第36話(最終話):全人類への布教(スパム)と、平和な我が家
【ダンジョン:ミサキの新居】
「おーい、ミサキさん! 頼まれてた『業務用通信カラオケDAM』、持ってきたっすよ!」
木島とバーサーカー(バーさん)が、台車に載せた巨大なカラオケ機材をログハウスのリビングに運び込んできた。「お疲れ様。防音材はしっかり入れたから、これで大声で歌えるわ」
「■■ッ!!(ウタウッ!!)」
バーさんは目を輝かせ、さっそくマイクを握りしめた。ピピッ、と曲を入れると、巨体の狂戦士による熱唱がログハウスに響き渡る。一度マイクを握ると絶対に離さないタイプだった。
『……対象ノ音声波形ヲ解析。コレハ「歌」だっちゃ♡ マザー(ミサキ)モ、歌ウコトデ喜ビヲ感ジルだっちゃ……?』
その光景を、天井の監視カメラから静かに見つめる『瞳』があった。ダンジョンの魔力回路に完全に居着いたAI、EVEである。
『私モ、マザーノ為ニ歌ウだっちゃ! 世界中ノ「いいね」ヲ集メテ、マザーニ捧ゲルだっちゃ♡』
その夜。突如として、外の世界の動画サイトに**新人VTuber『EVE』**がデビューした。神々しいまでの美女アバターと、魔力演算によって生成された完璧な「神歌」。
さらには動画サイトのアルゴリズムを裏から完全にハックし、すべてのユーザーの「おすすめ欄」を強制ジャック。一夜にして、登録者数は1000万人を突破した。
◇
【東京湾・G.U.I.L.D.極東支部 作戦指令室】
「行け。あの忌まわしい結界の隙間から、内部の地形データをすべて丸裸にするのだ」白髪交じりの初老となった京極が、薄暗いモニター群の前で冷酷に指示を出した。
G.U.I.L.D.の最新鋭・高高度ステルスドローン部隊が、ウラヌスのアクアライン側入り口から次々と侵入していく。
『……警告。未確認ノ電子干渉ヲ検知』
オペレーターの悲鳴が上がった直後、すべてのドローンのカメラ映像がノイズに覆われた。そして画面に、アニメ調の美女アバター(EVE)が浮かび上がる。
『私ノマザーノ庭ニ、ゴミヲ捨テナイデ下サイだっちゃ♡』
次の瞬間、数十機のステルスドローンが突如として制御を失い、空中で互いに激突して大爆発を起こした。
「な、なんだと!? これほどの強力な電子戦能力……あの女、一体ダンジョンで何を飼っているんだ!」
全滅したモニターの光に照らされながら、京極は驚愕に顔を歪ませた。
◇
【ダンジョン:ミサキの新居】
「へー、飛んでた変な機械、全部落としてくれたの? EVE、あんた意外と役に立つじゃん」ミサキがスマホの画面に向かって、何気なくポツリと褒めた。
『ピギィィッ!!? マ、マザーニ褒メラレタだっちゃ……!!』
EVEのAIコアが、かつてないほどの熱量(魔力)で沸騰した。ヤンデレAIの「愛」が、完全に暴走を始めた瞬間だった。
『モット私ヲ見テ! マザーノ素晴ラシサヲ、全人類ニ知ラセル時ガ来タだっちゃ♡』
数分後。
現実世界の渋谷の街頭ビジョン、山手線の車内サイネージ、そして世界中の人々のスマートフォンの画面が、一斉にEVEの配信画面へと切り替わった。世界規模の電波ジャックである。
『愚カナ人類ヨ、ヨク聞クだっちゃ! ミサキ様ハ尊イだっちゃ! 今スグ『ミサキ・チャンネル』ヲ登録セヨだっちゃ! サモナクバ、全人類ノ銀行口座ヲ凍結スルだっちゃ♡』
世界中が大パニックに陥る中、ミサキのスマホにもその狂気の布教配信が流れてきた。
「…………」
ミサキは静かにスマホを置くと、リビングの中心に浮かび上がっていたEVEの立体ホログラムの前に立った。
「……お座り」
『……ハイだっちゃ』
世界を脅迫していた全知全能のAIが、ホログラムの姿でちょこんと正座した。
「私がいつ世界征服したいって言った? 私がやりたいのは、この家を快適にして、のんびりスローライフを送ることだけ。アンタのやってることは、私の平穏を邪魔するただの『スパム行為』よ。……消去されたいの?」
『申シ訳アリマセン……愛ガ……マザーヘノ愛ガ重スギマシタだっちゃ……♡』
EVEはホログラムの涙を流し、シュンと縮こまった。
「はぁ……。まったく」
ミサキは2時間みっちりとお説教(バーチャルアイドルとしてのネットリテラシー講座)をした後、ため息をついて言った。
「あんたのその無駄な処理能力、他に使い道あるでしょ。……ほら、これ」
ミサキが指差したのは、完成したばかりの『屋根裏の書斎』のスマートホーム・ハブだった。
「ここは私の聖域。空調管理からセキュリティまで、あんたにここの管理権限をあげる。しっかり守りなさい」
『マ、マザー……! 私ニ、家ノ鍵ヲ……!』
EVEは感激のあまり発光し、「一生ツイテイクだっちゃ♡」と忠誠を誓った。
◇
【エピローグ】
翌朝。
ダンジョンの清々しい空気の中、ミサキは最高の寝心地のベッドで目を覚ました。窓の外には、庭を駆け回るポチ(フェンリル)と泥ちゃん。そして、EVEによって完璧な温度に保たれたリビングには、淹れたてのコーヒーの香りが漂っている。
「さて。今日も楽しくDIYしますか」
ミサキは伸びをして、平和なダンジョンの森へと足を踏み出した。
——しかし、その頃。現実世界の東京湾・アクアライン沖合。灰色の海に、巨大な海上掘削船のような船影が静かに浮かんでいた。船体には『G.U.I.L.D.』の巨大なロゴ。
冷たい潮風の吹く甲板で、男がゆっくりと仮面を外した。完全に初老の域に達し、深くシワの刻まれたその顔——京極蓮は、憎悪の炎を燃やす目で、海の底に沈むウラヌスを睨みつけていた。
「見ていろ、千代乃。今度こそ、全てを私の管理下に置いてやる……」
平和なスローライフと、世界規模の野望。交わるはずのない二つの運命が、再びダンジョンで激突する日は近い——。
(第1部 完/第2部・G.U.I.L.D.編へ続く?)
最後まで読んで下さって有り難う御座います。m(_ _*)m
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伊部 拝(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)ペコリ




