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ねらわれた童貞学園  作者: どどど、童貞ちゃうわ
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第9話 童貞に雨の降るごとく

 1年の代表対2年代表が闘う、戦挙当日。

 30分後に行われる闘いを前に、俺は自分の教室で意識を集中させていた。


「気張れよぉ、富国ぅ!」

「富国君、自分の分まで頑張るっス! あのいけ好かないアイドル野郎の顔面を、崩壊させてやるっス!」

「阿津鬼、腕力……ありがとな」


 俺は伏せていた顔をあげ、檄をとばす二人に礼を言う。


「いいっスか富国君、六道先輩について自分が持ってる情報は全部話した通りっス。正直……手強い相手っスよ」

「そうだぜ富国ぅ。二年はオレら一年より長くこの学校にいるからよぉ、そのぶんうまく童貞力を使えんだ。ぜってぇーに油断すんじゃねぇぞ!」

「ああ! 分かってるさ!」


 俺は大きく頷いてから立ち上がると、阿津鬼と碗力のふたりを伴って決戦の舞台、体育館へと向かった。





 体育館へと着いた俺に、代表戦を観戦しにきた生徒(童貞)たちの無遠慮な視線が、無数に突き刺さる。

 1年の代表戦の時とは違い、2年の生徒たちも観戦しに来ているせいか、多くの生徒たちが体育館へと集まってきていた。

 この闘いに勝った者だけが、3年生代表と闘う決勝の舞台――『生徒会長戦』に駒を進めることができるのだから、注目を集めるのも当然と言えば当然か。

 それとも――


「おっと、やっと来たようだね。僕の対戦相手さんのご登場だ」


 俺に向かってとろけるような笑顔を向けてくる、人気絶頂の国民的アイドルを一目見ようとしてきたからだろうか。

 対戦相手である六道先輩は、先に体育館で待っていた。

 スリムでありながら引き締まった体。高校生にあるまじき金色に染められた髪。そしてなにより、美少年という言葉がピッタリの整った顔立ち。

 間違いない。お茶の間を賑わし、出演する番組が軒並み高視聴率を叩きだしている、トップアイドル六道凜音その人だ。

 そんな六道先輩が、笑顔を浮かべたまま俺に話しかけくる。


「君が1年の代表くんだね。僕は2年代表の六道凛音りくどう・りんね。まあ、自己紹介の必要もないと思うけどね」

「わざわざどーも。俺が1年代表の富国です。富国響兵」

「うん。響兵くんだね。憶えておくよ。じゃあ……そろそろはじめようか? 実はこのあと歌番組の収録が控えていてね。僕にはあまり時間がないんだ」


 一度視線を腕時計に落としてから、六道先輩はそう言ってきた。

 椀力から聞いた話によると、売れっ子アイドルである六道先輩は出席日数ギリギリしか学校にこないうえ、来ても早退したり授業が終わるとすぐに帰ってしまうらしい。しかも、わざわざ送り迎えのためだけに、美人マネージャーが車を出しているそうだ。


「へー……六道先輩って時間がないんですか? そんなに急いでいるなら……この代表戦を辞退したらどうです?」

「はっはっは。面白いジョークだ、響兵くん。君は芸人に向いているかもね。よかったら良い事務所を紹介しようか?」

「俺は本気ですよ! 俺は……俺はこの代表戦に本気で挑んでるんだ! 六道先輩みたく芸能活動の片手間にやってるわけじゃないっ!」

「なるほど……ね。すまないな響兵くん。どうやら僕は君を怒らせてしまったらしい。でもこれだけは言わせておいてくれ、」


 六道先輩の顔から笑みが消え、俺を見据える。


「僕は決して遊びや酔狂でここに立っているわけではない。“選ばれた者”としてここに立っている。そして選ばれた者の義務として君を倒し、そのまま生徒会長にまで登り詰めるのが僕の使命だ! 悪いことは言わない。響平くん、君の方こそ辞退したまえ。たとえ君がどんな童貞力()を持っていようとも……僕には勝てないのだからね」

「そんなん……やってみないとわからないじゃないですか! 負けませんよ、俺は。アイドルなのに……いくらでも女子がよってくる芸能人だってのにっ、そんな恵まれた環境にいながら未だ童貞でい続ける六道先輩なんかにはっ、絶対に負けません!」


 俺が決意を込めて、そう叫んだ時だった。


「よく言ったぞ1年坊! その勢いで六道をぶっ飛ばしてやれ!」

「構うこたぁねぇ、先輩命令だ! アイドルさまのお顔を整形してやんな!」

「二度とテレビに映らないようにボコボコにするんだ! いいかっ? ボッコボコにだぞ!!」


 なんと、俺に向かって2年の先輩たちから、雨のように多くの声援が送られてきたじゃないか。

 俺へ向けられた声援を聞いた六道先輩が「フッ」と鼻で笑い、小さく肩をすくめる。


「まいったなぁ……僕は悪者か。まっ、さくらんぼくん()たちが僕を妬む気持ち……分からなくもないけどね」


 次いで、六道先輩は立会人である幽麒麟先生へと向き直ると、


「幽麒麟先生、もうはじめてもらえませんか? さくらんぼくんたちの嫉妬が煩わしくて……」

「いいだろう。だが、その前に六道、ひとつ頼みたいことがある」

「ん? なんです幽麒麟先生? 『頼みたいこと』とは?」

「なぁに、大したことではない。私と一緒に写真を撮ってくれるだけでいいのだ。ああ、ついでにサインも書いてもらえると助かるな」

「そんなことでしたか。お安い御用ですよ」

「すまんな。……おい富国、ぼーっとつっ立ってないで私と六道のツーショットを撮ってくれ。……ああ、撮る時は縦で頼むぞ」


 俺は幽麒麟先生からカメラ(一眼レフのガチなヤツ)を預かり、要望通りの写真を撮ってあげる。

 てか先生……あんた意外とミーハーだったんだな。


「うむ。良い絵が撮れた。では……双方準備はいいかっ!?」


 表情を引き締めた幽麒麟先生の言葉を聞き、俺は慌てて構えを取る。


「僕はいつでもいいですよ」

「お、俺だって!」

「よし。ではこれより選抜戦挙をはじめる! 決着は戦意喪失か降参のみ。双方死力を尽くして闘いたまえ。それでは……はじめぇっ!」


 いま、火ぶたは切って落とされた。

次は0時更新です。


【童貞紹介コーナー】

・碗力殺芽

童貞力:アイス・エイジ(氷)

童貞歴:16年

名前の由来:〇力〇芽

備考:メガネをかけた太っちょな童貞。人生ではじめてできた友だちが主人公。

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