2章-70話 王都学園ダンジョンへ ④
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「助けてぇぇ!」
「こっち来るなぁぁ!」
「いやだ! 死にたくない!」
生徒達の泣き叫ぶ声がボスフロア中に響き渡る。
影へと潜った三体のシャドーウルフは、恐怖に錯乱した生徒たちをあざ笑うかのように、次々と闇から襲いかかっていた。
「ガウッ!」
「くっ!そこか」
【ハイスピード】
ルクが素早く駆け寄るが、その一撃が届く前にシャドーウルフは嘲笑うように足元の影へと潜ってしまう。
その直後には。
「きゃあああ!」
今度は反対側の影から、もう一体が飛び出す。
「リリ!!」
「任せて!」
【パリィ】
ガギィィン!と剣で牙をパリィする。
だが、新魔団がそちらに引きつけられた隙を見逃す敵ではない。
「おいっ!離れすぎだこっちに来い!」
「…………え?」
影から三体目が飛び出し、別の学生へ飛びかかる。
「ダメデス!遠すぎマス……」
——ザシュッ!!
「ぎゃああああぁぁっ!」
背中を爪で深く引き裂かれた生徒が、倒れ込みながら悲鳴を上げる。
その悲鳴が引き金となり、パニックはさらなる狂乱となってフロア全体へ伝播していった。恐怖が恐怖を呼び、学生達はますます散り散りになってしまうのだ。
「止まれぇぇぇ!!」
トウガイの怒号が響く。だが、極限のパニックに陥った者への怒声は逆効果でしかなかった……。
「いやだぁぁ!」
「お母さぁぁん!!」
誰一人として指示を聞けない状態になってしまっている
頭の中は『逃げろ』という本能だけで埋め尽くされているのだ。
「サキ!」
「分かってるわよ!」
【ウィンドアロー×5】
少しでも足止めしようと速さ特化の攻撃を連射する。
——トプン。
どんなに速い攻撃を放とうと、シャドーウルフは危険を察知するとすぐさま自身の影へ潜り、全く意味をなさない。
「くっ……!このウルフ達速すぎるわよ!」
「——右!」
「今度は後ろだ!」
「あっちもデス!」
新魔団は休む間もなく走り続けるしかなかった……。
走り、敵の奇襲を食い止め、傷ついた生徒がいれば回復魔法をかける。
その絶え間ない防戦に追われ、こちらからまともな攻撃を仕掛ける余裕など全くないのだ。
「このままじゃジリ貧よ……!」
シャドーウルフは三体に対してこちらは四人。
本来なら長期戦になれば、人数の多いこちら側有利になるのはこちらのはずだった……。
しかし今はもう違う。
守るべき十人の生徒が恐怖のあまり迷走し、標的としてフロア中に散らばっているのだ。
トウガイも足の古傷のせいで走ることができず、己と周囲の生徒を防御魔法で護るだけで手一杯。
「ガウッ!」
「また潜った!」
「どこよ!?」
「分からないデス!」
視界に入るすべての影が敵に見える。
あまりにも早すぎるスピードのせいで、どこから牙が飛び出してくるのか誰も予測が追いつかない。
そんな先の見えない戦いが続いて行く……。
「くっ!」
飛び出した一体を受けるもその直後には——!
「きゃあああ!!」
まったく別の方向から悲鳴が上がる。
助けに向かえば、今度は入れ替わりで逆側が襲われる。
まるで獲物を疲弊させ、足腰が立たなくなったところを悠々と仕留める熟練の狩人のように、シャドーウルフたちは新魔団を広大なフロアの中で走らせ続けた。
「ハァ……ハァ……ボクたちを、わざと疲れさせようとしてるデスか……!?」
「フー、そうかもしれませんね?狩人はそうする事もあると聞いた事があります」
「ハァ、ハァ、ハァ……じゃあ何? 私たちが『獲物』だって言いたいわけ? あのイヌッコロどもは……っ!」
「フゥ、フゥ……ほ、ほぉ? 我らが獲物だと……? ただの犬のくせに……? フッ、フフフ……ハーハッハッハ!」
ブチ……っと
新魔団の中で切れてはいけない何かが切れた音が聞こえた……。
新魔団の面々の瞳から、先ほどまでの焦りが完全に消え去る。代わりに宿ったのは、ドス黒いほどの殺意とブチギレた怒りだった。
「「「『ブチノメス…………』」」」
「我が闇の結界にて目隠しをする! リリ、やれるな!?」
「全力でやります! 成功したとしても三十秒です……任せましたよ、サキ姉、レンカ!」
「三十秒あれば十分よ! あのイヌッコロ、跡形もなく消し炭にしてあげるわ!」
「絶対許しまセン……!!」
後の事を考えるのも、学生達の前でカッコよく決めるのも……。
果ては「うまく手懐けられたらテイムできないか」などと目論んでいた甘い考えも。
——すべて怒りの炎によって全消し飛びとなった!!
ここに、「ブチギレ新魔団」が結成されたのである。
「行くぞ新魔団!」
「「『ハイ!(デス)』」」
【スペルマジック:エクリプスフィールド!】
ルクが闇の大結界を発動!
その効果により、学生達を目隠しするようにその目を闇が多い込む。
暗闇の中で新たな悲鳴が上がった気がしたが、ブチギレ新魔団に、生徒のメンタルケアなど知ったことではないのである!
「「「ガウ……?」」」
味方のはずの学生達にブラインドの状態異常を付与し、さらには闇の結界によりコチラの闇魔法の威力も上がった為「何をしてるんだ?」と首を傾げるシャドーウルフ達。
「私は出来る……」
リリは両手を胸の前で組み、震える息を整える。
「絶対に出来る。必ず出来る……!」
今まで何度も失敗してきた……。
魔力が暴走し、途中で霧散し、たとえ上手く憑依出来たとしても暴発しすぐに解除された。
しかし! ここでやらなくてはダメなのだ。
新魔団は、舐められたら終わりなのである!
[…………力を貸してやろう]
大精霊ルナスィラとは異なる誰かの囁きが、リリの脳内で囁かれる。
しかし……。極限の集中状態にあるリリが、その声に気づく事は無かった。
「絶対にやってみせる!」
怒りによって極限まで研ぎ澄まされた精神が、暴れ狂う魔力を一点へと収束させる!
【精霊憑依:力を貸して、月の大精霊ルナスィラ!!】
銀色の光がリリの全身を包み込んだ。
月光を溶かし込んだかのように輝く銀髪、そしてその瞳には神聖なる黄金の光が宿る。
荒ぶる魔力を完全にねじ伏せ、リリはついに大精霊の降臨に成功したのだ。(タイムリミット30s)
『あら?上手く行ったじゃない〜、さすがリリちゃんね〜』
優しく、それでいて底知れない力を秘めた女性の声がリリの脳内に響く。
「時間がありません!あの犬どもを閉じ込める魔法何かありますか?」
『フフフ、結界貼るの得意なのよ?私、少し体の主導権借りるわね?』
リリの体に憑依したルナスィラがその魔力を使い、魔法式を瞬時に構成。
宙に幾重もの魔法陣が広がっていく。
光と闇、二つの魔力が螺旋を描きながら天へ昇ると、結界魔法が周囲を包み込むように発動した。
【スペルマジック混沌魔法:ルミノクス・テリトリー(光と闇の領域)】
「「「ガウッ!?」」」
危機感を察知したシャドーウルフたちが、足元の影へと飛び込もうとする。
————だが!
——もう影に潜る事は出来なかった。
この結界は、以前精霊ダンジョンでルナスィラがリリを閉じ込めた物と同じ結界。
領域内でルナスィラが「敵」と認識した対象のすべての魔法およびスキルの発動を完全に封殺し、対して味方の光・闇属性の威力を跳ね上げるという、理不尽極まりない最凶の結界なのだ!
……勿論、制約も制限もあるのだが……。
この場においての最強なのは間違いないのである!
『ふふふ、時間がないの。大人しくしてなきゃダメよ〜』
【スペルマジック混沌魔法:ルミノクス・チェイン】
床面から無数の光と闇の鎖が跳ね上がり、シャドーウルフたちの四肢と胴体を強固に縛り上げる。
「グルルルゥ!!」
必死に逃げ出そうと暴れるシャドーウルフだが、暴れるたびに光が身体を焼き、闇は身体を締め上げていく……。
二つの属性が互いを補い合い、拘束力を強めていくのだ。
『今よ〜』
ルナスィラの合図に、待ってましたとばかりにレンカが反応する!
【属性纒装:風!】
全身に風を纏わせたレンカが、高速でシャドーウルフ達に接敵!
「ハァッ!」
【エアラッシュ!】
鎖で動きを封じられたシャドーウルフ達を
風を纏わせた連撃が、三体の急所を正確無比に穿つ。
「いくデス!サキ!」
「待ってたわよ!」
サキは既に巨大な魔法陣を展開していた!
全てを吹き飛ばす巨大爆発魔法が、逃げ場を失ったシャドーウルフ達に襲いかかる!
「全部まとめて吹き飛びなさい!」
【スペルマジック爆発&火魔法融合:デトネーション・バースト!】
巨大な爆発が、シャドーウルフ達を包み込む。
フロア全体を揺らす凄まじい轟音。
荒れ狂う熱が、敵を緊縛していたルナスィラの鎖すらも一瞬で溶かし去る。
……やがて爆炎が晴れると、そこには三体のシャドーウルフの姿はなく。
巨大なクレーターと共に、漆黒の大きな魔石とドロップアイテムのみが転がっているのだった。
——シャドーウルフHP0——




