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ステータスカードと「叫び」の代償

昨晩は更新できませんでした。

ファキオの朝は早い。窓の外からは、夜明けと共に職人たちが火を熾し、槌を振るう重低音が地鳴りのように響いてくる。

 俺は一足先に起き出し、宿の食堂へと向かった。昨夜、おかみさんのマーサさんに「人手が足りないなら手伝う」と申し出ておいたのだ。厨房から漂う香ばしい匂いが、空っぽの胃袋を刺激する。

「お早うございます、マーサさん。何か手伝えることは?」

「お荷物さんかと思ったら、案外マメじゃないか! 悪いけど、その野菜を刻んでスープに入れておくれ」

 俺はエプロンを借り、調理台の前に立った。

 包丁を握った瞬間、右手に馴染むような感覚が走る。看取った男から奪った記憶が俺の意思とは無関係に指先を動かした。トントントン、と軽快なリズムで野菜が均一な厚さに刻まれていく。

「……嫌なもんだな。自分の技術じゃないのに、体が覚えている」

 出来上がったのは、素朴だが熱々の豆スープと、表面をカリッと焼いた厚切りパンだ。ガレンが松葉杖を突きながら食堂へ現れた。

 ガレンはスープを一口啜ると、少しだけ眉を動かした。

「エイド、貴様の技術も、この宿の安朝食を支えるくらいには役立っているようだぞ」

 その言葉に救われたような、あるいは残酷な現実を突きつけられたような複雑な心境で、俺も自分の分のスープを口にした。温かさが腹に落ちる。三日間という猶予。この平穏を維持するためには、この街で「結果」を出さなければならない。

「行きましょう、ガレンさん。」


ギルドは大通りに面していて、宿からは15分ほど歩いた場所にあった。


無骨な石造りの建物の中は、朝から依頼を求める荒事師たちの熱気と、鉄の匂いで満ちている。俺はガレンの松葉杖を支えながら、受付で手続きを済ませた。


ギルド職員より説明を受けた。

「こちらがあなたのステータスカードになります。

初回は無料ですが、無くすと有料で発行になります。

あと、一つ注意事項ですがあなたがステータスカードを持った瞬間にあなたの情報は冒険者ギルドで共有されます。ランクによってカードの種類は違ってきます。」


(個人情報の管理か…。仕方ないな)


 一瞬躊躇して受け取ったカードは、鈍い輝きを放つ鉄製のカードだった。この世界では、ステータスカードは持ち主の能力や身分を示す唯一の証明書だ。その素材は冒険者のランクによって厳格に定められているという。保有スキルに関してだけは本人しかわからない。

• EランクからSランクまでランクはある

• 鉄→銅→真鍮→銀→金。Sランクのカードは秘匿されているらしい。


 俺が手にしたのは、最も身近な、だがこの世界の土台を支える「鉄」のカードだ。カードを手に持つと、その表面に俺の現状が浮かび上がった。

【ステータスカード】

• 氏名: エイド(真名:――)

• 年齢: 18歳

• 職業: 葬儀師

• 保有スキル:パリィ(受け流し)、調理(初級)

「……調理」


 その文字を見た瞬間、右手に痺れるような熱を感じた。あの時、看取った男から奪ってしまった家庭料理の技術。スキルとは、自分に「できること」を客観的に示しているに過ぎない。ならばこの文字は、俺が犯した略奪の記憶が、能力として定着してしまった証だ。

「小僧。その顔を見るに、またろくでもないことを考えているな。ほぅ、思っているより若いのだな。喋り方ではわからなかったな」

 ガレンが隣で鼻を鳴らした。

「ん?若い?」

(18歳?もっと、歳を重ねていたはずだが若返ったのか。)

「あと、覚えていたスキルはなんだ。普段教える必要はないが、鍛えねばならんからな」

「パリィと調理(初級)だ」

「良いスキルを得たな。どうせお前のことだスキルを見てあらためて自分の業と向き合ったのだろう。

だが、パリィは自分で覚えたスキルのはずだ。前も言ったはずだがスキルは自己研鑽で覚えることもできる」


俺はその言葉で少し救われた。目頭が熱くなる。


「ぼーっとするな、スキルに慣れるために訓練をするぞ。覚えていてもとっさに使えなければ意味がないからな。身体が無意識に使えてやっとスキルも意味がある」

 俺はギルド訓練室に向かい、カードに記された「パリィ」の感覚を確かめようとした。周囲に習い、訓練場の端に置かれている木剣をとった。ガレンも木剣をとった、


「さぁ、いくぞ」

ガレンがかまえて、打ち込んできだ。

俺もガレンからの打ち込みを木剣を構えていなそうとする。


「パリィ!!」

 叫びながら剣を振った瞬間、訓練室を爆笑が包み込んだ。

「おい、あのおっさんを見ろよ! 技の名前を叫んでやがる!」

「お伽話の勇者様気取りか? 叫んでる間に魔物に逃げられちまうぞ!」


コツン、と頭を叩かれた。

「エイドこっちに来い」

ガレンに訓練室の隅に連れてこられた。


「なぜ、技を叫んだ?」

「技を言わないと使えないのではないのか?」

「調理スキルを使っていたときは叫んでいなかったぞ、スキルを使えると思っていたが違うのか?」


(確かに。)


「勇者の逸話の一つだが、技を叫んで魔物に挑み、その隙に逃げられたばかりか、不意打ちで大怪我を負ったことがある」

(だから勇者様気取りと言われたのか。)

顔が燃えるように熱くなった。

「……叫ぶのは、やめだ」

 俺はポーカーフェイスを整え直し、静かに木剣を構えた。


「泣きそうになったり、顔を赤くしたりと忙しい小僧だ、訓練を再開するぞ」


 自分の身体に染み付いた丁寧な所作と、奪った記憶を、この過酷な異世界で生き抜くための盾と昇華させるべく、黙々と木剣を振り下ろした。

今日はあと一話追加します。

どれくらい読んでもらえるかわかりませんが頑張ります。

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