2章-33.5話(間話①) アシュレイの休日
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ヴォルグリフォン討伐を終えた翌日。
討伐報酬のギルド手続きに数日かかるとのことで、ルクたちは宿屋で、馬車旅の疲れを癒すために思い切って休息を取る事にしていた。
「いいかいみんな、今日は『休養日』だ!」
朝食を終えた食堂。アシュレイは腰に手を当て、仲間たちを見渡して高らかに宣言する。
ここで疲労を癒やし、精霊ダンジョンへの英気を養う絶好の機会――にする筈だった。
しかし、休養=狩りか探検という偏った常識を持つ者たちがここにはいたのだ!
「よし!折角広大な森にどこまでも続く山々があるのにと思っていたのだ!探検だ!」
ルクが目を輝かせて拳を握り。
「森の奥に珍しい魔物がいるらしいデス!それも狩りまショウ」
レンカがぴょんぴょんと跳ね。
「川の上流に綺麗な滝があるって聞いたわ!主を捕まえましょ!」
サキが杖をぶんぶんと振り回す。
休養の「きゅ」の字も見当たらない血気盛んな提案のオンパレードに、アシュレイは早くも頭を抱え、額を押さえた。
「駄目! 今日は身体を休める日だからね!」
「「『ええ〜〜??』」」
「何故です?お腹でも痛いんですか??」
「怪我してる訳でも無いのに、何故じっとしてなければならん??」
——この冒険ジャンキー共め…………。
まずい、……このままでは、結局いつも通り全員で危険な冒険に行く羽目になる。
それは「休養」とは呼ばない、呼んではいけない!!
アシュレイは考える。
何か、何か無いか?せめて1日は足止めしたい。
——ハッ、そうか!
「よし……わかった。今日は僕がご飯を作るよ!」
食べることなら、あの食いしん坊たちも大人しく待っていてくれるはずだ。
早速宿の主人に許可をもらい、厨房でエプロンを身につけたアシュレイは、再び食堂の面々に向かって宣言した。
「というわけで、今日は僕が料理を作るからね?デザートも用意するから、みんなは座って待っててね」
その言葉が響いた瞬間、一同の目がらんらんと輝いた。
アシュレイの作る料理は美味いのだ!
「おお! アシュレイの料理か!」
「楽しみデス! お腹空いたデス!」
「プリンもありますか? ありますよね!?」
「はは、プリンは食後ね!」
アシュレイは苦笑しながら、調理台に用意された食材を並べた。
「今日は鳥の照り焼きと、野菜たっぷりのスープ。それと、約束通り食後にプリンだよ!」
メニューを聞いて、さらに盛り上がる一同。
……よしよし、これならお昼までは何とかなるな。
大量にご飯作って、いっぱい食べさせてその後はゴロゴロしてる大作戦だ!
「あっ!でもプリンだけは材料が村になかったら別のデザートにするからね?——さて、じゃあ食材を買いに……」
料理を作るための食材を買いに行こうか。
と言いかけたアシュレイの耳に元気いっぱいの声が響く。
——材料が無ければプリンを作らない……だと??
そんな事はあってはならないのだ!絶対に!!!!
「よし!そうと決まれば食材は任せろアシュレイ! 我が極上の食材を獲ってこよう!」
「そうね!私たちに任せておきなさい!」
「プリンは絶対です!!」
「スピード勝負デスネ!任せるデス!」
「え? いや、食材は買って————」
【アクティブスキル:スピードコマンド!】
アシュレイの制止が間に合うよりも早く、ルク達は食堂の窓を蹴破らんばかりの勢いで外へと飛び出していく!!
食材は鮮度が命!すなわちスピード勝負なのである。
「待てぇぇぇ!!」
アシュレイの絶叫は届く事なく、虚しく響きわたるのであった。
……プリンの材料を森からどうやってとってくる気なのか。
そもそも材料が何かわかっているのか?
「…………僕達だけで買い物行こうか?」
「そうですね。変なものを入れなくてもいい様に完璧に買い揃えましょう」
「へんなものって……イグニスさん考えすぎですよ?ウフフ」
結局いつもメンバーで、ドキドキしながら買い出しに出かけるアシュレイ達であった。
そして1時間後。
「ハーハッハッハ!獲ってきたぞ!」
ドガァァン!! と宿の扉前に何かが凄まじい音を立てて、投げ置かれる。
ルクが満面の笑みで『狩って』きたのは、村人数十人がかりでも食べきれなさそうな、丸々と太った巨大猪だった。
「なんでぇぇ!?」
アシュレイは思わず裏返った声を出す、プリンの材料と言っていなかっただろうか??
「なぜ怒る!? ほら、まだピチピチと新鮮だぞ!肉にしてもよし!デザートにしてもよしだ!!」
肉はとても美味いのだ!ならばこれこそがプリンの材料に違いないのである!
「新鮮さの問題じゃないよ! そもそも僕達だけでどうやって食べるのさ??」
結局、騒ぎを聞きつけてやってきた宿の主人が「おお、こりゃあいい肉だ!」と大喜びで解体を引き受け、夕食用として宿の代金と引き換えにしてくれたことで、事なきを得るのだった。
しかし、一難去ってまた一難。
ルクの騒ぎの隙に帰ってきた、サキがふんぞり返って胸を張っていた。
「ふふん、ルクもまだまだね!やはりここは天才魔法使いである私の食材が、プリンを最高に仕上げるのよ!」
彼女が懐から取り出したのは、禍々しい黄色と黒の斑点模様の毒草だった……。
「サキさん……それ何!?」
「何ってみたらわかるでしょ?? 山で取ってきたの!ほら、プリンって黄色いじゃない?だから食材も黄色いのよ!」
「プリンに毒草なんか使わないから!——そもそも毒草を食べようとしないで!??」
アシュレイが慌てて毒素を取り上げると、今度はレンカが「プリンはとっても甘いデス!つまり甘い果物デス!」と、真っ赤に熟れたマダラ模様の実をカゴ山盛りにして持ってきた。
「レンカさん、これは……?」
「すごく甘い匂いがするデス!」
本当に大丈夫だろうか。アシュレイが試しにその実を小さく一口、齧ってみるも。
「ッ~~~~~~~!!??」
アシュレイの顔が真っ赤に染まり、目から一気に涙が溢れ出る!口の中が爆発したかのように熱い。
「辛っっっ!? これ、激辛香辛料の実じゃないか!」
「えっ、甘い匂いだったデス……」
レンカは不思議そうに首を傾げた。確かに匂いだけは匂いのだ、匂いだけは。
水、水! とアシュレイが悶絶していると、今度はリリがドヤ顔でやってくる!
プリンに対する情熱は誰にも負ける気はないのだ!
「ヒーッ、ヒーッ。リ、リリさん……それは何かな?」
「プリンにとって大事なものは何か、みんなまだ分かっていませんね?」
フフフと笑いながらリリはその手にもつものをテーブルの上に置いた。
「プリンにとって大事なのは、この黄金色の輝きです。これこそが理想のカラメルになるに違いありません!」
ババババーーン!とリリが誇らしげに取り出したのは、なんと伝説の鉱石であるオリハルコンの切れはしだった!
「何をどう考えたら、鉱石を食べようって思えるの!??——というか切れはしとは言え伝説のオリハルコンだよね?何をどうしたら手に入るの!!??」
アシュレイには理解できる所が一つもなかった。
「……さぁ?伝説のプリンを完成させようと夢中になってたら見つけました!!色はとても似てると思ったんですけど……。」
「色って…………そんなバカな」
カオスを極める新魔団により、アシュレイの精神ゲージは早くもゼロになりかけるのであった。
だが、ふと横を見ると、プリン以外のメニューを任せたイグニスとサフィアの二人が、無言のまま一定のリズムでトントンと野菜を刻み、灰汁を取りながら鍋を見守ってくれていた。
二人の的確かつ静かな料理に、アシュレイは心から救われる思いだった。
「……この二人がいてくれて、本当に良かった」
心の底からの本音であった。仲間とは本当に大事な物なのだ。
そして
幾多の(仲間たちによる)妨害とトラブルを乗り越え、ようやくお昼ご飯が完成した!
食堂のテーブルに料理が並ぶ。
甘辛く香ばしい、食欲をそそる鳥の照り焼きの匂いが部屋いっぱいに広がり、その隣には野菜の旨味が溶け込んだ黄金色のスープ。
そして、しっかりと魔法により冷やされた特製プリンが静かに出番を待っていた!
「「「『おおーーー!!!』」」」
「……ふぅ、さぁ召し上がれ」
「「「「「いただきます!!」」」」」
全員の唱和とともに、一斉にフォークとスプーンが動いた。
「おお、美味い! アシュレイ、お前は最高の料理人だな!」
「お肉が柔らかくて最高デス!やるですね金髪!」
「幸せです……プリンのおかわりはありますか?」
幸せそうに頬を緩め、料理を夢中で口に運ぶ仲間(?)たち。
アシュレイはエプロンを外し、ふっと優しい微笑みを浮かべた。
——ふぅ、これでやっと落ち着けるかな?
この後こそは、ゆっくりのんびりしてよう……。
しみじみと、そんな平和を噛み締め賑やかな昼食を食べ終わった。
……その時だった。
「よし! 肉を喰ったら力がみなぎってきたぞ!」
ルクが空になった皿を叩きつけ、立ち上がる。
どうやら今回の食材はプリンとは別の物だったらしい!
ならば、今回の失敗を次に活かすのだ!
「次こそは本当のプリンの食材をとってこようではないか!行くぞ新魔団!!」
「「「おおおおー!」」」
「だから休養日だって言ってるでしょーーー!!」
宿の食堂には、賑やかな声がいつまでも響き渡るのであった。
間話チャレンジとして日常風景を入れてみました。
今日中に間話②も、投稿予定です。
今後は日常風景も織り交ぜながら、まったりした雰囲気の話も入れていけたらいいなと思っていたり




