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イディアハルモニア  作者: 金柑


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12/53

第11音「オケ」



「イディモニの皆さん、

 本番は2時間後、16時になります」


イディモニ?


「あれ、イディアハルモニアじゃないのか??」


「誰か変えたのか?」



さては、茜だな…



「俺が変えておいたぞ」


スーツ姿の教授が控室に入ってきた。


「全く、ネクタイなんかするもんじゃねぇな」

「誰か、ビール取ってくれよ」


「いや、酒なんかねぇっすよ…」



来ないんじゃなかったのか?



「教授、どうしたんですかその格好」


「あぁ?」

暑さでバテバテのようだ。


「あいや、その前に何で名前変えたんすか?」


あぁ〜と項垂れながら


「茜が、イディモニの方が良いって言うからよ」


「そんじゃ変えちまうかって」



やっぱり、お前か!!

テヘペロじゃねえよ。



「だって、イディモニの方が可愛いじゃん!!」


「いや、まぁ、別にどっちでも良いんだけどさ」


(だって、まだ「イディモニ」で居たいじゃん。)


(「イディアハルモニア」は…

 ウチらの大切な『音』。

 こんな所じゃないっしょ!!)


「それで、わざわざスーツに着替えて応援に来て

 くれたんすか?」


「先生、俺ぁ嬉しいぜ」

「やっぱり、教授って、照れ屋さんなのね♡」


暑さで机に突っ伏したまま、教授は大会のポスターを指差した。


「ん」


……


「別に、何の変哲もないポスターじゃない?」


由希子が、ポスターの隅々を見てる。


「いや、だからよぉ」


少し回復した教授がポスターを指差した。


「はい?」

「ここだよ、こ〜こ」


ポスターの右上の特別審査員を指差した。



ちょっと古い写真だけど、自信に満ちた指揮者の写真が載っている。



「ん〜、誰これ?結構イケメンじゃん!!」


「そうねぇ、昭和の男って感じ♬」

「タイプだわぁ♡」


「え〜っと、なになに」



『伝説の指揮者が特別審査員として緊急参戦』


大城靖広


日本音楽芸術大学・指揮科を首席卒業。


渡仏後、

ブザンソン国際若手指揮者コンクールを

歴代最年少で制覇。


30歳で、

日本人初となる

パリ国立歌劇管弦楽団・常任指揮者に就任。


しかし…


指揮台に立ったのは、

わずか一度。


その一夜の演奏は、


今なお音楽関係者の間で語り継がれている。


……


へぇ〜すげえな。

やっぱり天才っているもんだよな。


……


大城靖広?


俺はポスターの写真と教授を何度も何度も見比べた。


…まさかな。

…いや。

え!?


教授から、「はぁ」とため息が漏れ。


「俺!!」

「「「いやいやいや」」」

「お〜れ!!」

「「「いやいやいや」」」


「俺だって言ってんだろ!!!」


……


……


「「「え〜!!!!!!」」」


見事に全員ハモった。


ガチャっと扉が開き波多野さんが入ってきた。


「あっ、教授。やっと皆んなに伝えたんですか」


「今回の参加、教授が無理言っ…」


「んっ、ゔん」


波多野さんがしまったみたいな顔してる。


???


「まぁ、ちょっと事情があってしばらく音楽から

 離れてたんだけどよ」


「学長からお願いされちまったら断れねぇだろ」


「審査するだけならって言ってんのに、

 こんなに大袈裟に書きやがって」


やれやれ言いながら、なんか説明してるけど


教授…指揮者だったのか!!


……


「な、なんでよ〜、

 何でこのイケメンがこうなっちゃうのよ〜」

ヒロミが泣き崩れた。


「ワァオ、髪フサフサですネ」

論点が違うぞマリア


「教授、あんたマジかっけぇぜ、漢だ!!」

なんか興奮してる、ツッパリ。


驚きと興奮と、切なさでぐちゃぐちゃだ。


木下さんに至っては

ポスターと教授を何度も何度も見比べて


「?」

「?」


混乱してる。


「お前ら、ほんと失礼だよな。苦笑」

「まぁ、なんだ」


「せっかくだからこの俺が審査してやるからよ」


「全力でかかってこいや」



マジで!!


すげえ、本物の指揮者がこんなに近くにいたなんて。


何で教えてくれないんだよ。


……


興奮と混乱のるつぼの中「ガチャ」と扉が開いた。


「YA-MAN!!」

「ごめんよ〜、祭りの音色に誘われて行ったら

 全然違う所だったぜ!!」



ルーカス…

このやろう



「ポウ、弘!!」


「…」


「はっはぁ、分かるぜ盛り上がって来たな」


「…ルー…うるさい」


……


はぁ、全くこいつらは


ルーカスは気が付くと人の輪の中にいる。


弘は気が付くと本を読んでいる。


正反対なのに、なぜか仲が良い。


……


「そんじゃまた後でな」

と言って教授は去っていった。


緊張どころじゃないな

この状況は…笑


……



「イディモニさん、本番15分前です」


いよいよだ…


皆んな落ちついてるな…


「…」


「岬、飲むなよ…」


「はは、手がさ。笑」


「アンタが1番緊張してんじゃない!!」


「本番10分前です、移動お願いします」


「んん、皆んな」

「今日が、俺達のデビューだな」


「教授が言ってたな、音と遊べって」

「あれ、俺達にピッタリじゃないか?」


「俺達はプロじゃない」

「だから、俺達にしか出せない『音』がある」


「気合い入れて遊ぼうぜ、

 観客みんなが遊びたくなるように!!」


「締まったのやら、締まってないのやら。笑」


……


「5分前です、袖までお願いします」



皆んないい顔している。


あの時も皆んなの顔見ていたら結果は違ってたのかな…


前の団体の演奏が終わり、俺達の出番が来た。


一人一人ステージに上がっていく。


ルーカスだけ、審査員席にいる教授を見つけて混乱している。


「ドコッ」

弘、ナイス。


俺は震えている。

武者震いだ…


最後に茜が出ていく全力Vサインだ。


ウォルトンのヴィオラ協奏曲にはピアノがない。


だけど

俺たち全員で「イディモニ」だから。


無理矢理編曲した。


茜は泣きながらぴょんぴょんしてた。

由希子は「私達らしいんじゃない」って言った。


……


行ける。


……


由希子に合図を送ろうと…


「…」


震えてる。


いや、こいつも武者震いだ。


顔がちげえ。


「由希子、行けるか?」


愚問だろ。


「舐めないでよ、あたしは『女優』よ♬」


「さぁ、行くわよ」


……


こいつ、サイコー


俺達は拍手と光の中へと一歩踏み出した。


……


ーーーー


ウォルトン、ヴィオラ協奏曲第2楽章。

〜ピアノ追加編曲版〜


最初は、ヴィオラとピアノの為の編曲にしようとしたんだけど


茜が

「ダメ、コレはゆっきーの曲だよ!!

 ウチは一緒にやれるだけで、

 ちょーハッピーなんだから!!」 


由希子、ちょっと泣いてたな。


本来この曲にないピアノをオケに組み込んだ。


ヴィオラとピアノとオケ


タイミングがズレるとはっきり分かってしまう。 


だが、こいつらは天才だ。


ピアノ協奏曲化してしまわないように、茜にはチェレスタのように音を彩る役に回ってもらった。


茜は、由希子と一緒に出られるだけで満足そうだった。





俺はみんなの顔を見渡し


タクトを振り上げた


さぁ、キックオフだ!!


……



由希子が息を吸う。


その瞬間、『音』に『色』が宿った。


世界がゆっくりと色づき始める。




夜を切り裂いた激しい音はまるで強がる彼女のトゲそのものだ。


あざやかな手際に惑わされ、

見ているこちらまで胸の奥がひりひりとざわめきだす。



俺はそんな由希子から目が離せなかった。



ふと零れ落ちた切ない響きに、

彼女が纏ういくつもの仮面の裏側の寂しさが透けて見えた気がして、

その危うい美しさに思わず息を呑んでしまう。



いくつもの表情を見せる『音』に、俺は


綺麗だ。


自然とつぶやいていた。



最後にスパッとすべてが断ち切られたとき、

彼女が抱えてきた無数の欠片が、


彼女を誰より美しく見せていた。


残された俺の胸にはあたたかな熱だけがぽっかりと取り残されていた。


……


由希子…


これがお前の『音』なんだな。


かっけぇよ、お前。



木下先生の音が


(大丈夫ですよ、先輩)


俺の背中を支えてくれる。


だから怖がらずに前へ出られる。



西田は、


(俺は負けない)


絶対に逃げない。


そんな真っ直ぐな意志でぶつかってくる。



ヒロミが、


(びびってんじゃないわよ)


いつだって空気をひっくり返してくれる。


不意の一音が、俺の弱気まで吹き飛ばしてくれる。



茜は、


笑ってる。


あいつ、本当に音で遊んでやがる。


……


音を合わせる。


あっ、ずれてる。

直してやらないと。


そう、そうだ。

やるじゃん。


焦るな。

ゆっくりで大丈夫。


らしくないぜ。

カッコつけんなよ。笑


決して『完璧』ではない、


だけど、確かに俺達の『音』だ。


……


俺は静かにタクトをおろした。


拍手が聞こえる。


結構お客さんいたんだな。


1曲目が終わって初めて客の顔を見た。


悪くなかったよな?


拍手の切れ間に前列の家族の声が聞こえてくる。

「良く分かんなかった!」

「なんか、楽しかった!!」

「そうだねー、お兄さん達楽しそうだったね」



ハッとした。


しまった。


曲だけ選んで満足してた。


聴いてくれる人のこと、全然考えてなかった。


……


だけど


次は違うぜ♬






俺達は一度下がり、

次の曲に備えて簡単なミーティングをした。


「なぁ、やばくなかったか?」

ニヤニヤが止まらなかった。


皆んな1曲とは思えない程疲れているが、

いい顔をしてる。


弘ですら、興奮が隠せていない。


水を飲み終えた

由希子が無言で拳を突き出した。



「おう、お疲れ」



俺は答えた。


「…」


「なぁ、提案があるんだけど」


……



拍手が鳴り、2曲目の為の準備が整った。


俺達は順にステージに登場していく。


「イディモニ」Tシャツで。



子供達の笑い声と拍手が聞こえる。


「何あれー?」

「可愛いぃ〜」


当の茜は「でしょ、でしょ」と言わんばかりに胸を張っている。


ルーカスなんかは声援に応えて…踊ってる。


Tシャツになってみんなリラックスしてる


俺もだ。


燕尾なんか着たことねぇ。


サッカー少年だぞ。笑


……


俺達はまだまだ『完璧』じゃない、

だったら俺達らしくいかないとな


茜にウィンクして、俺はタクトを振り上げた。



キラキラ星

  〜イディモニアレンジ



〜〜♬


茜のピアノが始まった。


おい、予定と違うぞ!!

俺は無理矢理合わせて茜を睨んだ。


ペロッと舌を出して笑ってる。


茜は何度もキラキラ星の

最初のメロディを繰り返す。


予定では1小節だけのはず。


…子供達が歌っている?


「きーらーきーらーひーかーるー…」



そうくるか…笑


俺はタクトで皆んなに指示を出した。


…歌うの久しぶりだな…笑


「「よーぞーらーのーほーしーよ」」


俺達の歌と観客の歌が混じり合う。


「「まーばーたーきーしーてーはーみーんーなーをーみーてーるー」」


行くぞ、お前ら!!

俺はオケに振り返った。


「よーぞーらーのーほーしーよーーーー!!」


子どもも、大人も、みんな笑っていた。


俺は思い切りタクトを振り抜いた。


茜の跳ねるような指使いが激しくなる。


俺たちは、一斉に音を鳴らし始める。


叙情的なのにまるでジャズのように

『音』を合わせる。



走る走る…

ノリすぎだよ…笑


さながらお祭りだ!!


行こう、もっとだ!!!!



背中越しに感じる。



手拍子が始まる。


子供達の楽しそうな声。


リズムをとる審査員。


教授だけはニヤニヤしてそうだな。



弾むリズムに合わせ


客席の手拍子が重なる。


歌声が重なる。


笑顔が重なる。



気付けば会場中が一つのオーケストラになっていた。


拍手と歓声の中

俺は確かに感じていた。




オケって、楽しい!!




……

………

ーーーー


次回 グレースノート

「調田国際大学」



 








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