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第四幕 どうやらこの陰惨で血腥い最悪な世界にはサンタクロースがいるらしい

コアファン向けに書いた外伝にも意外と宣伝効果があったからか、

なんのかんの本家の読者数も増えてるみたいでちょっと嬉しいです。

この調子でまた閲覧数持ち直してブクマもポイントも増えたらいいなあ。


あ、今回は四話目にして遂にタイトル回収です。

サンタクロース実在の真実とは?

それではどうぞ~

 俺の名前は、北川ナガレ。


『……残った客は俺だけ、か』


 大盛況のパーティも終盤に差し掛かった事実を

 噛み締めるように実感する、蟹座の死越者エクシーデッドだ。



 あれからどれほど経っただろう。

 朧先輩とのゲーム対決は、休憩から復帰したタクシャカ先輩や、

 色々と一段落したらしいファロー先輩にエーレンベルク先輩を交えて更に白熱したが、

 それぞれご家族やらの各方面から呼び出され帰宅していき、

 残る酒を飲んでた面子も軒並み来客用の寝室に運ばれて……


 結局会場に残った来客は俺一人だけになったんだ。



『まだ残っておられましたか、北川くん』


 何をするでもなく物思いに耽っていると、

 団長から声をかけられた。


『ガルゴノーツ団長っ。

 ……ええ、なんだか名残惜しかったもんで。

 まぁそろそろ帰りますが、その前に会場の後片付けでもさせて下さいよ』

『ふむ、来客用の寝室はまだ空きがありますし、

 満足するまで会場に留まってくれていても構わないわけでして、

 会場の清掃も私一人でやるつもりでしたが……

 然しそれが君の意向であるならば、

 手伝って頂くとしましょうか』



 そんなわけで、俺と団長は手分けして会場を片付けていく。

 そもそもの来客数が少なかったからか、作業は案外早めに終わった。



『いやはや、助かりましたよ。やはり協力すると早く終わりますね』

『いやあ、俺はそれほど役に立ってもなくないですかね……。

 早く済んだのは団長の手際がいいからじゃねーかなと』



 その後『手伝ってくれたお礼』ってことで、

 団長に紅茶を御馳走になる運びとなった。


『どうぞ』

『では、御馳走になります……』


 正直紅茶とやらにはそれほど詳しくもない俗人の俺だが、

 団長の淹れてくれた紅茶はそんな俺でも思わず感動するほどの絶品で……

 改めてこの方の底知れ無さを思い知らされた気分だった。


 その後俺達は紅茶と茶菓子を肴に(?)他愛もない雑談に花を咲かせ、

 生前も含めた色々な思い出やら、昨今の裏社会情勢、今年見た中で一番面白かった映画なんかについて語らったりした。


 そして時期が時期なもんだから、

 話題がクリスマス絡みのもんにシフトしていくのはある意味必然だったと思う。



『――――ところで北川くんは、サンタクロースの実在を何歳まで信じていましたか?』

『そうですね……

 信じるってののニュアンスにもよりますけど、

 伝承通りのを丸ごと信じてたのは小学校入る前迄だったかな……』

『ほう、存外早い段階で現実を知ったのですね』

『ってぇよりは……ガキん時から本好きのテレビ好きで色んな知識を仕入れるのが好きでしてね。

 その過程である年にグリーンランドの国際サンタクロース協会と公認サンタクロースってのを知って、


 その時見た本だかテレビ番組だかのキャッチコピーが「サンタクロースは実在する」とかそんなんだったんで、

 幼心に「ああそうか、煙突から家の中入ってプレゼント届けるようなタイプのサンタクロースは居ねーんだな」って悟りましてね。


 それより前から

 「今時その辺の家に煙突なんてねーよな」とか

 「人んち勝手に上がり込むのはヤバくねーか」とか

 「世界中の子供が欲しがるプレゼント毎年買い集めるの無理じゃね?」やら

 「そもそもソリに載らねえし袋が幾つあっても足りねえ」だの

 「いい子と悪い子の判別ってどうやんの?」

 みてーな疑問も抱いてたんで、不思議と腑に落ちたんですわ』

『なるほどっ。そこまで考えが巡るとは末恐ろしい……。

 然しそうならば、だからこそ君にはこの真実を知って頂きたいですねぇ』


 如何にも芝居がかった様子で前置きした団長の口から告げられたのは、耳を疑うような衝撃の一言だった。



『実はね北川くん、これは裏でも余り知られていない事実なのですが……

 サンタクロースは実在するんですよ。


 それも、

 協会公認などという形式的な名目上のものではない、

 正真正銘伝承通りの"本物"がね……!』


『……そんな馬鹿な。

 有り得ねえ……』



 団長の言葉には妙な真実味と説得力があり、

 俺は驚きの余り素っ頓狂な声を上げちまったんだ。


『では、お話しさせて頂くとしましょうか……。

 この世界に実在する「サンタクロース」の過去と現在、

 その軌跡を辿る物語を……』



 〈=皿=〉<結構長いぞ。



『時は遡ること数世紀前……

 魔界二十三閥族も出来ていなかった頃の出来事です。

 後にグリーンランドと呼ばれデンマーク王国の領土となる大地に生い茂る森の奥深くに、

 一人の男が住んでおりました。

 彼の名はニコラウス……魔道を極めた果てに魔人と化した元人間の魔術師でした。

 俗世の喧騒を嫌ったニコラウスは自ら辺境に潜み、

 自給自足の生活を送りながら日々道楽程度に魔術の研究に明け暮れておりました』


 ニコラウス……その名を聞いて俺は驚いた。


『ニコラウス……よもやサンタクロースのモデルとされるあのミラの聖ニコラウスですか!?』

『いえ。それがどうにも、同名なだけで直接的な関係はないようでしてな』

『なんてこった……恐るべき偶然があったもんだ』

『それは私も同感です。


 さて、気ままに何十年何百年と暮らしていたニコラウスに、程なく転機が訪れました。

 彼の数ある趣味の一つには天体観測があったのですが、その最中やけに大きな流れ星を発見したのです。

 一向に燃え尽きる様子のないそれは、彼の自宅近辺へ激しい音を立てながら落下しました』

『まさか、隕石?』

『ええ、ニコラウス自身もどうやらそのように考え、落下現場へ向かいました。

 彼の趣味の中には鉱石収集もあり、取り分け隕石を気に入っていたそうですから。


 然し実際現場へ駆け付けてみると、それは隕石よりも更に珍しいものでした……』



 魔術師ニコラウスが見付けた"隕石より珍しいもの"ってのは即ち……



『端的に言ってしまえば、それは小型の宇宙船だったのですよ』

『宇宙船……! 確かに裏社会には、地球や異界出身の魔物や妖怪のみならず、

 地球外から来られた所謂異星人の方も結構な比率で居られるとは聞きますが……』

『嘗ては地球に異星人が来訪した最古の事例とされていた程です。

 宇宙船が激しく損傷しており不時着したものと察したニコラウスは、どうにかこうにか船内から深手を負ったパイロットを助け出しました。

 地球の言語を会得済みだったパイロットの名はダクロ・ザンタス。

 当時どころか現代の地球よりも遥かに高度な文明を誇るマスリック星系出身の彼は、

 予てよりその資産と技術力を活かしあちこちの惑星を飛び回っては現地の民に贈り物をしたり、人助けをして回る活動をしておりました』

『成る程、宇宙サンタクロースってわけですか』

『ええ、そのようなものです。


 さて、ニコラウスは傷付いたザンタスを自宅へ招き入れ、試行錯誤しながら彼を癒そうと試みました。

 彼の努力は実を結び、ザンタスは見る見るうちに回復していき……

 助けてくれた恩返しにと、彼はニコラウスに自身がこれまで経験してきた宇宙での出来事を話して聞かせ、故郷由来の技術を伝授しました。

 そうこうしている内に二人は互いに心を開きあう唯一無二の親友となっていったのです。


 そして月日が経ち、完全回復したザンタスは星々を巡る旅を再開しようとしましたが、志半ばにして彼は不幸な事故に遭い命を落としてしまいます。

 ニコラウスは深く悲しみましたが、やがて一念発起しザンタスの後を継ぐべく行動を開始しました』


 ザンタスは赤と白の分厚い毛皮に覆われた恰幅のいい獣人の姿をしていたという。

 そして彼の行いに伝承上のサンタクロースを幻視したニコラウスは、

 彼を意識して髪と髭を白く染めて長く伸ばし、また赤と白に染めた分厚い防寒着で彼の毛皮を再現し、

 自身の魔術にマスリック星系由来の技術を組み合わせ、地球上限定と範囲は狭まっちまったものの『クリスマスの夜に世界中を巡り、

 人々に贈り物を届けるサンタクロース』としての活動を始めたんだそうだ。


『最初の何十年かは順風満帆だったのですが……

 やがてニコラウスの活動にも陰りが見え始めました』

『子供が高級品ブランド志向になったとかそんな感じですか?』


 俺としちゃ実際、その質問はあくまで冗談ネタ程度のもんだったが……


『厳密には少し違いますが、そういった理由もあるでしょうね』

『……ネタのつもりだったんですがね』

『時代に伴い人々の価値観が変わったのは事実ですから。


 月日が過ぎるにつれ、ニコラウスの前に様々な障害が立ち塞がりました。

 徹底した法整備により接近すら困難な地域が増え、

 治安の悪化から人々も嘗て程大らかでは居られなくなり、

 暖房器具の発達により暖炉や煙突の備わる一般家庭は激減。

 需要は多様化の一途を辿り贈り物の準備は複雑化、

 その上人々の認識にも変化が生じ、大人は元より子供までもが

 「サンタクロースとは単なる伝承上の存在に過ぎず、

  クリスマスプレゼントは同族ヒトにより用意サれ贈られるもの」

 と考えるようになっていました。

 加えて、北川くんもご存知の通り1957年にはデンマーク王国がグリーンランド国際サンタクロース協会を設立……

 これにより人々は「同協会の傘下に属する公認サンタクロースこそ"実在するサンタクロース"である」と認識するようになり、

 サンタクロースをあくまで伝承上の存在とする言説や、

 その実在を信じる者を嘲笑・愚弄するような風潮への明確な根拠に基づく反撃こそ可能になりましたが、

 ニコラウスにしてみればこれらの出来事もまた向かい風……

 最早地球上にサンタクロースとしての自分の居場所などないと悟った彼は、隠居を決意したのです』

『……』


 これには俺自身黙り込むしかなかった。

 小学生ん時、純粋にサンタクロースの実在を信じてた同級生

 ――マナミじゃねーぞ。まず小学生ん時じゃあいつとは微塵の接点すらねーし――

 が、クラスの性悪バカ男子どもに袋叩きに遭ってたんで助けたことがあったんだが……

 そん時男子どもへの攻撃材料に使ったのがまさに『グリーンランド国際サンタクロース協会と公認サンタクロース』に関する雑学だったからだ。


(当時は同級生を救いたい、あの男子どもを言い負かしたいって考えしかなくて、幼心にマジになっちまってたが……

 ニコラウスにとっちゃそんな俺でさえあのクズ男子どもと同じ「自分を否定した俗世のゴミども」の一人に過ぎなかったんだろうなぁ……)


 斯くしてこのまま歴史の闇に消えゆく運命サダメかと思われたニコラウスだったが、彼に救いの手を差し伸べた奴らが居た。



『時は1973年代、そんなニコラウスの実態を調べ上げ彼に接触を試みた組織がありました。

 その名は「リバーサル・ワンダーランド」』

『リバーサル・ワンダーランド? あの魔界二十三閥族第十二位の組織ですか?』

『ええそうです。元より彼らは「逆立ちするような発想の転換で世界をより楽しく」がモットーのパフォーマー・エンターティナー集団でしてね、

 災害現場でヒーローの精巧なコスプレをして救助や復興の支援活動をしたり、

 直径10メートル重量数トンのケーキや、クジラサイズの超巨大人参といったような、

 おとぎ話や絵本に登場するようなものをそのまま現実に再現したりといった事業を手掛けているのですが、

 同組織は次なる事業として、伝承上のサンタクロースを現実のものにすべく立ち上がったのですよ』



 その後ニコラウスを説得し身内に引き入れたリバーサル・ワンダーランドは手始めにグリーンランド国際サンタクロース協会の運営権を引き継いだ。


 そしてそれまで無償労働を強いられていた公認サンタクロース達を改めて高給かつ福利厚生充実の好待遇で雇い入れた。

 そして協会は彼らに魔術や異能、人外の肉体を授け、様々なクリスマス関連の事業を手掛け乍ら

 嘗てニコラウスがそうしていたように、毎年12月に各国で贈り物を配ったり、人々の頼み事を聞き入れたりといった"サンタクロース活動"を担うようになったんだそうだ。


『さて、それでこのまま上手く行けば良かったのですが……』

『まだ何か問題が?』

『ええ。あれは2000年代の中盤か、2010年代頃でしたかね……

 それまで"サンタクロース活動"に関与していなかったデンマーク王国が、急にグリーンランド国際サンタクロース協会の運営権を主張し始めましてね。

 リバーサル・ワンダーランドはじめ魔界二十三閥族全体が多忙を極めた時期の混乱に乗じて、協会を実質的に乗っ取ってしまったのですよ』



 王国側がそんな暴挙に及んだ理由は定かじゃねぇが、

 一説には財政難に陥ったんで協会の保有する莫大な財産を狙ったんじゃねぇかとか、

 協会を通じて裏社会ひいては魔界二十三閥族と接点を持つことで魔物や魔力の軍事利用を目論んだとか言われてるらしい。

 あとこれは公になってないんだが……どうも今回の一件、王国内部の反乱分子を誑かした黒幕がいるってのはほぼ確定事項らしい。


 その後、それまでの運営陣を排斥しデンマーク王室と政府関係者が運営することになったグリーンランド国際サンタクロース協会は、国益追求の大義名分を得て著しく腐敗・歪曲していくこととなる。



『諸事情により協会に縛り付けられた公認サンタクロースたちへの待遇は目に見えて悪化の一途を辿り、まともな休息もなく法外な薄給でこき使われるばかり。

 その上王室と政府は嘗て無償で行っていた"サンタクロース活動"を有料会員限定の有償サービスへと切り替え、法外な会費を取り乍ら安値で仕入れた不良品や贋作を高額で売り付けたり、

 「会員の願いをなんでも叶えるのが公認サンタの役目だ」といっては公認サンタクロースに明らかな無理難題を押し付けたり、

 デンマーク王国の敵と見做した国家の会員を公認サンタクロースに命じて殺させたりといった悪行に手を染めたのです。


 無論それで民衆が黙っていようハズもなく、協会は膨大なクレームや訴訟に見舞われますが……

 王室と政府はその全てを権力でねじ伏せ、手に余る事例は全責任を適当な公認サンタクロースに押し付け逃亡したりとやりたい放題でした』

『そいつぁメッチャ許せませんなァ……』

『私も同感ですよ。

 ただ魔界二十三閥族、取り分け元来長きに渡り協会を運営してきたリバーサル・ワンダーランドがそのような蛮行を許すワケもなく、

 各組織から集められた精鋭たちはグリーンランド国際サンタクロース協会を取り戻し浄化すべく動き出し、戦いを有利に進めつつあるのも確かですがね……』

『そりゃ何より。精鋭の皆様方には是非とも華々しく勝利して頂きたいもんですなァ』


 それはそれとして、俺は一つ気になった事柄を聞いてみた。


『そういえばガルゴノーツ団長、魔術師のニコラウス様は……』

『あぁ、未だご存命ですよ。

 王国に乗っ取れられるより前の段階で国際サンタクロース協会の運営を辞任され、

 現在はリバーサル・ワンダーランドの要職に就いておられますがね』

『そりゃ何よりです。もし彼までもが王国傘下のサンタクロース協会に所属してたらイヤだなぁって、心配してたもんですから』

『それは私も思いますね。

 彼は責任感が強く繊細な所があり

 辞任後でも乗っ取りの事実を知って大変なことになったと聞きますし、

 まして彼の在任中に乗っ取られたとしたら何が起こるやら』



 その後も暫く団長と話し込んだ俺は、日付が変わるより前には紅楼館を後にしたのだった。




次回、クリスマスでも戦いからは逃れられない!

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