第三幕 恐るべき怪物どもの壮絶な戦い……が勃発すると洒落にならないので、穏便に済ませようと思います
天秤座の死越者、朧トモエとは一体どんな人物なのか!?
(色々あって投げやりになった前書き)
俺の名前は、北川ナガレ。
『さあ北川ぁ! 互いの命果てるまで存分に戦おうではないか!』
『……あくまで拡張現実ゲームなんでそうそう死なねえと思いますが、
まあやるからには全力でお相手させて頂きますぜ、朧先輩……』
ひょんなことから天秤座担当の死越者、隻眼のボーイッシュ巨乳美人こと"朧トモエ"先輩とカードゲームで対戦させて頂くことになった、蟹座担当の死越者だ。
『ゴッラァァァァ! 朧ぉ! あんら絶対にかちらさいよぉ!?』
『風ぁぜ属性星座最強の武闘派の意地、見せつけちゃいなっさぁぁああああい!』
『ああ、任せるよい。断言はできんが全力は尽くさせて貰おう』
『北川くぅ~ん! 水属性星座の先輩として命令しましゅっ!
無理しれ勝ららくていーからあ! 可能な限り苦ひめらしゃいいっっ!』
『グゥゥンウゥォォォオオオ……! 先輩だからと忖度は要らんで御座るゥ……!
どうせ朧は頑丈故そう簡単に死なんのでなぁ!』
『ええ、へえ……頑張らせて頂きます(だからゲームだしそうそう死なねえって……)』
何故こうなったんだかの経緯……より先に、朧先輩について詳細に述べておいた方がいいだろう。
朧トモエ先輩は、東北出身の死越者で天秤座を担当する武闘派だ。
女性としちゃ中々の長身に加え、女性死越者の例に漏れず滅茶苦茶美人でスタイルがいいし乳もでかい。
全体的な雰囲気としちゃ、どこか爽やかな色気に加え、魚座担当のファロー先輩とは別ベクトルの神聖さに野性的な荒々しさを併せ持つ……例えるならそう、肉食獣タイプの神獣とか、それを従える武闘派の女神って印象だな。
加えて殆どが生前は"普通の人間"だった死越者にあって例外的に特殊な一族の出身で、
それぞれ御父君は平安から続く由緒正しき霊能者一族"月華家"の中堅、御母君はとある政財界の名家に代々仕えてた忍者一族"応龍家"のエリートだそうで、
衰退しつつある両家の合併を象徴する奇跡の子としてこの世に生を受けたんだそうだ(より厳密には、若かりし日のご両親がお互いの素性を知らないまま出会い結ばれたのが合併の切っ掛けだったとかそんな感じらしいが)。
性の朧は両家が合併して朧一族と名を改めたのに由来してるとか。
さてそんなガチめに特別な一族出身の朧先輩は、血統と家庭環境に恵まれた上当人の先天的な素質も素晴らしく、
しかもご両親の教育がしっかりしてたお陰で(ガチなオタクになったり変な性癖に目覚めたりはしたらしいが)大々的に道を違えたりとか慢心したりなんてこともなく、朧一族の次期当主候補として順風満帆な日々を送っておられた。
大学在学中に恋人もでき、卒業後結婚しようと約束してた程だった。
しかもその彼氏様ってのが朧先輩とは別ベクトルでハイスペックなお方で、一族も彼の受け入れには積極的だったようなんだが……ただ一人、お二人の関係を認めない奴がいた。
そいつの名は炎龍ヤサコ……応龍家の分家筋で本家筋に仕える一族"炎龍家"に生まれた爆発物の天才で、色々あって幼少期から朧先輩の従者として寝食を共にしていたようなんだが、
どうも結構早い段階で朧先輩への忠誠心を妙な方向に拗らせちまってたようで、彼女を守り助ける為と言っては度々騒ぎを起こす問題児だったそうだ。
警察や児相の世話になった回数も少なくはなかったが、朧先輩の意向を尊重した一族が各方面に圧力をかけたお陰で前科がつくことはなく……
だがヤサコはその事実に調子付き、自分を省み改めようとはしなかった。
結果、ヤサコは遂に致命的なバカをやらかした。
色々拗らせまくった奴は朧先輩と彼氏様の関係を当初より全否定していて、当然結婚にだって猛反対。暴走に次ぐ暴走は一族内での立場をも無くす結果を招いたが、自分を特別な存在と勘違いし非を認めようとしないヤサコはあまつさえ『自分は間違っていない。間違っているのは一族の方だ』と反発。
とうとう慕っていた朧先輩にさえ実質見放されてしまうワケだが、奴は尚も諦めず彼氏様を逆恨み。
彼の自宅に爆発物を送り付け、殺害を企てた。
だが数多の偶然が重なった結果、その爆発物に殺されたのはよりにもよって彼氏様ではなく朧先輩で、救急搬送された彼女は一命を取り留めるも程なく命を落としてしまう。
その後一族を追放されたヤサコが警察に逮捕され、そして朧先輩が死越者として蘇られたのは言う迄もなく……
ただ、一度殺されたにも拘わらず彼女は尚もヤサコに同情していて『堕落させてしまった原因は自分にもある』と、一連の件に責任を感じてるんだそうだ。
(……とまあ、ここまで書くと単なるシリアス系キャラなんだが、
実際の所は斎川先輩程じゃないにせよ性欲強めだし重度のオタクだし色々変な性癖は持ってるしで、
良くも悪くもエキセントリックでキャラの濃いお方なんだよなあ……)
因みに死越者と化してからも朧一族との縁は切れておらず、事情を知った一族はアンデッドと化した彼女を改めて家族として迎え入れたそうだ。
あと死別したと勘違いして精神病んだ挙句なんか魔物化してた彼氏様とも目出度くゴールイン、現在は一児の母として子育ての傍ら戦場やらに身を投じてると聞く。
さて、それから何と言っても朧先輩と言えば語っておきてぇのが隻眼に関するエピソードだ。
というのも彼女はご自身の右目を眼帯で覆っておられるんだが、
これは傷病によるもんじゃなく――『おい、北川!』
……おっといけねぇ、朧先輩にどやされちまった。
『何です朧先輩?』
『"何です"ではないであろう! 独白が長過ぎるぞ!
もうここ迄で2400字、流石に長引かせ過ぎだ!』
『申し訳御座いませんね、朧先輩はネタに事欠かないお方ですからして』
『だとしてももっと簡潔にできんのか。
これでは読者が飽きてしまうぞ』
『そりゃ確かに……んじゃ始めると致しますかねェ』
『あぁ、全力で来るがいい……!』
『では、お言葉に甘えて……』
『うむ、いざ尋常に……』
『『決闘!』』
ってなワケで向かい合った俺達は、手札片手に対戦を開始するんだが……
その前にこうなった経緯について簡単に説明させて頂こう。
前回終盤、
フオン先輩&カーマ先輩 対 斎川先輩&ハン先輩による乱闘騒ぎの勃発を鶴の一声で止めてみせた朧先輩。
当然当人たちは彼女に食って掛かるが、巧みな話術で四人を丸め込んでしまわれた。
そして『仲間同士で争うなど不毛。ここはゲームで決着をつけるべきだ』と提案されたが、
四人はそれぞれ得意なゲームジャンルがバラバラで試合が成立しねぇ事実が発覚。
やっぱ乱闘しかねーのかと思われたが、朧先輩は機転を利かせ『ならば勝負を何者かに代行させればよい』との代案を提示……結果、俺が朧先輩の対戦相手に選ばれたってワケだ。
対戦種目は相談の結果、二十年以上の歴史を誇るカードゲーム『遊侠王OCS』に決まった。
しかも『死んでからはカード買ってない』と言ったら立体映像でカードの画像なんかが実体化して動いたりする大型ゲーム機を出して下さったんだから全く……(尚件のゲーム機は普通大都市のアミューズメント施設ぐらいでしか見ねぇ高級品だが、事もあろうに朧先輩の私物だってんだから驚きだ)。
『先ずはダイスで先行後攻を決める……』
朧先輩の宣言通り、互いの陣地の上空へ立体映像の賽子が現れ不規則に回転。
やがてピタリと静止して、示された数字は………
『ふむ、私が5で北川が3……つまり私が先行後攻を選ぶ権利を持つわけだ』
遊侠王OCSのルールだと、先攻プレイヤーは素早く動いて下準備にリソースを割ける点で有利なのに対し、
後攻プレイヤーはゲーム開始時点での手札が一枚多く、かつ戦闘が行えるって利点がある。
さて、果たして朧先輩の選択肢は……
『折角だ、私は先行を選ばせて貰おう』
『では、俺が後攻ですね』
先行か。つまるところ妨害やら何やらでこっちの動きを縛るつもりのようだ。
(動きづらくなっちまったらやだなあ……)
まぁ、あくまでフリーの野試合だから負けても構やしねぇんだが、
折角やるからには精一杯暴れてそれなりの結果は残してみてぇってのが人情だろう。
さて、どうなるか……
〈=皿=〉<で、暫く経って……
『――ここで持続ギミック《御国への狭き門》を発動。
更に継続して《二重盾の構え》を《指切り反転蟹》を対象として発動。
継続発動の逆順処理により《二重盾の構え》の効果を先に適用し、
効果により対象である《指切り反転蟹》の防御力を二倍にします』
[ギィギッギギギィ!]
『防御力6000か。そうそう簡単には突破できんか……』
最新鋭の拡張現実システムがカード画像を実体化させ、
あたかも部屋の一角をTCGアニメ宛らの空間に変える。
『だぁぁぁぁ! ヤバいじゃないか!』
『朧さぁん!? 大丈夫なのぉ!?』
『さぁーっすが北川くんっ! 君はできる子だってあたしは信じてたよ!』
『やってしまうで御座るよ北川ァ! 一気に決めてしまうで御座るゥ!』
お陰でただのカードゲームだってのに、プレイヤーも観衆も妙に本気になっちまっていたんだ。
『然しいいのか北川? 《指切り反転蟹》のステータス反転効果はあくまで「防御力を0にし攻撃力を3000にする」効果に過ぎず、
そもそも素材がない状態では効果発動さえ不可能……
しかも攻撃姿勢では折角上昇させた防御力も意味がなく、
《御国への狭き門》の制約により実質防御姿勢への変更もできんだろうに……』
『ご心配なく、これも策の内ですんでね。
続いて手札からスキルカード《小悪党の再起》を発動。
効果で墓地に存在する攻撃力0の《BM システムバイター・キュバン》を手札に回収。
その後、墓地に存在する《BM クラック・ニトロ》《BM ハック・パウダー》《BM ジャック・ガス》をゲームから除外し《システムバイター・キュバン》を手札から特例召喚します』
[――システムバイター・キュバン、現着――
――持続効果、適用――]
『《キュバン》の持続効果が適用され、
場に存在する全攻撃姿勢ユニットの攻撃力と防御力が反転……。
これで《キュバン》は攻撃力3000、《反転蟹》は攻撃力6000ッ』
[ギィギッギギギギギッ!]
[――試算中――試算中――戦闘ヲ行ウ事ニ依リ、
コノターン中ニ勝利条件ヲ満タシ得ルトノ試算結果アリ――]
『ふむ。初期ライフ12000をも一撃で刈り取られてしまう恐ろしい状況だな……
だが見縊ってくれるな、セットカード発動!
持続ギミック《名医どうもの施術》発動!
墓地に存在する《稲妻鼬》を対象とし蘇生後、装着スキルカード扱いで装着する!』
『おっと、そいつはマズい……!』
《稲妻鼬》は朧先輩が愛用しているお気に入りのカード。
単純にステータスが高く先頭に強いのは勿論だが、彼女自身の在り方を体現するような豪快な効果を持っているんだ。
「そして蘇生された《稲妻鼬》の効果発動!
自身が場に出た場合、任意で自身以外のカードを全て破壊できる!』
[クワアアアアアッ!]
[ギュギイイイイイ!?]
[――破壊効果、抑止不能――]
『ぬうおっ!? やっぱりそう来ますか!』
あっという間に俺のフィールドはがら空きになってしまった。
しかも《稲妻鼬》の全体破壊効果は本来発動するターン戦闘を行えなくなっちまうデメリットを持つが、
能動的な戦闘を行えねぇ相手ターンに発動しちまえば実質あってないようなもんだ。
(とは言え《名医どうもの施術》で蘇生した関係上、
装着カード化した《施術》がフィールドを離れると連動して蘇生対象の《稲妻鼬》も破壊されちまうハズだが……)
『ともすれば必然《名医どうもの施術》で蘇生した《稲妻鼬》も破壊されるが……
この時私は墓地に存在する《影武者サビ》の効果発動!
墓地から除外することで、自分フィールド上のビースト一体に発動ターン中の完全破壊耐性を付与する!』
[キュゥーッ!]
[クアアアアア!]
『そういえば手札コストで墓地に落ちてましたね《影武者サビ》!』
ほんとファン構築乍ら隙がねぇよ。だが俺だってやられっぱなしじゃ終わらねぇ。
『最低限の戦線維持はさせて頂きますぜ!
俺は墓地に存在するギミックカード《悪は挫けず諦めず》の効果発動!
自身をバックゾーンにセットする!
そして《悪は挫けず諦めず》の再利用効果を発動するターン、
自分フィールドの闇属性ユニットが破壊されていた場合、
ギミックカードの原則を無視してセットしたターンであっても発動が可能となる!』
『なんだと! セットしたそのターンにギミックを!?』
『よって俺は自身の再利用効果でセットした《悪は挫けず諦めず》を発動!
墓地か除外領域に存在する闇属性ユニットを蘇生・帰還させる効果で《BM システムバイター・キュバン》を蘇生させます!
自身の効果で特例召喚した《キュバン》は蘇生・帰還に関する制約が解消されますんでねぇ!』
[――システムバイター・キュバン、再現着――
――持続効果、適用――]
『再び《キュバン》持続効果でステータスが反転する!』
『つまり《稲妻鼬》は攻撃力1500の防御力3000か……』
[クアアアア……]
『やれやれ、やはり厄介だな《キュバン》は』
『ま、出すの面倒だし癖は強いですがねぇ。
さて、自身の効果で再利用した《悪は挫けず諦めず》は発動等によりフィールドを離れるとゲームから除外されます。
そして俺はターン終了』
『ふむ、よかろう。では私のターンだ、ドローッ!』
……とまぁ、
そんな感じで進行していった対局だが……
『バトルだ!
《稲妻鼬》で北川に直接攻撃!
"電撃咬撃"!』
『やっぱ駄目かーっ!』
俺の小細工じゃ朧先輩の大胆さには敵わず、
最終的な軍配は先輩に上がったのだった。
『お見事です、先輩。
やっぱ真面目に取り組んでおられる方は構築もプレイングも違うんだなって思い知らされましたね』
『何を言うか。
構築や戦術そのものは貴様の方が上であったろう?
私が勝てたのは運と相性のお陰であろうよ』
てな感じで白熱した対極は幕を閉じ、
これで終わりかと思いきや……そうでもなかった。
『ちょおおっとぉ!? 北川くん何負けてんのぉ!?』
『いやーすみません斎川先輩、この埋め合わせは必ず』
『ヌヴヴヴァァァァ……埋め合わせなど要らぬぞ北川!
そも斯様な試合は無効! 無効に御座ろうッ!
もう一戦、より実力の出る種目で戦え朧ォッ!』
『なぁんだいなんだい、自分らが負けたからって駄々捏ねちゃってみっともないねぇ!』
『……とは言え、確かにカードゲーム程度で決着というのもおかしな話っ。
いいわ……種目を変えて二回戦よ! 朧、当然やるわよね!?』
『ああ、元よりそのつもりだが……構わんだろう、北川?』
『……ええ、先輩方にそうまで言われちゃ引き下がれませんや』
斎川先輩とハン先輩が俺の敗北に不服を申し立てられたもんで、種目を変えての二回戦と相成った。
『実を言うとこのゲーム機は遊侠王OCS以外の様々なカードゲームやボードゲームにも対応していてな?
まあ私が知っているカードゲームは遊侠王だけなのだが……次の種目はボードゲームとしよう。
異論はないな北川?』
『ええ構いませんとも。ボードゲームなら死後も何度かやりましたんでね』
記憶に新しいのは療養中にマインデッド邸で開催された『Kaiju on the Earth』の大会だ。
この大会で俺は(エキシビションマッチにゲスト枠で参戦しただけだが)第一作『ボルカルス』部門で前大会優勝者に勝利した実績がある。
朧先輩がどれほどの腕前かはわからんが、斎川先輩とハン先輩の期待に応えられる確率は幾らか上がるだろう。
種目に選ばれたのは種子島が舞台の昔話『すずめどんの鬼征伐』を題材にした『スパロウズ・アヴェンジ 種子島死闘編』って対戦型ボードゲームだ。
『「すずめどんの鬼征伐」は知っているか?』
『ええ、それなりには。
言っちまえば「猿蟹合戦」の親と子の立場が逆転したヤツでしょう?
種子島に暮らす母雀は我が子を鬼に食い殺され、
これ以上の犠牲を出さない為にも鬼を始末しようと決意する。
道中、同じく鬼の被害に遭ったマテバシイ、マチ針、ムカデ、モクズガニに加え、
義憤に心打たれた牛糞、荒縄、木臼が仲間に加わり、
一行は鬼の根城へ向かう』
『そして母雀の巧みな戦略と、
仲間たちによる捨て身の活躍あって鬼は撃退され、
種子島に平和が戻った……』
『スパロウズ・アヴェンジ』はそんな原典の"鬼を撃退する場面"を巧みに換骨奪胎し"母雀軍団と鬼が繰り広げる死闘"へ昇華させたゲームで、
プレイヤーは母雀軍団か鬼のどちらかになり、双方それぞれに定められた勝利条件
――母雀軍団プレイヤーは鬼を撃退・再起不能・死亡の状態に追い込むこと、
鬼プレイヤーは母雀軍団の全滅――を目指して戦うって内容だ。
ゲーム上での特徴としちゃ、母雀軍団と鬼はどっちも能力カードによる自己強化システムを持ち、
母雀軍団はメンバーの多さによる戦略性に優れ、
鬼の方は圧倒的な攻撃力と継戦能力の高さがウリらしい。
『さてそれでは、どちらがどの陣営をやるかだが……
北川、よければ鬼は私に譲ってくれないか?』
『ええ、構いませんよ。俺も丁度母雀軍団でやりたいと思ってた所です……
何せ母雀んとこにはモクズガニが居ますんでね!』
『ふむ、蟹繋がりか……これは油断できん戦いになる気しかせんなぁ!』
さぁ、そんなわけで二回戦の開幕だ。
〈=皿=〉<で、実際どうなったかっつーと……
『俺のターン、母雀で鬼に攻撃します』
『くっ、固有能力により雀の機動力は常に鬼を5上回っている……!
回避はできんか……だが能力カード「鉄面皮」「厚顔無恥」それぞれの効果が適用され身体・精神へのダメージは軽減され実質無効!』
『当然承知の上ですとも。
攻撃時、戦闘実績を一点消費し山札からカードを一枚ドローします。
引き当てたのは雀の能力カード「戦略的誘導」!
その効果を適用し、一ターンに一度任意の方向へ合計五マス迄、鬼を強制移動させます!
鬼には玄関口の方向へ三マス、更にその後右へニマス動いて頂きましょう!』
『何ぃ!? 玄関口だと!?
鬼を囲炉裏の方向へ五マス直進させれば、
確立次第だがマテバシイからのマチ針、ムカデ、モクズガニと連鎖させ大ダメージを与える原作再現コンボが狙えた筈ッ!
それを何故、木臼と荒縄の復帰が見込めぬこの戦況で牛糞の待つ玄関口へ誘導するっ!?』
『原作再現だけがゲームの勝ち筋じゃねーってことですよ。
移動した鬼が牛糞と接触した為、鬼と牛糞の戦闘が発生します』
『牛糞の固有能力により鬼との戦闘は互いにダメージ無しの状態でスキップされ、
鬼は転倒……するところだが、捨札領域にある能力カード「不動の体幹」の効果発動!
このターン鬼が戦闘回数三回以内で転倒した場合、
自身を捨札領域から山札の一番下に戻すことで転倒を無効化!
更に「鉄面皮」「厚顔無恥」の効果で身体・精神的ダメージは無効だ!』
『なるほど……ではマテバシイの能力カード「熱量蓄積」を発動。
マチ針、ムカデ、モクズガニを隠遁させ、マテバシイは熱量カウンターを三つ獲得します。
これによりマテバシイの持つ熱量カウンターが15個に到達……
マテバシイを赤熱状態に移行させターン終了です』
『ぬぅ、赤熱状態のマテバシイとは厄介な……
母雀の「戦略的誘導」で囲炉裏周辺2マス圏内に誘導されたら大ダメージは免れん。
どうしたものか……』
試合は遊侠王OCSの時と同じか、もしくはそれ以上の盛り上がりを見せていた。
どうやら四人の先輩方は酔い潰れて寝ちまったようだが、朧先輩と俺の間に闘志があるならそれでいい。
白熱した試合は続いていき……
『俺のターン、母雀で鬼を攻撃。
攻撃時、戦闘実績一点で山札から一枚ドロー。
手札に加わった能力カード「攪乱」の効果を適用し、
鬼を現在位置でこのターン行動不能にします』
『くっ! 動けんっ! だが体力と気力は相当量回復済み、
満タンには届かぬ迄も双方ともに180ある!
この量を削り取るならば木臼による大ダメージか荒縄による即死攻撃しかないが、
然し現状は両者とも再起不能状態、復帰にはまだ暫くかかる……
よってこのターンでの私の敗北は有り得んぞぉ!?』
『果たしてそれはどうですかねぇ?』
『何ぃ!?』
『攪乱により行動不能状態の鬼へ、マテバシイで攻撃します』
『バカな! 鬼の位置は囲炉裏から12マスも離れているのだぞ!?
如何に熱量カウンターを25個獲得した爆熱状態のマテバシイとは言え、
12マス先への遠距離攻撃では威力減退を起こし十分なダメージを与えられないハズっ!』
『ええ、その通りです。だからこそ今迄温存しておいたこのカードを使うんですよ。
汎用能力カード「嚇怒の炎」を発動します』
『なっ、「嚇怒の炎」だとぉ!?』
『効果処理としてダイスを振り、
出目の半分の数値だけ場に存在する何れかのカウンター一種類の数を倍増させます。
この時小数点以下は切り上げとなりますが……
俺の出目は4。つまりカウンターの数は二倍になる。
俺が倍増させるのは当然マテバシイの保有する熱量カウンター。
これによりマテバシイの熱量カウンターは40個となり……臨界状態へ到達します』
『臨界状態、だとぉ……!?』
『臨界状態となったマテバシイは、
距離を問わず鬼に体力残量の半分の身体的ダメージと、20の精神的固定ダメージを与えます。
またこの攻撃は如何なる防御・回避・能力も受け付けません』
『ぐぅぅうううっ! あれだけ必死に回復させた鬼の生命力が、一撃で半分に……!
更には精神的ダメージを20点も喰らってしまった……!
これでは死亡せずとも再起不能や撃退による敗北のリスクが……!』
『朧先輩……貴女は尊敬すべきお方です。決して怨んじゃいません。
だがその鬼は、種子島に暮らす罪なき命を奪い過ぎた……
母雀の雛も、マテバシイの家族たちも、マチ針の兄貴の縫い針も、ムカデの仲間も、モクズガニの同胞も!
原典じゃ撃退に留まったようですが……
俺もまた屍人に、家族となるハズだった相手を奪われた身です。
鬼の暴虐に苦しめられた種子島の民の気持ちは痛いほどよくわかるんでね……
今回ばかりはそいつ、殺しますわァ……!』
『ほう、面白い。マチ針にモクズガニ、ムカデと牛糞で残り90ある鬼の体力を削り取れると?
やってみるがいい……奇跡を起こして見せろ我が後輩、蟹座の死越者よ!』
『言われるまでもありませんや。
俺はここで連携攻撃を宣言します。
役は四つ……
マチ針・モクズガニ・ムカデで"出血させるもの"、
モクズガニ・ムカデで"数多の足さばき"
ムカデと牛糞で"人畜有害"
マチ針と牛糞で"鋭くそして穢れている"
効果処理……
"出血させるもの"の効果によりマチ針、モクズガニ、ムカデの各攻撃力が3以下の場合一律で4になります。
"数多の足さばき"の効果でモクズガニとムカデはこのターンそれぞれ二回攻撃が可能になり、
ムカデはモクズガニの特性である水中行動としがみつきを、
モクズガニはムカデの特性である毒攻撃と俊足を獲得。
"人畜有害"の効果でムカデの攻撃に、
"鋭くそして穢れている"の効果でマチ針の攻撃にそれぞれ細菌媒介の特性を付与。
そしてマチ針、モクズガニ、ムカデで攻撃。
まずはマチ針の攻撃で4点ダメージ。
更にマチ針の攻撃には細菌媒介が付与されているため鬼は感染状態になり、
向こう2ターンの間、キャラクターとプレイヤーのあらゆる動作をトリガーに3の身体的・精神的ダメージを与えます。
マチ針は攻撃終了時待機状態に移行しますが、
その動作も感染ダメージのトリガーになるため3点のダメージ』
『ふむ、これで残り体力83……まだだ、まだイケるな』
『果たしてそうですかねぇ?
続けてムカデの二回戦攻撃で合計8点ダメージ。
それぞれの攻撃に毒攻撃が付与されるため追加ダメージが各2点で合計4点。
以後鬼は毒状態になり、他のキャラクターの攻撃と
プレイヤーのターン終了・開始宣言をトリガーに毒の追加ダメージが入ります。
あとムカデの攻撃も感染ダメージのトリガーになるんで合計6点の追加ダメージ。
んでムカデも細菌媒介の特性を持つんで鬼は追加で感染状態になり、これ以後追加で6点ダメージ入ります』
『予想外にダメージが入るものだな……残り体力65か』
『まだ終わりませんがね。
続けてモクズガニで攻撃。これも二回なんで8点。
毒の追加ダメージがムカデと同じく一度の攻撃につき2点で合計4点。
序でにムカデによる毒状態分も追加ダメージが入るんでまた4点。
モクズガニの二回攻撃に際して感染ダメージが各3点の3倍の二回攻撃で18点』
『残り31……! まだ厳しいが大丈夫かぁ?』
『問題ありませんや。
俺はここでモクズガニの特性しがみつきを適用します』
『しがみつき……!?』
『ええ。しがみつきは本来攻撃終了時にコイントスを二回行い、
二回とも表だった場合追加攻撃を行える特性ですが、
他にしがみつきが付与されたキャラクターがいるなら、
そのしがみつきの適用を放棄することで
二回中一回のコイントスは表が出たものとして扱いスキップできる。
俺はムカデのしがみつき適用を放棄し一度目のコイントスを表が出たものとして扱いスキップ』
『ふん、やりおる。
だがそれでもコイントスの成功率は1/2……失敗の可能性からは逃れられんぞ』
『勿論承知の上です。
そして俺はこんな所で運に頼るような博徒じゃない。
モクズガニの固有特性、自切を適用』
『じ、自切っ!?』
『自切の適用により、
しがみつき適用時の攻撃で発生する全ダメージを半減させる代わりにしがみつきのコイントス一回を表が出たものとして扱いスキップできます。
これによりダメージは半減するが攻撃は確実に通ります』
『ぬぅぅん!?』
『そしてこのモクズガニの攻撃で入るダメージは19点』
『……結果、鬼の残り体力は12点……!』
『ええそうです。そして俺はターン終了を宣言……
このターン終了宣言をトリガーとして、毒と感染の追加ダメージが入る……!
その合計は17点!
種子島のクソ鬼ィィ……!
てめえは余りにも多くの命を奪いすぎた……!
その罪は懲らしめる程度で許されるもんじゃ到底ねえ!
よってクソ溜めの底で腐った糞尿より汚ェ血と
臓物を撒き散らし乍ら苦しみ抜いて死にやがれェ!』
『ふむ……負けたよ、流石だ北川。
よもや初見にしてこの「種子島死闘編」をここまで理解し尽くすとはな』
『いえいえ、それほどでもありませんや……』
次回、とうとうタイトル回収!
果たしてこの最悪な世界に実在するという『サンタクロース』の正体とは!?




