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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第1章 秘密
11/41

秘密と報告

 俺が先輩に提案したルールは次のようなものだった。


【七瀬先生の合図よりお互いのプレイヤーは背を向けたままスプリント(ダッシュ)を開始。ただし、このとき振り返ってはいけない】

【3秒のカウントダウンの後、プレイヤーは体を振り向き、銃の発砲が可能になる】

【使用武器は一発必死のマグナムとする】


 つまりは西部劇にあるような「3歩歩いて振り返り、相手に銃弾を当てる」のシーンを真似たものだ。それをFPS仕様に変更した純粋な勝負。エイム力のみが問われる勝負を俺は先輩に持ちかけ、先輩もそれに乗ってくれた。

 それなりにゲーマーとしてのプライドもあるみたいだな。あのまま裏世界から狙って撃つだけの戦いはしたくはなかったから、俺としてもありがたい。


 そして準備が整った。

 場所はステージの中心を走る片道2車線の大通り。中央分離帯もないので本当に真っ直ぐで障害物のない道だ。


「では両者とも私の声が聞こえるようにヘッドホンはしないでくれ」


 七瀬先生の指示でヘッドホンは禁止された。

 今回のルールならそこまで支障はないからいいけどな。


「よし、2人ともヘッドホンを外したな。ではこれから2人の一発勝負を始める」


 そういえば


「先輩」


「あ?話しかけて集中力切らそうってか?」


 イライラしながらもさっきよりは顔の表情が穏やかな先輩が答えた。

 いや、そうじゃなくて。


「名前聞いてませんでした。俺、玄野周っていいます」


 突然自己紹介が始まったことに驚いて先輩が吹き出した。


「なんだお前急に、、、宮部みやべ 真二しんじだ」


 宮部真二・・・

 もう一度心の中で復唱して、宮部先輩を見据えた。


「よろしくお願いします、宮部先輩」


「負けねぇぞ、玄野」


 見間違いではないだろう。先輩が心から笑ってる気がした。


「スプリント始めっ!」


 七瀬先生の声を合図に俺はまっすぐ前へと走り始めた。

 気づけばこの試合はコンピューター室内で注目の的となっていて、数十人の人たちが試合をしているパソコンの周りに集まっていた。


「3!」


 俺が今までひた隠しにしようとした『秘密』。

 それはもはや解き放たれ、秘密ではなくなっていた。中学のテストでは1度もトップを譲ったことがなく、天才だとか優等生だとか言われてきたが、その実ただのゲーマーであり、ただゲームが好きなだけの学生だった。

 俺は単にゲームを楽しみたかっただけだったんだ。


「2!」


 ・・・しかし周りから見ると、ゲームばかりしているのに成績のいい俺をよく思う奴なんて1人もいなかった。俺の通っていた中学はこの辺でもそこそこ名の知れた学校だった故、生徒たちも高校受験時期は特にピリピリしていた。そんな人たちからしたら、勉強と関係のないゲームをしているのにトップにいる俺の存在は目障りだったのだろう。


「1!」


 やがて俺の周りから人がどんどんいなくなった。初めは気のせいだと思っていたが、俺の言葉に反応する人がいないことに気づき全てを悟った。



 その日初めて「独り」というものを知った。



「0!」


 マウスを右に動かし体を反転。宮部先輩との距離は5、6メートルほどだった。相手も俺と同じように反転し終わったくらいであった。


 バンッ!


 マグナムから弾丸が飛び出し、それと同時にマズルフラッシュがきらめいた。




 [Victory!!!]




 画面に勝利を示す表示が現れた。


「「「「「おぉ!!!!!」」」」」


 周りから歓声とともに喜びの声が上がった。


「やったな、玄野!」


「やばいな、あれは」


「すごかったぞ、坊や!」


「流石でしたね」


 振り返ると井口と橋本、副部長さらには部長までもが祝ってくれた。

 これでいいんだよな。


「おかえりとでも言えばいいのか?周」


「やっと戻ってきたのね」


 横から聞こえてきたのは俺の背中を押してくれた柳と紗羅の声だった。


「2人ともありがと。助かったよ」


「いいってことよ」


「別に感謝されるようなことは何もしてないわよ」


 相変わらず紗羅は素直じゃねえな。

 よし。じゃあとりあえず


「宮部先輩。貰うもんもらいますよ」


 そういって、先輩が座っていた机の上にあるヘッドホンを取って南城先輩の方へと向かった。

 その目にもう涙はなく、代わりに俺が勝ったことに驚きを隠せない表情をしていた。


「なんですか、南城先輩。俺が勝ったのがそんなに驚きますか」


「いや、そうじゃないけど」


 そういって先輩はなぜか顔を赤らめ目を背けた。


「ほら、ヘッドホンですよ」


「ん・・・ありがと」


 こちらをチラチラ見ながら渋々といった様子で受け取った。

 さてと、ひと段落したな。

 いつもならこの後にナセの一言が入ってなかなか帰らせてくれないから早く帰りたいところだ。今日は何せいい日だしな。


「ほらまだ報告が終わってないぞ」


 はぁ〜。今後の参考にするとはいえ試合で疲れてるのに試合の詳細な報告とか鬼畜だよな。


「さっさと伝えてくれ」


「はいはい。分かったよ、ナセ。えぇーと、キルデスレートは・・・ん?」


 待て待て待て待て!

 なんで昔世話になったナセの声が聞こえる。幻聴か?

 周りを見渡すとみんなキョトンとした顔で俺を見つめていた。いや。幻聴に違いない。きっとそうだ。


「おい玄野。結果報告を早くしてくれ」


 ・・・神様は俺に何か恨みでもあるんだろうか。

 振り返るとそこにはメモをしながら俺を見つめている七瀬先生の姿があった。


「どうした玄野、、、あ、そうか。この名前じゃないほうがよかったか?」


 そして先生はにやけながら俺のハンドルネームを呼んだ。


「さっさとしろ、クロネコ」


「なんでナセがここにいんだよーー!」


 先ほどの発言は撤回しよう。やはり今日は地獄の1日になりそうだ。

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