信頼と土産物屋
「意外と部屋広いんだな」
「ーーーん?、、、あー、そうだな」
俺が寝ていたせいで遅れたが、無事に柳と共に今回泊まる部屋へと到着した。
しかし、俺はやはりどうしても心の中の闇が気になって仕方がなかった。
「どうかしたか?周」
さすがに、十何年一緒にいるだけあって俺の異変に柳も気づいていた。
「分かるか?」
「俺じゃなくてもお前が悩んでるのは分かるよ。ーーで、どうしたんだよ」
「いや、俺にもよく分からなくて」
嘘だ。
本当は紗羅に対して、なにかしらの悪い感情を抱いていることに、さすがの俺もこの時は気づいていた。
だが、そのことを口にして、言葉にすることは躊躇った。
どうしてもその理由を知ってからじゃないといけない気がした。
「そうか。まぁ、お前が悩むのも今に始まったことじゃないしな」
「うるせ」
そんな俺の葛藤を知ってかは分からないが、柳は深く俺の悩みを聞こうとはしなかった。
こういうところは、本当に俺としても気が楽だ。無理に心の中を覗かれるのはあまり好まない。
「さすが、万年悩み男!」
「変なあだ名つけるなって」
悩みは常にある。それは俺の昔からの癖というか、よく柳にいじられているところだった。
俺からしてみれば、なぜみんなそんなに悩みもなく毎日生きているのか、そっちの方が不思議だった。
ただ、今回の悩みは長丁場になりそうだった。
「部屋に荷物置いたら一回集合するんだっけか?」
「そういえばそうだったな」
「下のホールだったよな。行こうぜ、周」
そう言って柳は部屋を飛び出した。
「早く解決しないと、、、」
■ ■ ■
「・・・というわけで、君たち生徒には仲間たちとのつながりの大切さを今一度考え・・・」
ホールのような広間に集められた俺たちは、教頭先生からのありがたいお話を聞かされていた。
いつもとは違う環境に、生徒たちの中にはそわそわと挙動が怪しいのもちらほら見える。ただそれをいちいち注意するほど、先生たちも厳しくはないみたいだ。黙って見逃しているように思えた。
「ねぇ、周くん」
突然隣に座っていた灰山が小声で話しかけてきた。
「え?どうした?」
「いや、その、、、」
灰山はここでは話しづらそうに口籠ってしまった。
「後でお土産屋さんのところで会わない?」
「あー、別にいいけど・・・」
「ありがと。ちょっと心配事があって」
小さく手を合わせて、明らかな作り笑いで俺にお礼を言った。
灰山の様子は朝からいつもと違う印象だったから、何か深刻な相談事でもあるのかな。
あ、ちょうどいい。時間があれば、紗羅のことを少し聞いてみよう。確か同じ部屋だったから、何かいつもと違うこととか知ってるかもしれない。
「教頭先生、ありがとうございました。それでは生徒の皆さんは一度休憩時間をとり、夕食の時間になったら、またこのホールへと集まってください」
司会を担当しているナセがそう締めくくり、集会は幕を閉じた。
■ ■ ■
「それで、紗羅となにかあった?」
集会が終わって10分ほど経った頃、俺と灰山はホテルの一階にあるお土産屋さんで話をしていた。
なんてことはない。灰山は紗羅の異変に気付き、その原因が俺だと踏んで相談しにきたらしい。
「いや、なにかあったってほどでは・・・」
「紗羅、朝からため息しかついてないし、暗い顔しかしてないから。心配なのよ」
「そんなにか?」
「周くんって案外鈍感なのね」
「いや、そんなことは・・・」
ない、とは言えなかった。
朝から俺に突っかかってくるのも、いつもの馴れ合いの一つだと思っていたし。
ただ強いて言えば、その"いつもの"馴れ合いに俺が違和感を感じているのは間違いなかった。
「ケンカでもした?」
「ケンカはしょっちゅうだし」
「じゃあケンカして、紗羅が元気無くすことは今まであったの?」
ない。少なくとも俺が関連することでは記憶にない。
あいつとのケンカはいつもくだらない、日常のことだったから。やれ体力がないだの。女っ気がないだの。好き嫌いするなだの。
でも今回は、
「そうだ。灰山のことをやたら気にしてた」
「私?」
「灰山と何話した?とか、なんで手を繋いだの?とか、、、」
紗羅は俺と灰山との距離が縮まるのが嫌だったのか?
そんなまさか。
でもそれ以外に理由が見当たらない。
「・・・」
当の灰山もしばし無言で考え事をしていた。
「とりあえず、一言なにか言ってあげて?このままじゃ、紗羅がかわいそうよ」
「うん、まぁ、、、そうなんだけどさ」
「あー、もう。周くん男の子でしょ?!さっさと部屋に行って一言謝ってきなさい!」
「何謝るんだよ」
「じゃあなにか一言言って、紗羅のこと元気にしてあげて!」
そう言いながら、灰山は俺の背中を強く押した。
「部屋は305号室だから!ほら、はやく!」
「お、おう」
灰山の強引さに押され、俺はエレベーターに乗り込んだ。
さて、なんて言ってあげればいいのか。




