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閑話 ガス・ワイルダー

本編と特に関係のない話です。読み飛ばしても構いません。あと、短いです。

 

 フレティア島より遥か南、エーオシャス大陸北部のほぼ中央に位置する平原で今二つの軍が干戈を交えている。見たところ一方の軍は平原を一望できそうな丘に上り一方の軍を見下ろす形だ。それを攻めるもう一方の軍は丘の傾斜に突撃の威力を削がれ、雨霰と打ち出される丘の上の軍の矢に射竦められている。この軍が、軍としての形を失うのも時間の問題であろう。


 そんな中、恐らく丘の後方に回り込むつもりだろう、丘の上の軍に見つからないよう巧みに隊列を変えながら窪地を縫い走る騎馬の一団があった。騎馬の一団の丁度中央には指揮官であろうか、やや華美な革鎧を纏った男が憮然とした表情で馬を走らせている。


 「隊長!もうそろそろ敵の側方です!司令官殿からは敵の側方を衝けと言われていますがどうしますか!」


 指揮官の副官であろうか指揮官の横に馬を寄せ、騎兵らしい声の張っただみ声で指揮官に話しかけている。その言葉を聞くと指揮官だろう男は眉間に寄せていた皺を更に深くしつつ答える。


「側方の傾斜は敵正面の傾斜よりも急だ、地図を平面でしか見れんボンクラの命令など無視して傾斜の緩い敵の後方に回り込むぞ」


 どうやらこの指揮官は命令無視を行うようである。神経質かつ冷酷そうな顔の割に大胆なことをやり遂げる男のようだ。


「はっ!それでは先頭での指揮に戻ります!」


 命令無視の命令にどこか嬉しそうな声で返事をして馬腹を蹴って先頭に戻っていく。騎馬の一団はその巧みな動きで首尾よく丘の後方にたどり着いた。彼らは馬を休ませるため歩みを遅くし突撃のための陣形へとゆっくりと形を変えていく蛇のような隊列は次第ゝに幅を広げ瞬く間に蟻の這い出る隙間のないような見事な横隊となっていた。指揮官であろう男が抑揚がなく部下に聞こえるかもわからない声で命令を下す、


「押し潰せ」


 丘の上の軍が後方の騎馬に気付いた時には全てが遅かった。騎馬の一団は徐々に歩みを速め陣に近づいていく、丘の上の軍が騎馬を阻止するために弓隊の一斉斉射を後方に放とうとした丁度その瞬間、騎馬の一団は陣に踊り入った。


 騎馬の突撃が成功した後、戦いはあっさりと終ってしまった。騎馬の突撃に浮き足立った丘の上の軍は隊列を崩すと散り散りとなって丘を下っていった。その大半は正面で待ち構えていた自分達がつい先ほどまで射竦めていたはずの軍の前に向かって駆け下りる形となった。


 結果はどうということはないただの殲滅戦である。戦う意志のあるものは――もっともほとんどいないが――待ち構える軍に揉み潰され、意思のないものは武器を投げ出し敵に降った。

 



 捕虜となった敵軍の兵を眺めつつ騎馬隊の副官であっただろう男は隣の指揮官だろう男につぶやく、


「……えらく呆気ない戦いでしたなぁ」  


 隣の指揮官であろう男は戦いの前から続く憮然とした表情のまま答える。


「当然だ。こいつらの大半は長耳族エルフの弓兵、北のフレティア王国から売られてきた農民に無理やり弓を握らせ訓練した連中だ。こいつらは器用だからすぐに弓の扱いを覚える、だが所詮は売られてきた奴隷に過ぎん、士気なんてものは有って無い様なものだ。こんな連中が騎馬の突撃に耐えられるわけがない」


 指揮官の話を聞いているのかいないのか副官はぼんやりとした様子で答える。


「へぇ、こいつら長耳族エルフだったんですか、どうりで細い女みたいな奴らが多いと思った……。あぁ、そういやこの前、抱いた長耳族エルフの娼婦、ありゃ調子が良かった。隊長も今度一緒にどうです?いいとこ知ってんですよ」


 こんな軽口を飛ばす副官に対し表情を変えることなく指揮官は答える。


「それは、中々に魅力的な提案であるがどうもそうはいかないらしい」


 指揮官が話し終わると同時に後ろから鋭い声が飛んでくる。


「ガス・ワイルダーだな!命令違反の嫌疑がかかっている私達と一緒に来てもらおうか!」


 (王直属の親衛隊か……、今回ばかりは助かりそうにないな、面倒事に巻き込まれる前に隠れちまおう)


「そこの副官!お前も一緒に来い!」


 (あーあー、こんな上司と心中は御免ですよ……。)


 二人の男は華美な鎧を纏った男達に連れて行かれてしまった。


 シュローニュ王国随一の騎馬指揮官ガス・ワイルダーが歴史の表舞台から一時姿を消すのはこの時からである。




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