秘密に手を掛ける者
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放課後ダンジョンクラブが第五層で強敵たちと戦いを続ける中、迷宮のある場所では一人の招かれざる客の姿があった。
先日、重吾たちに接触した眼帯の男。彼はなおも迷宮への潜入を続けていたが、今日の迷宮は昨日までのものとは異なっていた。
――どうやら、俺の魔力波形を昨日の追跡で判別したようだな……。侵入時に俺だけを『特別な入り口』へぶち込みやがった。……この『|仮想空間《神経操作・精神操作術式複合結界術》』はある程度DMとやらの手中にあるのだな……。
彼の読み通りその場所は通常の迷宮とは繋がっていない空間であり、地下水道のような様相を呈していた。開けた場所だが床の石畳は湿り、灯りはほとんどない。漆黒の暗闇である。
彼はそんな場所の中で自らの鋭敏な感知能力を利用し十メートルほど後方から迫る、強力な存在を感知する。
――『神霊』か……。だが、これはッ!? 第一級相当……! 俺には倒せん!
彼はすぐに逃避を判断。闇の中、足音を殺した走りを開始する。後方の強力な魔力を帯びた何かはそれをただただ追い続ける。
――追うだけか? DMであれば、俺をこの空間に入れたように、この空間の構成を変化させたりすることも可能ではないのか?
だが、しばらく彼が空間内を駆けまわっても、この闇の中では何の変化も起こらずただただ延々と続く逃走と追跡が静かな虚無の中で続くのみである。彼は駆けまわる中で全くの変化なく、端に付くこともないこの広大な空間に対して、思考を巡らせる。
――壁が現れないが故にいつもと同じ要領で『壁抜け』を行うこともできない……。天井も感知不能。……脱出を優先した方がよさそうだな。
『ズッ……』
彼は走る中、突如として床の中へと沈み込んでゆく。彼はそのまま走りを続けながら床の中へと表情を変えることなく入り込む。
床の中は彼がいつも潜る壁と同様に空いたスペースはなく、彼は文字通り床の中を泳いでいる。そのまま彼は深く、深くへと沈み込んでゆく。
――この仮想空間が各層縦に繋がっていることは確認済み……。第一層から最上階まで俺は床や壁を抜け泳ぎ切った。だが、今回飛ばされた位置は、仮想空間の最上階より上か、それとも下か……。それによって対応は変わる。
彼は一直線に深くへと潜っていく。常人ならば当に前後上下の感覚を失うであろう、無明の中を己の感覚のみに頼って彼は沈んでいた。
――深い……。流石に最上階より上にここまでの深さがあっては『容量』が重すぎる。ただでさえ『ステータス表示』や『神霊の仮封印・弱体化』という強力な効果を組み込んだ装置だ。魔力によってのみ構成されている時点で容量の制限が厳しいというのにこの深さは……。さっきの空間及びこの場所は第一層エントランスの下に位置すると見て間違いない。
だが、だとしてもあまりにも規格外の術式……。やはり世界的な信仰に関連するもののようだな。
「!」
その時、彼に空間の感覚が飛び込む。すかさず彼は意識を切り替え、潜るのではなく床へと着地した。その場所は円状の廊下であり、無数の牢屋のような鉄格子の扉が隣接していた。
――牢獄……。このような下に隠しているとなれば……。この場所の『動力源』かもしれんな……。
相変わらず暗い視界の中、彼はすぐに近くの鉄格子の扉を通り抜けようとする。
「!」
――『硬い』……結界か。よほど強力なものを閉じ込めていると見える。『上』の神霊たちにはこんなものを仕掛けてはいない……。
彼は結界の張られた鉄格子の先にある牢屋の中、そこに居るであろう存在を感知しようと、自身の意識を集中させる。ゆっくりと結界によって邪魔される鉄格子内の部屋の感覚を掴み始める。そして、その先、部屋の中央にあるものの概要を把握する。
――吊り下げられた……。虜囚……。手枷に、足枷……。背中に……翼だ。だが……。無数の傷跡。光背なし。第五層に記されていた監視者の可能性……!
その時、彼は背後の天井から何かがぬるりと現れるのを察知した。闇の中で蠢くそれに、彼は意識を集中させる。
――追手がまだ……!
振り向きざま、彼の目には眩い光が飛び込む。彼はその相手がさっきの追手とは全く違う存在であることを覚る。
『ズバァァッ!』
「あっ……ガハァッ!?」
眼帯の男は身体を一瞬で切り刻まれ、膝から崩れ落ち、床の石畳へと倒れ込む。彼の朦朧とする意識の中、優しげで落ち着き払った声が響いて来る。
「ご安心ください。ここでは死にません。ただ、意識は縛られます……。『終末』まであなたの意識はこの場所にてお預かりしておきますよ……」
――しまった……。第一級相当どころではない……。やはり、DMは……。あの……。
眼帯の男の意識は失われ、その『死亡状態』と示される彼の身体は、その牢獄の新たな部屋に、他の虜囚同様、吊るされるようにつながれるのだった。




