


「あれ?」


 しかし俺が驚いたのは通知が一件来てたからだった。


「・・・はぁ。そういうのは本人に言えっての」


 [さっき言い忘れてた。ありがとう]


「周?どうかしたかー?」


「あ、なんでもない。今いくよ」


 すでに玄関のドアを開けていた柳にそう叫んで、素早く受け取ったメッセージに返信した。


 [こっちこそ、ありがとう]

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