第二話「朝目が覚めると」
「Last Christmas I gave you my heart But the very next day you gave it away.
This year To save me from tears I'll give it to someone special…。」
昨年のクリスマスに君に捧げた僕の気持ち。
だけど次の日、君はそれを投げ出した。
今年、僕は涙を流さぬよう他の誰か、特別な人に捧げよう。
クリスマスらしからぬ、少し悲しい歌を口ずさみながら通学路を急ぐ。
今日は年に一度のクリスマスイヴ。
初恋を自覚した日であり、初恋相手の一番輝く日だ。
20XX年12月24日9:00
機材を運び、雛段を運び、証明の調整やカメラの調子を整えれば、後はもう主役を待つばかり。
「お疲れ、大上。
これ、先生から差し入れだってさ。」
「サンキュ、広猟もお疲れ。」
差し出された珈琲缶を受け取りプルタブを明けると、途端に香ばしい匂いが広がる。
インスタンスとはいえ、腐っても珈琲。
二人で階段に腰掛けながら暫く缶をすすっていると、おもむろに広猟が口を開く。
「にしても意外だよな~。」
「…何が?」
「“声楽部主催クリスマス合唱会実行委員会”ってさ、中等部は各クラスから必ず一人は出してたけど、高等部からは任意になるから殆ど参加者いなかったじゃん。
中等部からの実行委員も半分は嫌そうだったし大上も面倒臭そうだったから、てっきりフェードアウトすると思ってたのに…今年に限っては張り切って参加ときたもんだ。
一体どういった心境の変化なんだ?」
「……別に、やらないとやらないで変な感じがしたからだ。」
そう言って言葉を濁すが、最強セコムは誤魔化されてはくれないようだ。
さっきから瞳に不穏な色が映っている。
さて、どうやって話の矛先を逸らそうか。
そう画策していると、視界に変な動きをする人影が目に入った。
身振り手振りで広猟に伝え、抜き足差し足でその人影に近寄れば―――。