蟻地獄
……………
矢本は三本に語る。
「傭兵というのは即席で他のメンバーとチームアップするスタイル。一朝一夕で上手くチーム連携するには話し合いと連携に向けた協調、そのための目的意識の共有が大事だ。桜はそう言う事を堅実にやっていく方針らしい、おかげで迷宮のボス攻略でもリーダーシップを発揮してくれて助かっている……が、僕はそう言う事はしない、君もそうだろ?」
「……」
「いちいち目的なんか聞いてる時間はない。だがそうしなけりゃ足手まといのメンバーが増える……。だが、それでいいんだ」
「……何?」
矢本は声を潜めて三本に言う。
「最初はある程度苦戦させる……。壊滅しない程度に毎回の戦闘でね。そして一気に戦況を改善。そしてトドメを譲ってやる……。後は当たり障りのない事を言って、こちらからは指示しない。どうせ君のことだ大体は全体が見えている、後衛向きだしね。こういう風にやれは相手のことを知らずとも上手くいく」
「……そのチームの実力は低いまま……さっきの『帰宅部トラベラーズ』もお前の手腕の表れか」
「まあね。モラクス狩りに利用した。まあ、もう一人でやれるからいいんだがね。ボスは経験値が良いのかよくレベルが上がるぜ?」
矢本は笑う。だが、三本は疑わしい目で矢本を見て言う。
「お前は実力の低いチームを上層に持ってきて、レベル上げに利用していると言う事か」
矢本は変わらぬ調子で喋る。
「ああ、そうだよ。レベルが高いので下層で戦う意味はもう無い連中……だが、明らかにこの上層には見合わない戦力……システムがどうあれ現実の戦闘であるためにステータスが高くても負ける可能性のある戦場だからこその現象……それを利用して、見合わない場所に便利なチームをたくさん置いておくことでレベル上げも捗るのさ」
「……そうか」
「失望したかな?」
矢本は笑顔のまま訊いてくる。だが三本はその笑顔の奥に悪意があることを見抜いている。
「……別に」
「そうか。まあそうだよね。君、一番になりにパーティ抜けて来てるんだもの。効率のためにはなりふり構ってられない……。だろ?」
「……そうだな」
三本はそう言ってエントランスへと戻っていく。その背中は少し小さく見えた。
―――――
三本健は次の日、『ヘリオス・スリー』パーティと共に二層を進んでいた。回復役、攻撃役、盾役の三人で構成されるこのパーティはモラクスを自力で倒したが第二層を攻略するのが初めは不安という事で経験ある傭兵を求めた。
このパーティに関して、矢本漣は「やめておけ」と三本に言っていたが、三本はこの依頼を受けた。
――僕は矢本とは違う。
そうした考えが三本の中にあったのだ。そして二層のエントランスにて『ヘリオス・スリー』のリーダー兼回復役『吉瀬裕次郎』が三本へ話す。
「まずは、二層のボスを見ておきたいんです。出来ればある程度情報を貰って戦闘も……。案内してもらえますか?」
――頼れる高レベルプレイヤーがいるうちにボスを見て置く……という事か。やはり、このパーティは実力派だ。
三本はそう考えながら申し出を受諾した。
薄暗い迷宮の通路の果て、ボスの立つ開けたホールに三本らはやってくる。ホールの中心に立つ影はグリフォンに乗ったムルムルと二体の兵。
『ヘリオス・スリー』は三本から得たムルムルに対する情報を確かめるべく、それぞれの間隔を大きく開けて、ゆっくりとムルムルに近づいていく。
三本は事前に伝えられたように先んじて電撃による攻撃を二体の兵に打ち込む。与えたダメージは340と380。
――思った以上に僕の攻撃が通るな……。ムルムルやグリフォンにも通るか……? いや、今は『ヘリオス・スリー』に言われた通りに……。言われた通り……か。
兵たちはラッパを吹き、グリフォンは空へと飛びあがる。『ヘリオス・スリー』たちは冷静にそれぞれの行動をとる。盾役の男がグリフォンとムルムルの攻撃に備え、吉瀬と攻撃役のメンバーがそれぞれ兵に向かっていく。
ラッパの音による『惑いの音楽』が紡ぎ出され始める。三本はそこへ電撃を放ち、兵の演奏を阻害。前衛の二人も兵にとりつき、攻撃を開始する。
――あの攻撃力では兵を削り切るのに時間がかかり過ぎる……。それに……。
三本は魔術を準備する中、ムルムルとグリフォンの連携突撃を受ける盾役を見る。彼は、既に瀕死だ。
――吉瀬はあまり周囲を見れていないな。後衛の僕に撤退指示を半ば任せている……。だが……直接言われたわけじゃない。それに……。
三本は昨日の矢本の言葉を思い出す。『ボスは経験値が良いのかよくレベルが上がるぜ』『効率のためにはなりふり構ってられない』。
――このまま僕が倒してしまおうか……? いや、それでは……。でも……。
「三本さん!!」
迷いの中にある三本に吉瀬の叫びが飛び込んでくる。盾役は既にたおれ、攻撃役も瀕死。吉瀬は盾役を引きずりながら、逃げ始めていた。
「撤退します! 援護を! 援護を早く!」
三本は突然のことに焦りながら、電撃魔術を放ち、ムルムルとグリフォンの追撃を止める。兵たちのラッパによる音がホール中に響き、音楽が紡がれ始める。
必死に逃げる攻撃役のメンバーに『惑いの音楽』の魔術的結合が凄まじい速さで憑りつき、その足を止めさせる。
「クソッ!」
三本の叫びと共に、吉瀬は三本の傍に倒れた盾役を置き、動けなくなった攻撃役の下へ走る。三本は兵に攻撃を浴びせる、だが、その隙に、ムルムルは吉瀬へ突撃を敢行する。
三本の電撃は、その攻撃に間に合わない!
吉瀬のもとへランスと、グリフォンの爪が迫りくる。




