犠牲の上の勝利
……………
ウェンディゴの『影』はとにかく動き続ける重吾や稲葉さんを追うよりもイフリートの一体と対峙し炎上している金田を襲う方向へと向かう。三本はその動きを少しでも止めるために、電撃を放つ。
――ウェンディゴ……落ち着いて観察すれば動きは非常に遅い。金田の方には靖穂が解呪と回復に走っている。今、ウェンディゴを攻略し、イフリートを……。
『ヴァリヴァリヴァリィイイッ!』
三本が放った電撃がウェンディゴの方へと飛来する。
だが、その電撃はウェンディゴの影にぶつかる一瞬前、掻き消されてしまう。
「何!?」
三本は叫びと同時に気づく。もう一体のイフリートが展開した結界。その効果範囲がウェンディゴの影を取り込んでいた。結界は他の魔術を掻き消す防護壁ともなり得るのだった。
そして、その結界の延伸は丁度金田、イフリート二体、ウェンディゴの影を取り込んだところで停止する。ウェンディゴはイフリートへ果敢に攻撃を続ける金田へ憑りつき、その動きを止めた。
――マズい! まだまだ奴らの形成が有利!
三本は焦りを覚えながらも、次なる電撃を用意する。
「重吾君、稲葉さん、金田君に気を付けて! 靖穂さん、あなたは前衛組のサポートを! 私は解呪に向かう!」
國山先生がすぐに結界に触れ解呪を始める。彼女は指示の直前にこの状況を見越し防護を自身に付与し、イフリートの攻撃を受けられる状態にしていた。結界中央に居たイフリートは結界へ魔力を供給するのをやめ、國山先生へ無数の火炎と風に刃を飛ばし始める。そして國山先生の防護をじわじわと削る。
――このままだとギリギリ間に合わない……! かといって前衛組は結界内のイフリートたちには手を出せないし……。
國山先生が結界の解呪を続けつつ次なる行動を思案する中、重吾は真っ直ぐ結界内のイフリートへと走ってゆく。
「重吾!?」
「兄貴!」
稲葉さんと靖穂の叫びを聞きつつ、重吾は結界に足を踏み入れる。同時に無数の風の刃が彼のHPを凄まじい勢いで削っていく。
――十分! 一発で終わる。
彼はそう確信すると、なおも迷いなく、顔に笑みを浮かべながら、手前に居る金田と交戦していたイフリートの懐へと飛び込む。予想外の動きに同様の色さえ見えるそのイフリートは脇腹に防護の弱い点があった。重吾はするりと脇腹の一点に腕を滑らせ、柔らかいバターを切り裂くようにイフリートの体内に手を滑り入れ、真っ二つに切り裂き、消滅させた。
――任務完了。
『ドサッ』
重吾は同時にその場に倒れ、死亡状態となる。
國山先生への攻撃の手がイフリート一体分減った。結界中央のイフリートはなおも國山先生への魔術攻撃を続けるが、國山先生はこの結界解呪を遂行できることを確信。それを知ってか、ウェンディゴ憑きとなった金田が、動きを始める。
彼は結界の外、靖穂に向けて突進を開始する。ウェンディゴの影は金田に収束するように縮んでおり、彼の身体の一部を憑りついた状態から少し外すことで盾にするように移動している。これによって三本はただでさえ狙い難いウェンディゴの影を金田の身体を裂けて狙う必要が出てくるのだ。
――金田の身体に当てて感電を狙うか? いや、相手は不定形の影、感電するかどうかも怪しい、わざわざ僕の対策としてあんな事をしているのだ……。感電しない可能性のが高い。針の穴を通すように、あのウェンディゴの影を狙わなくてはならない!
靖穂に迫る金田の突進。彼女もウェンディゴ憑きの解呪を國山先生が重吾にやったように狙うが、金田の正面部分だけがウェンディゴのとりつきを離れている事でその解呪を行う事が難しいことに気づき、焦りを見せる。
――マズい。今、急に方針を転換しようにも、魔術の準備は間に合わない! 簡易化詠唱も私は成功したことがない。……万事休すか……。
靖穂は金田の突進を避けようと動くがその動きなど見切った金田がしっかりと軌道修正をしつつ突っ込んでくる。
『ドガァアッ!』
金田の横っ腹に稲葉さんの跳び蹴りが炸裂。26のダメージを与え、金田を死亡状態にして倒す。
「お姉ちゃん!」
土壇場で稲葉さんは奮起し、金田を攻撃するに至った。彼女は攻撃の感覚から息を切らし、その場で立ち尽くす。そこへ、ウェンディゴの影が忍び寄る。
『ヴァリヴァリヴァリィイイッ!』
――最後の最後まで足掻きやがって。
三本の電撃が正確にウェンディゴの影を捉え、消滅させた。
同時にイフリートを守る結界も國山先生により解呪。靖穂は指示を飛ばしつつ魔術を用意する。
「お姉ちゃん、イフリートを!」
その激にハッと我に返った稲葉さんは、倒れる重吾、そしてその奥のイフリートを目に映す。そして、一心不乱に駆け出し、渾身の力を以て、イフリートに飛び蹴りを仕掛ける。
イフリートは予想外の速度を見せる稲葉さんの動きに対して簡易化した風刃を飛ばすが、全てを受けつつも彼女は一直線にイフリートへと飛び掛かる。
『ドガァアアアッ!』
イフリートの顎に稲葉さんの跳び蹴りが炸裂し1320のダメージ。同時に靖穂の反転回復魔術、國山先生の拘束魔術が飛来し340のダメージと拘束を受ける。イフリートはその拘束を引きはがすように軽々と壊すがその一瞬の動きが稲葉さんの次なる攻撃を許す。
『ダガッガガガガッガッ』
素早く無駄のない足さばきで稲葉さんをイフリートの胴体に無数の蹴りを放ち920のダメージを与える。イフリートも一方的にやられるままではなく、蹴りの隙間に簡易化魔術による攻撃を挟もうと手のひらを広げる。
だが。
『ヴァリヴァリヴァリィイイッ!』
三本の電撃がそれを許さない670のダメージを受け、イフリートの行動は制限される。さらに稲葉さんの蹴りは止まらず、靖穂と國山先生は二人とも拘束魔術をイフリートへと飛ばす。解呪に掛る一瞬の隙、反撃を止める三本の電撃。イフリートは彼らの連携の前に完封され、何の成果もなくいたぶられ、消滅させられた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
絶え間ない連撃を行った稲葉さんは呼吸を乱しつつも、達成感に満ちた表情を浮かべていた。
――重吾……。私も……重吾みたいに……みんなの役に立てる……!
その心のうちの喜びは彼女が久しく忘れていた、かつて部活の大会で覚えた感動に近いものがあった。




