第十九話:漫談
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半岸の釵を解きて、君が手に渡す、
除夕に相逢い、再び身を寄せ合う。
一片の魂、両断に裂かれ、
煙花の燦爛、瞬く間に虚と化す。
人間この夜、君もまた知るや否や?
「この詩は、公子がお作りになったのですか?」鳳雀は詩の文字を目で追いながら、問いかけた。
「他に誰がいると思う?」
「小女は学が浅く、公子と詩を論じる資格はございませんが……その中に宿る情趣は、まことに風雅でございますね。」
仲傑は口元に手を当て、喉から込み上げてくる咳をそっと堪えた。
「お世辞を言っているのか?」
「公子は竹をご覧になるのがお好きなのですか?」彼女は話をそらした。
「そういうわけでもない。ただ時折ここへ来て、景色から詩の着想を得るのだ。ここは月がよく見える。」
「待ってください……では、あの夜、小女が見かけたのは……?」
「気にするな。そなたの無礼はもう許した。」
“無礼”という二文字を、彼はわずかに強調した。まるで意図的に。
ここには景色を眺める以外に何があるのか。蚊が多いだけではないか……
鳳雀は詩の文字を眺めながら、つい感嘆してしまう——書を読んだ人というのはやはり違う。思慮も文章への感性も、常人とは一線を画している、と。
彼女の指が、手の中の桃仙の簪をそっと撫でた。上品な色合いに清雅な文様——風流を好む文人たちが特に愛でる品だ。高良に付き添って出かけた折、彼がこれを何度も眺めては、口では「華美で役に立たない」と言いながら、その目には隠しきれない未練が宿っていたのを思い出す。
仲傑の声が、その記憶の糸をふつりと断ち切った。
「今夜、除夕の賑わいを見に行くつもりはあるか?」
「例年は父に付き添って参加しておりますが。」
「今夜のことを聞いている。」
「もし都合がよければ、参ろうかとも思っております。」
仲傑は顎に手を当て、あたかも関係のなさそうな一言をゆっくりと落とした
「安子先生はどれほど忙しくとも、除夕には毎年必ず外へ出る。そして戻ってきてから、街の様子を絵に描いて私に見せてくれるのだ。」
ひと呼吸おいて、その目が静かに沈んだ。
「私が自ら外へ出る機会は滅多にない……とりわけこうして人で溢れかえる日には。ですが、今は父君が御病気で、なかなか……」
「では、公子は景色をご覧になりたいのですね?」
「書に親しむ者として、そういった思いのひとつやふたつ、誰にでもあるだろう。」
「でも公子のお体が……」
言葉が口をついた瞬間、鳳雀は後悔した。
目の前の瞳が、すっと陰った。
プライドが傷ついた。そして、隠しきれないわずかな怒りも。
鳳雀は急いで口を開いた。
「小女が申し上げたかったのは……」
「私を見下しているのだろう。分かっている。夜中に人を盗み見る者が、大した人間でないのは確かだからな。」
その様子を見れば、なだめるのは容易ではないと分かった。
鳳雀は心の中で思った——世の書生というのは、揃いも揃ってこうも扱いにくいものなのか、と。
「小女は絵のことはよく存じませんが……もし公子が本当に景色をご覧になりたいのなら、一度外へ出てみませんか?」
「冗談を言っているのではないだろうな?」口元こそ平静を装っていたが、その瞳には渇望と期待の色が滲み出ていた。
「どうやって?外はあれほど混み合っているし、面倒なことも多い……」
「つまり、公子は行きたいのですね?」
「……ただ、少し気になっているだけだ。」
彼は顔をそらした。
「別に、気にしているわけではない。」
「公子はとても気にしていらっしゃるでしょう。」
だが、言ってしまってから、鳳雀は自分に言い聞かせた——からかいすぎると、この公子はまた顔を曇らせる。
彼女は声を落として、何気なく付け加えるように言った。
「安子大人は今、仲源大人の看病でお手が離せませんし、楊太医もすでに屋敷を出られましたので……」
……
酉の刻。
「先輩、食事もせずに、なぜずっとしかめっ面をしているんですか?」
鳳雀はそう言いながら、湯気の立つ饅頭にかぶりついた。
高旭は箸を卓に突き立て、不満をあらわにした。
「世間の人々はみんな除夕の賑わいを見に行けるというのに、なぜ私だけここに残らなければならないのだ!」
彼は憤慨して言った。
「あの老太医令めが、どうしても私を残すと言い張るのだ。」
「つまり……安子大人のことですか?先輩はもともと安子大人のお側に仕えているのですから、残ってお手伝いするのは当然のことでは?」
「当然は当然だが、私だって外に出て楽しみたい!」
鳳雀はわざとらしく声を長く伸ばし、いかにも残念そうな顔をして見せた。
「まあ……それは残念ですねぇ。どうやら今夜、小女はひとりで除夕の賑わいを見に行くしかなさそうです。なんと心細いことか……」
明らかに、今朝のことへの意趣返しだった。
高旭は聞くや否や目を剥いた。
「騙そうとするな!あなたは私と一緒に残るんだ!どこへも行かせるものか!」
「でも楊太医は小女に残るよう仰っていませんでしたし、傍にいるようにとも……」
高旭は奥歯を噛みしめ、顎の筋肉が張り詰めた。
「こ……このっ……!」
ちょうどそのとき。
「何事だ?」
聞き覚えのある声が、厨房の外から響いてきた。
安子太医が、いつからそこに立っていたのか、両手に薯薬の湯気が立ち上る薬桶を抱えていた。
「薬の煎じ時を逃したいか、若造よ?」
高旭の体が、ぴたりと固まった。
さっきまでの不満顔はどこへやら、今はすっかり神妙な顔つきになっていた。
「た、ただいま参ります!」彼は素早く頭を下げた。
高旭は最後の野菜を口に入れ、箸を置いた。
去り際、鳳雀への恨みがましい一瞥を忘れず、それから安子に従い厨房を後にした。
「あの性格、誰に似たのやら……」鳳雀は目を細めた。
食事を終え、彼女も厨房を出た。
しばらく歩いていると、若い女子が木箱を手に提げ、少し戸惑った様子であたりをきょろきょろしているのが目に入った。
鳳雀の姿を見つけると、その女子はぱっと顔を輝かせた。まるで救いの神に出会ったかのように、小走りで近づいてきて、丁寧に礼をした。
「娘子様、仲源大人のお部屋へはどう行けばよいか、ご存知でしょうか?」
「あなたは……?」
「妾の名は杜線と申します。柔苑夫人のお支度のために屋敷へ伺いました。」
彼女は手の中の木箱を持ち上げて見せた。
「ついでに、仲源大人が御病気とお聞きしましたので、一言お見舞い申し上げようかと思いまして。よろしければ道をお教え願えますでしょうか?」
鳳雀は、現在の状況をどう伝えるべきか、とっさに言葉が浮かばなかった。
「仲源大人は今回、お客様にお会いになるのが少し難しい状況で……やはり病のことですから、娘子もご理解いただけるかと……」鳳雀は遠回しに伝えた。
杜線は残念そうに「まあ」と声をあげた。
「そうでしたか。ただ一言ご挨拶をと思っていたのですが、戻るにはまだ少し早すぎますわね。」
言い終えると、杜線はじっと鳳雀を見つめた。
その視線が妙に落ち着かなくて、鳳雀は思わず頬に手を当てた。
「何かおかしなところでも……娘子?」
杜線がすっと近づいてきた。
口の端がゆっくりと持ち上がり、宴の場慣れした女人特有の、艶やかな色香が滲んだ。
「ただ思っただけですが……娘子のお顔立ちは、もともと悪くない。妾が少し化粧を施してみませんか?」杜線は首を傾けて、甘く誘った。
鳳雀は反射的に少し身を引いた。
「ご親切に感謝しますが……今は……」
言葉を濁し、少し考えてから、恥ずかしそうに小声で言った。
「わ……お代を払えるお銀が、今はないので……」
杜線はそれを聞いても、さして気にする様子がなかった。
「何をおっしゃいますか。今すぐお代を頂こうなどとは思っておりません。ですが……初めてお会いした方にそうも冷たくされては、あまりに寂しくないでしょうか?」
「……」
高浩はずっと、薬草の見分け方や脈の取り方、毒の回避しかこの子に教えてこなかった。
こういう手合いへの対処法は、誰も教えてくれなかった。
しばらく心の中で葛藤してから、鳳雀はついため息をついた。
「……分かりました。お手数をおかけします。」
鳳雀は杜線を東廂房へ案内した。
部屋に入るや否や、素早く扉を閉めた。なぜかは分からないが、誰かに見られたらまずいような気がして仕方なかった。
杜線は木箱を卓の上に置き、慣れた手つきで蓋を開けた。
中には精巧な粉白粉の箱、肌を整える膏、花鈿、簪、耳飾り、そして権貴の女子たちが好んで使う化粧道具が、ぎっしりと並んでいた。
鳳雀は向かいに腰を下ろしたが、まだどこかぎこちなかった。
杜線はいかにも嬉しそうに、袖をまくり上げた。
「娘子、準備はよろしいですか?」
鳳雀が答える間もなく、杜線はもう手を動かし始めていた。
その動きは素早く無駄がなく、長年にわたり各屋敷の女子たちの支度をしてきた手際の良さが滲み出ていた。
まず、米粉を混ぜた鉛白粉を顔と首筋に薄く均一に伸ばしていく。
次いで、杜線は胭脂を使い、両頬にそっと色をのせた。早春の桃の花びらのような、淡い薄紅色が浮かび上がった。
眉を描くのに、いちばん時間をかけた。
鳳雀は眉のあたりを何度も何度も直されるのを感じながら、ただじっと座っていた。杜線は黛で長安流行りの細く弧を描く眉のラインを引き、さらに何本か余分な毛を丁寧に抜いて、眉の線をより繊しゅんと仕上げた。
次に花鈿。
薄い色紙を切り抜いた小さな花の形が、眉間のちょうど中央にそっと貼られた。丁寧で繊細なその仕上がりは、ひと目見るだけで深窓の令嬢の気品が漂うほどだった。
それでも杜線は止まらなかった。
口の端のわずかな部分に紅をちょんと二点——“靨”と呼ばれる飾りを施すと、笑ったときにえくぼのように愛らしく見える。
さらに両側の頬のあたりに薄紅を淡く描き足すと、顔の印象が一気に柔らかく、華やかになった。
最後に、細い筆で唇の中央にだけ、ほんのわずかに口紅を点じた。
唇にふわりと咲いた薄紅は、蕾のような可憐さで、思わず目が離せないほど愛くるしかった。
髪を結う段になると、杜線はまた箱の小さな引き出しを開けた。
中には銀の簪がずらりと並んでいた。梅の花、蝶、柳の枝……どれも見事な彫り細工で、溜息が出るほど精巧だった。
杜線は簪を選びながら言った。
「娘子の髪の色に合うような銀の付け毛は持ち合わせておりませんので、すっきりとした簡素な髪型の方が却って似合うかと存じます。」
鳳雀はすぐに頷いた。
「妾もそちらの方がよいと思います。」
……
二刻ほどかけて、杜線はようやく数歩後ろに下がり、灯りの下で自分の”傑作”をしみじみと眺めた。満足げに手を払い、腰に手を当てて言った。
「やはり妾の腕は衰えていませんでしたね。娘子は今、さっきよりずっと麗しゅうなりました。信じてください、このあと鏡をご覧になっても、ご自身だと気づかないかもしれませんよ。」
鳳雀はまだぼんやりとしたまま、そっと指先で唇に触れた。
薄い紅が唇に馴染まぬ感覚に、無意識に何度か唇を合わせた。なんとも慣れない感じだった。
そのとき、杜線が何かを思い出したように手を打った。
「あ、そうだわ!娘子、それに合うお召し物はお持ちですか?」
彼女は鳳雀を上から下まで眺め回した。
「これほど化粧を施しておいて、お衣装が釣り合わないのでは、妾の苦労が水の泡ではありませんか?」
鳳雀はふと何かを思い出したように目を向けた。
「……実は、ないわけでも……」
そう言って立ち上がり、部屋の隅へと歩いた。
そこには丁寧に結ばれた柔らかな絹の包みが置いてあった。
鳳雀は両手でその包みを抱え上げ、卓の前へ戻ってきた。
外側の絹をそっと解いていく。
杜線はそれまでいつもの穏やかな関心で見ていたのだが——その中のものを目にした瞬間、息を飲んだ。
瞳が大きく見開かれ、本能的に手を伸ばした。見間違いではないと、確かめずにはいられないかのように。
「……これは……」




