2章-69話 王都学園ダンジョンへ ③
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ウルフダンジョンボスフロアにて
ルク達は過去の経験からできるだけの準備をして、ボスフロアへと足を踏み入れた。
各々にはポーションを数本持たせ、ヤバそうな敵がいたら海魔獣のウロコという巨大な盾で身を隠せと伝えてある。
……レベル1ダンジョンで何故そこまで神経質になるのか。
それは。
『だってよく分からないけど、いっつもボスが強くなってる気がするんだもんっ』……である。
決して狙ってボスをランクアップさせている訳ではないのだ。本当だ!信じて欲しい!
そして今回も、ルクたちの悪嫌な予感(というか確信)は的中することとなった。
「グルルルゥ」
暗く広いフロアの中央、不気味な唸り声を上げる黒い影が三つ。
それを見た瞬間、ルクの背筋に氷を突きつけられたような戦慄が走った。
——トプン。
唸り声の直後、黒い影たちが水面に落ちる滴のように、ゆらりと床の影の中へ没していく。
「まずい!!全員防御体制!全力で防御しろ!!」
【アクティブスキル:スピードコマンド】
ルクが叫んだ瞬間だった!
前を歩いていたルク、リリ、レンカの影からシャドーウルフが凄まじい速さで飛びかかる!
「「「くっ!」」」
【パリィ】
リリは間一髪で盾を滑り込ませて攻撃を弾く。敵の特性を熟知しているルクも鋭く身を引いて難を逃れた。
しかし、わずかに反応が遅れたレンカの肩口を鋭い爪が切り裂く。
「ぐぅぅ」【ポーション】
(シャドーウルフだと……!?)
転生してまだ幼児だった頃の、あまりにも苦い記憶が蘇る。
あの決して『開けてはいけない扉』の先にいた、複数のシャドーウルフの記憶がフラッシュバックする……。
あの日以来ちょっとだけトラウマになっているのだ!
「奴らは影に潜る!しかもスピードがめちゃくちゃ早い。基本カウンター狙いでいくぞ」
ルクが続けて魔言葉を使い号令をかける!
【行くぞ新魔団! 俺とリリ、レンカで各一体を受け持つ! サキは手隙の場所へ援護に回れ!】
「「「了解!」」」
「俺達は?」
トウガイは問いかけながらも、すでに理解していた。
……これは、自分達の手に負える相手ではない。
彼は素早く判断し、引きつった顔の生徒たちを押し下げる。
「全員、盾の後ろへ引っ込め!」
「ウム!奴らの相手は我らだけで十分だ!」」
「僕達だってやれる!」
「そうよ!魔法さえ当たれば」
「黙れ!お前ら如きが勝てる相手じゃ無い!!」
トウガイが前に出ようとする学生達を、怒鳴りつけながらも抑える。
「……フム、あっちは少なくとも任せて大丈夫そうだな!よしっ」
「バラけさせるわよ!!」
【ファイアーアローレイン】
ルクの合図と同時に、サキの頭上から無数の炎の矢が降り注ぐ。
しかし——。
影と同化するシャドーウルフにとって、面攻撃の概念など意味をなさない。
炎の雨が降り注ぐ直前、あっさりと影の中へと沈み込み、曲芸のような軌道で間合いを詰めてくる。
「くっ、私の近くに!」
【アクティブスキル騎士:エリアガード!】
「ナイスだリリ!」
「もうっ!攻撃が当たらないどころか分断すらできないじゃ無い!?」
「何か弱点はないんデス??」
「影に潜られてはな〜……追尾攻撃か上級結界はるか、そもそも影に潜らせないくらいしかないな!ハッハッハ!」
「グルルルゥ」
【バウワウ!】(ダークランス×3)
「任せて!」
【ファイアーランス×3】
サキが炎の槍で打ち消すものの、状況は悪化する一方だった。
そもそも素早さステータスで負けてる上に、範囲攻撃を放とうにも影に潜られてはお手上げ状態だった。
「闇の大結界使えましたよね? ルク、それでいけませんか?」
「闇の結界では闇系統は強化されるからな! 逆に相手の攻撃まで強化されてしまうな! ハッハッハ!」
「何よ!使えないわね!」
「……つ、使えない…………シュン」
結界魔法とはとても高度な魔法なのだ! そんな言い方ないでは無いか……とルクは心の中で叫んだ。
「サキ姉は使えないんですか?練習してましたよね??」
「ひょえ??…………ちょ……」
「ちょ??」
「ちょ……ちょーっとだけ難しいのよ!大規模な結界魔法って!…………ちょーっとだけよ!!??」
自分も使えないのに人のことを「使えない」などと言わないでほしい。突っ込みたい気持ちを必死に押し殺しながら、ルクはひたすら敵の襲撃を捌き続けた。
膠着状態のまま、いたずらに時間だけが過ぎていく。
「また潜るぞ!」
ルクが叫ぶより早く、三体のシャドーウルフが再び影へと沈む。
「後ろデス!」
レンカが叫んだ瞬間、今度はサキの影から黒い牙が飛び出した。
「きゃっ!」
ギィンッ!!
滑り込んだリリがなんとか受け流すが。
その隙を逃さず、別の影から現れた二体目がルクの死角を襲う!
ギリギリの身ごなしでかわし、反撃の一撃を叩き込もうとするが——ルクの剣が届くより疾く、シャドーウルフは再び影の中へと溶けて消えた。
シャドーウルフは、じわじわとこちらの体力と集中力を削り取るような陰湿な戦術を好む戦術化なのだ。
「ちっ……面倒くさい!だからコイツらは嫌いなのだ!」
「なら!こっちも速さで掻き乱すデス!!」
【ハイスピード!】
しかし焦れて強引に動こうと1人だけ前に出ようとすると……。
シャドーウルフが三位一体となりレンカを取り囲むと、完璧な連携を見せ同時に飛びかかる!
一体は正面、一体は左。
そしてもう一体は――。
「下だ!レンカ!」
足元の影から飛び出した牙が、レンカの太ももを浅く切り裂いた。
「くぅっ!」
「今回復を」
【ヒール】
「もう!全然捕まらないじゃない!」
【アイスグラウンド!】
地面を凍らせて見た所で、シャドーウルフが潜っているのは地面ではなく影な訳で……。
【ガウガアア】(スペルマジック:ハイスピード)
いくら攻撃しようとも高速でシャドーウルフは影へと溶けて消えて行く。
「くそっ……!」
新魔団の得意分野は魔法による高火力の攻撃……。
だが、どれほど絶大な威力を誇ろうとも、着弾点に敵が存在しなければただの意味がないのである。
必ず三体で絶妙な距離感を保ち、連携が崩れそうになれば影を渡って即座に合流する。
攻撃は一瞬。深追いすれば、死角から別の個体が襲いかかってくる。
「これじゃずっと守ってるだけデス……!」
その言葉通りだった。
ガギィン!キィン!
パリィは成功するし、敵の攻撃も回避もできる。
だがこちらの攻撃も敵に当たらないのだ。
焦れる新魔団……。
だが、それは敵にとっても同様だった。
正面からの攻撃では突破できないと学習したシャドーウルフたちは、戦局を根底から覆す「最悪の一手」へとシフトする。
「ガウ!」
トプン、と一体のシャドーウルフが影の中へ消えた。
「また潜りました!警戒を」
リリがそれを察知し周囲を見渡すも……。
中々シャドーウルフは攻撃してこず残りの2体も、こちらの出方を伺っているだけ……。
(……待て。まさか……!?)
違和感を覚えたルクが【サーチ】を発動した瞬間、最悪の予感が的中する事になる。
サーチが捉えたのは、後方に陣取っている生徒たちの足元。その影の中から、跳び出そうとしている影の反応だった。
「トウガイ!! 後ろだ——!!」
叫び声を上げるも、圧倒的な速さを誇るシャドーウルフの攻撃は止められない。
大盾の陰で身を縮めていた生徒たちの足元。その闇が不意に隆起し、巨大な黒狼が姿を現すと。
ザシュッ!
「え?あっ——ぐぁぁぁ!!」
無防備な学生の、胸から腹にかけて鋭い爪痕が走り血が飛散した。
「「『え…………?』」」
一瞬、誰も状況を理解できなかった。
目の前に、漆黒の体を持つ大きな狼がいきなり現れ攻撃してきたのだ……。
最近やっと低級の魔物を倒せるようになった子供達が、ユニークボスが放つ本物の「殺気」に耐えられるはずもなかった。
「きゃあああああ!!」
「う、うわぁぁぁ!くるなくるなくるなぁぁーー!」
「化け物だぁぁ!!」
「いやだ!死にたくない!!」
「逃げろぉぉぉ!!」
誰か1人が叫び出すと、恐怖が一気に伝染していく。
一度恐怖を感じてしまうと、もう抗う術など無かった。
後ろへ逃げ出す者。
腰を抜かして泣き叫ぶ者。
仲間を引っ張ろうとして転ぶ者。
パニックのあまり滅茶苦茶に魔法を放ち、味方に暴発させる者まで現れた。
「嫌だぁぁぁーっ!!」
【ファイアボール】
暴発した火の玉を、シャドーウルフは嘲笑うかのように軽々と跳躍してかわす。
着弾した火球は、後方へ逃走していた別の生徒の背中で爆発した。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!?」
「やめろ!落ち着け!!」
トウガイが声を張り上げて抑え込もうとするが、極限状態の生徒たちの耳には届かない。
「盾の後ろだ! 全員、逃げるな! 盾の陰に集まれ!!」
命令は虚しく霧散した。
死の恐怖に支配された子供たちに、隊列を維持する理性を求めるのは不可能だった。
「来るなぁぁ!!」
「助けてぇ!!」
「先生ぇぇぇ!!」
恐怖に支配された学生達は我先に逃げようとし、防御隊列は一瞬で崩壊。学生達は完全に周囲へと散らばってしまった。
「まずい……新魔団!全力で防御体制だ」
「どこを守るデス!??」
「散らばりすぎよ!?」
シャドーウルフはそれをみて口元を歪ませると……。
まるで獲物の群れが崩れる瞬間を待っていたかのように、三体が同時に影へ沈むのだった。




