勝利の確信
……………
重吾はただ、目の前の相手にぶつかっていった。彼の思考には何を信じる・信じないという行動を鈍らせる『判断』は無かった。ただ目の前の『敵』を『屠る』。それだけだった。
重吾は、負けず嫌いな男だった。
その『負けず嫌い』は同じくそう呼ばれることが多い三本のそれとは全く異なるものだった。
重吾はただ、自分に克つことに対して『負けず嫌い』なのだ。
目の前の敵が何であれ、自分の設定した目標を越える事。それが彼の本懐であり、求める処である。
彼はより上手く、より早く、より強くなること、目標を越える事、それらが何より楽しく、放課後ダンジョンクラブの誰よりもこの『迷宮』という『ゲーム』を楽しんでいたのだ。
……相手が『生身の人間』となってなお、彼にとってこの迷宮は未だに『遊び場』でしかなかった。
――見える……江馬の身体の急所……奴はこの『水や幻の魔術』の為に多くの魔力を消耗している。その分身体を守る防護としての魔力は薄まり、弱点としてつけ入る隙は多い! 一撃で決められる! やれちゃうぜ、コレは!
彼は自分の知らぬうちに笑みをこぼし、江馬へと突撃する。
江馬もまた、負けじと不敵な笑みを浮かべて重吾に突撃する。
二人の足音が響く。近づく。刹那。先制は――重吾。正確な一撃、首元を狙う突き。江馬の予知により、着弾点にズレ。21ダメージ。江馬の拳が、重吾の顎に。
――もらったッ!
18ダメージ。もう一撃、突きで伸びた、関節に――
『ヌゥッ』
ぬるりと、滑り込むように奇妙な速度で重吾の攻撃が江馬の右脇腹に這う。咄嗟に右腕で防ぎ、11ダメージを負う。間接への攻撃を切り替え、重吾のボディへダメージを稼ぎに行く。フックにより11ダメージ。足払いにより重吾のバランスを崩し8のダメージを与え、マウントを取る。
――よし……! 予知は僅かにおれに分が……。なっ!? コイツ……!
江馬は重吾へ次なる攻撃をしようと彼の目を見る。彼は、必殺の一撃を外され、攻撃を受けられ、マウントを取られる中、屈託のない、爽やかな笑いを浮かべ、目に厚く煮えたぎる闘志を燃やしていた。
江馬は食いしばりながら、拳を振り下ろす。
――負けるはずがない……! おれが勝てば、ヤマも復活。ヤミーも居る。他の仲間を復活させつつ、残ったデクの棒をさっさと処理すれば……おれたちの勝ちだ。コイツが勝機を見出せるはずがない……。コイツは、『敗北』を分かっていない……! この野郎に……この勝ち負けを分かっていない『お坊ちゃん』に『敗北』を教えなくてはならない……!
『負ける』ってことがどれだけ惨めで糞で、死ぬほど怒りが湧いてくることかッ! 教えてやらなきゃならないッ!
「おれたちが『勝者』なんだよォッ!」
激昂した江馬が叫びつつ連打を入れる。
『ドガッ!』
15ダメージ。
『ドガッ!』
10ダメージ。
『ドガッ!』
8ダメージ。
――終わりだ『お坊ちゃん』。
『ガッ!』
重吾は瀕死となりながらも江馬の攻撃を止める。江馬は過剰な魔力の消耗により、全身を覆う、攻防のための魔力が失われつつあった。最後の一撃も相まって、江馬は油断した。その隙を、重吾は有無を言わさずに突く。
『ドガッ!』
江馬の首に重吾の拳の先に魔力を集中させた鋭い一撃がほとばしり、彼の気づく間もなく『死亡状態』となる。
『勝利の確信』は人の判断を鈍らせ、単純化する。重吾はそのゆるみを無慈悲に突き、そしてなおも戦いを続ける。
もたれかかる江馬の身体をひょいとどかし、重吾は加勢しようと近づいていたヤミーと先程蘇ったヤマを見て、次なる攻撃を用意する。
「全員燃やせば勝ちなんだよォッ!」
ヤマは起き上がりざまに叫び、呪文を唱え、周囲に無数の魔術結合を飛ばす。
『ドガァアアッ!』
ヤマは38のダメージを受け、前に倒れ込む。後ろから金田がタックルを仕掛け、腰を捉えて地面にたたきつけたのだ。
「ヤロウッ!」
ヤマは呪文詠唱を中断、自らを燃やす術に切り替えるが次の瞬間には三本の電撃が彼を襲った!
『バチバチバチィッ!』
35のダメージを受け、すぐに瀕死へと追い込まれる。
レザーアート坊主のヤミーは、しかし、そんなヤマに目もくれず江馬へと復活術を詠唱し続ける。そこへ國山先生、靖穂の反転回復魔術が彼を襲った。
20、18苦痛を伴うダメージを受けるも、ヤミーは復活術の詠唱をやめない。そこへ矢本、稲葉さんが同時にヤミーを狙いかけていく。
――必ず、ここで倒さなくては!
矢本は呪文詠唱により避けることもできないヤミーへ渾身の一撃を振りかぶる。だが、叫び。
「矢本君! 稲葉さん! 危ない!」
國山先生の叫び、矢本はヤミーのみを集中していた視野を一気に広げる。
――魔術的結合……。拘束魔術……? 誰だ……?
その先には、エントランスホールの入り口から現れた、革ジャン姿の……『ジャム』が拘束魔術の詠唱を終え、走る稲葉さんに向け突進している。
その突然の登場に全員がそちらへ注意を向ける。
――今までいったいどこに?
――何故『入口』から?
――皿間やイマも『外』から来る……?
その一瞬の思考の隙、ヤマは『呪文詠唱』を簡易化した。それに気づいた金田や三本が驚く。
「何っ!?」
――『奥の手』……やっぱテメエらは知らなかったか……! 『呪文詠唱』は『簡易化』できンだよッ! 魔力消費をでかくして、魔術出すときの『高揚』を再現すりゃあ、ムリヤリにでも出せるってなァ!
そう笑うヤマの全身から魔術的結合が飛散し、即座に爆発!
勝利の確定に一抹の油断があった放課後ダンジョンクラブと矢本らはその爆発により完全に優位が崩壊。だが、デスクロウズもそれは同じ。
両者、大混戦へと突入するのだった。




