第14話 昼のひと時
奏が振られてから最初の金曜日の朝
奏と親友の古賀まどかが話している。
まどかはショートカットの元気な陸上部短距離の女子で、男子女子問わず人気がある。
「奏、今日はお昼一緒にできる?」
「うん、大丈夫だよ」
「そういえば昨日はどこ行ってたの」
「中庭で食べてた」
「ふーん、一人で?」
「ううん、羽山君と」
「えっ、羽山君と?」
「声大きいよ、まどか」
「あ、ごめん。で、どんな関係なの? 羽山君とは」
「どうって、友達だよ」
「だって、それまで話したこともなかったでしょ」
「うーん、その辺のこと、今度話すよ」
「わかった。じゃあさ、私、日曜日部活ないから、出かけない?」
「いいよ。どこに行く」
「じゃあ、駅の近くのショッピングモールはどう? 買い物したいし」
「いいよ。そこにしよう。その時いろいろ話すね」
「うん、お願いね」
(まどかにだったら、羽山君とのこと話しても大丈夫よね)
ちょうどまどかとの話に区切りがついた時に、佐山が声をかけてきた。
「栗山さん、ちょっといい」
「何?」
「ちょっと、話があるんだ」
「今? いいよ」
「あ、いや。放課後に体育館裏に来て欲しいんだ」
「え、色んな意味で嫌なんだけど」
「あ、で、でも、来て欲しいんだ」
「まず、放課後、私用事あるよ」
「ちょっとでいいんだ」
「うーん、ちょっとで済むなら別に体育館裏でなくても良くない?」
「う、そ、そうなんだけど」
「それに、二人きりになるのはちょっとね」
「うーん」
佐山は渋い顔をしている。ここでつまずくとは思っていなかったのだ。
それも仕方ない話で、今まで奏は告白される時は呼び出しに応じていた。
賢治と別れた今なら、尚更応じてくれると踏んでいたのだ。
「とにかく、今日は約束あるし、ごめんね」
「だ、誰と用があるの?」
「誰でも良くない?」
「そ、そうだけど」
そこで、黙っていたまどかが口を挟む
「はいはい、そこまで。奏は用事あるけど、それを言う必要もないでしょ。
それに二人きりで会いたくないって言ってるの。無理強いしないで」
「ああ、わかったよ」
佐竹はすごすごと、席に戻って行った。
奏とまどかはそれを眺めてから、奏はお礼をいう。
「まどか、ありがとう」
「いいのいいの。それにしても、奏が二人きりで会いたくないからって言うのも、今までなかったよね」
「そうね、それも含めて今度話すね」
「分かった」
ちょうどその時、担任が入ってきた。
昼休みのひと時、クラスは賑やかな雰囲気に包まれ、それぞれが用意した昼食を食べていた。
涼はクラスメイトには聞かれたくない電話をしなくてはいけなかったので、教室から出ていたが、電話が終わって戻ってきて、いつものカロリーバーを出した。
奏とまどかはもう昼食を食べ終わって雑談していた。
チラと涼の方を向くと、渋い顔をした。
(また、あんなもの食べてる)
「ん、どうしたの奏?」
「あ、うん、なんでもない。すぐ戻ってくるね」
と、言って、まどかが見守る中、奏は涼の席に向かう。
「まーた、そんなもの食べて」
「栗山さん。お疲れ」
涼が笑顔で返してくる。
「お疲れ様です。ところで食事もちゃんと考えるって言ってなかった?」
「あはは、急には変えられないよ、そのうち変わる。と、思う」
「もう、早く変えなよ」
「善処します、でも心配してくれてありがとう」
涼は満面の笑みで応える。
「っ! 心配なんかして……いえ、少しは心配しているけど。友達なんだし」
その言葉に涼は、笑みを深くする。
「心配してくれてありがとう。嬉しいよ」
「なんか、毒気を抜かれるって感じね」
「え? なんて」
「なんでもない。そういえばさ」
「何?」
「羽山君、なんで髪を上げてこないの? あとメガネをしたままだし。
この間のオールバックいい感じだったよ」
涼は、髪の毛が伸び放題伸びていて、顔を覆い隠しそうな勢いの髪型と、大きな黒縁メガネをしている。
「ああ、それに関しても、おいおい変えていくかなって思ってる。
でも急に変えるのもなんだから、なし崩し的に変えようかなって感じかな」
「そうなんだ。変えるの楽しみにしてるね。でも、どうしてそんな見た目にしてるの?」
「髪型に関しては、今まで切りに行く時間的余裕がなかったのと、最近は精神的に余裕がなかったんだ。
でも49日で気持ち変わったから変えてもいいと思ってるよ」
「じゃあ、メガネは? もっと合うやつあるんじゃない?」
「ああ、メガネは伊達なんだ。これ」
「え、なんでかけてるの?」
「お母さんの看病が忙しいのと、不眠症も重なって目の下に酷いクマができてたんだよ。
それを隠すため。なかなか消えなくてさ、最近ようやく消えてきたんだ」
「そうなんだね。ごめんね、余計なこと聞いて」
「いいよ、なんでも聞いて。聞いてくれると嬉しいもんだから。答えられないことも、もちろんあるけどね」
「うん、分かった。じゃあ、あとでね」
「うん、それじゃ」
奏は自分の席に戻る。
まどかが不思議そうな顔をしながら聞いてくる。
「羽山君だっけ? 何話してたの?」
「なんでもないよー」
「何よ教えてよ」
「やだー」
「教えてよー」
と、言いながらまどかが奏をくすぐる
「やめてー」
「教えないとやめないー」
キャッ、キャッと人気者の二人が騒いでいる姿を、
男女関わらず、羨ましそうに見ていた。




