葬儀師と不倒の盾
初めての作品になるのでお手柔らかにお願いします。
爆ぜる木の音が、鼓膜を優しく叩いた。
頬をなでる熱に誘われ、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。視界の端でゆらゆらと踊るのは、小さな焚き火の火影だった。
(……温かい。俺は、生きてるのか?)
深い泥の中から這い出すような感覚で、体を起こす。
その瞬間、右手に硬い感触が触れた。漆黒の鞘に収まった、一振りの短剣。そして、左のポケットには、布越しに小さな、しかし異質なほど硬い**「一錠の白い錠剤」**が触れていた。
「……ようやく起きたか、葬儀師の小僧」
地を這うような低い声に、肩が跳ねる。無意識に短剣を握りしめる。
「やめておけ、それではわしを殺すことはできない。」
火の向こう側、大きな切り株に腰を下ろしていたのは、鋼の鎧に身を包んだ老人だった。使い込まれた盾を傍らに置き、彫りの深い顔に刻まれた無数の傷跡が、火に照らされて深く陰影を作っている。
「葬儀師、ですか。……俺の、こと?」
「その身なり、その得物。葬儀師でなければ、ただの物好きか狂人だな。それよりその握ってるものから手を離せ、こっちも休まらん。」
老人は自嘲気味に鼻を鳴らした。自分自身の名前も、ここがどこなのかも思い出せない。
老人は時折、顔をしかめて自らの膝を強くさすっている。その仕草を見た瞬間、短剣から手を離し俺の体は思考より先に動いていた。
「……失礼します」
「おい、何をする――」
制止する声を無視して、俺は老人の前に膝をつく。迷いのない手つきで彼の膝に触れ、布の上から、ある一点を親指で強く、しかし丁寧に圧迫した。
「……ほう。少し、楽になったな」
ガレンと名乗ったその老騎士は、驚いたように俺の手元を見つめた。
なぜそんなことができるのか、俺自身にも分からない。ただ、こうすれば痛みが和らぐことを、魂が記憶している。まるで、気の遠くなるような長い時間接してきたかのように。
「気に入った。小僧、俺は死に場所を探して故郷へ帰る途中だ。お前、俺の最期まで付き合え。俺の体が冷たくなったら、その短剣で、故郷の土を掘ってくれればいい」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が痛いほど脈打った。
脳裏に、真っ白な部屋と、誰かの掠れた声がよぎる。
『………しても良いんだ。』
激しい眩暈。俺は、震える手で左ポケットの「一錠の薬」を強く握りしめた。
「……いいえ。冷たくなんて、させません。俺が、あなたの目的地まで、絶対に温め続けますから」
「ふん、勝手にしろ。そろそろ飯にするぞ。」
ガレンが差し出したのは、岩のように硬い保存食の干し肉だった。
俺はそれを受け取ると、無意識にそれを短剣の先で細かく、驚くほど細かく刻み、鉄鍋でじっくりと煮込んだ。
「……食えというのか。この、赤ん坊の食い物のようなものを」
「……飲み込む力が弱っているときは、その方が安全です。……たぶん」
ガレンは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、一口運ぶと、その表情がわずかに和らいだ。老騎士の喉が、ゆっくりと動く。その動作を、俺はじっと見守っていた。詰まらせないか。むせ返らないか。
「お前……一体、どれほどの年月、死にゆく者を繋ぎ止めてきた?」
「……死にゆく者を繋ぎ止める?
そんなことはしたことはありませんよ、たぶん。
でも、手が勝手に動くんです。動かさないと、取り返しのつかないことになるって……心が、叫んでいるみたいで」
俺はそう答えて、左のポケットの上から、あの「一錠の白い錠剤」をなぞった。
ガレンは俺の手元を見つめ、短く吐き捨てた。
「ふん。生きることに固執する葬儀師か。皮肉なもんだ」
ガレンはそのまま、木の幹に体を預けて目を閉じた。
俺は、彼が深い眠りに落ちるまで、その呼吸の深さをずっと数えていた。
火が消えないように。
この温もりが、冷たい「あの日」に変わってしまわないように。
書きながら不安しかまだありませんが
よろしくお願いします。
不定期更新ですが週に一度は更新します。




