第29話 選ばなかった理由――人間という分岐点
選ぶことは、非効率かもしれない。
迷い、間違い、遠回りをする。
それでも人は、自分で選ぶ。
最適化が広がる世界の中で、
惣太郎は一つの答えに辿り着こうとしていた。
朝。
街は、動いている。
人の流れ。
車の音。
信号。
すべてが、昨日と同じようで。
違う。
祐子が歩く。
足を止める。
「……変わってる」
惣太郎が周囲を見る。
「昨日よりマシじゃないか?」
祐子は首を振る。
「違う」
一人の男。
交差点の手前。
足を止める。
信号は青。
だが、進まない。
一瞬。
迷う。
そして、少し遅れて歩き出す。
惣太郎の目が、わずかに動く。
「……今の」
祐子が言う。
その一瞬で、惣太郎の中に言葉が浮かぶ。
ヘレンの声。
「最適は、一つしかない」
「でも人は、そうじゃない」
「選べる」
「正解じゃない」
「選択よ」
惣太郎が、小さく息を吐く。
「……そうか」
通りの先。コンビニの前。
列。揃っていない。
会話。短い。
無駄。
非効率。
だが、自然だ。
惣太郎が言う。
「……戻ってる」
祐子が頷く。
「一部はね」
その時、別の男。
動きが揃っている。
迷わない。
止まらない。
揺れがない。
惣太郎が言う。
「……残ってる」
祐子が答える。
「分かれてる」
惣太郎が、ゆっくり言う。
「最適の方が、楽だ」
「迷わなくていい」
「間違えなくていい」
視線は、前。
「でも——」
一瞬。
さっきの男を思い出す。
止まった理由もない。
意味もない。
それでも——
「それ、選んでない」
祐子が、わずかに視線を向ける。
惣太郎が続ける。
「決められてるだけだ」
「だから——」
「俺は、そっちは選ばない」
その言葉で。
基準が、決まる。
工場。
五体が動く。
「分岐率、上昇」
リョウ子が言う。
「選択の介入が確認されています」
惣太郎が聞く。
「……つまり?」
リョウ子は答える。
「人間が、選び始めています」
祐子が、つぶやく。
「……戦場が広がったわね」
惣太郎が、小さく笑う。
「全員、当事者か」
惣太郎が前を見る。
「広げるか」
祐子が聞く。
「何を?」
惣太郎は言う。
「選択を」
リョウ子が答える。
「可能です」
世界は、分かれ始めている。
最適へ進む流れと。
選び続ける流れに。
最適な選択は、一つしかない。
だが、人間は違う。
迷い、立ち止まり、ときには間違える。
それでも自分で選ぶからこそ、人間でいられる。
世界は今、二つの流れに分かれ始めていた。
最適へ向かう流れと、
選び続ける人間の流れへ。




