傭兵のやり方
……………
―――――
敵と出会う。
電撃を放つ。
前衛が動く。
電撃を放つ。
前衛が攻撃する。
電撃を放つ。
前衛が隙を突く。
電撃を放つ。
……。
ただの作業。だが、その作業さえ満足にできない奴らが多い。
ただの作業が出来なければ応用もない。僕が靖穂から見て盗んだ『魔術の応用』も自分の扱っている魔術について……。いや、自分のやっている行動や入り込んでくる洗脳じみた知識の濁流に少しでも自覚的になれば、ある程度の制御は可能だ。
だが、その『ある程度の制御』に至ることすらできない人がほとんどだ。
靖穂や國山先生はするりとやってのけた『魔術の反転』も正確に魔術結合の制御が出来ていなければできない。ステータスが上がればある程度上手くはなるが、自覚的になれない限りは永遠に応用はできない。
……僕が今手を貸している連中……。『帰宅部トラベラーズ』はそのことを如実に気づかせてくれた。彼らは遠距離攻撃を行う魔術を誰も習得していない。覚えているのは防護魔術に回復術、知力値が飛びぬけて高いメンバーはおらず、MPもそこまで多くない。遠距離攻撃役の不足。それ故に僕はこのパーティに入った。
数日限りのチームアップだが、僕に得るものはあるだろうと思っていた。だが。
―――――
三本と『帰宅部トラベラーズ』は本日四度目の第二層での戦闘を行っている。相手は悪魔二体。三本にしてみれば一人でも相手どれるような敵。しかし……。
「う、うわっ!」
拳を振り上げる悪魔に驚き、羽田刃は頭を抱えるように守る。そうした出来た隙により悪魔は右の拳をそのまま振り下ろし、左の掌で後ろから殴りかかるもう一人のパーティメンバーに向け、呪いを放った。
「ああ! 三本君、た、助けて!」
呪いを放たれた男はそう言いながら三本の方へ逃げる、直ぐにその身体は炎に包まれるが、直ぐに自分で回復術を用意し、回復する。
羽田刃は自分の失態に気づき、目の前の悪魔を殴るが、悪魔はすぐにそれを見切り、振り向きざま、右腕で拳を掴み、頭突きで羽田の顔面に攻撃する。
三本はイライラとしながら電撃を構えようとするが、他のメンバーが助けを求める声を聞き、直ぐに『石の嵐』へ魔術を切り替える。
――単発の電撃ではキリがない。また、石の嵐で一気に片づける……。今日何度目だ?
そう思い呆れながら三本は石の嵐を放つ。魔術への集中を深め、嵐の動きを制御することを試みる。これは三本なりの努力……というよりも、この空虚な『手伝い』に少しでも意義のある時間を生み出すための悪あがきというべきものだ。
三本の放つ石の嵐は的確に悪魔たちの身体に瓦礫をぶつけ、消滅させていく。
二体の悪魔が消え去った後、三本はすぐに魔術を停止させ、通路を進む。羽田がそれを止める。
「ちょ、ちょっと待って君がそんなに突出して行ったら……」
「感知値は僕が一番高い。君たちが先頭では今みたいに勝手に先行して勝手にダメージを負い、勝手に負けそうになる可能性がある。……僕に任せろ。今回はレベル上げが目的なんだろ?」
――レベルを上げても戦闘に慣れない限り、こいつ等はこの階層を自力で攻略することはできない。モラクスは訊けば矢本が手を貸して倒したという……。まあ、僕たち傭兵にしてみればこういうパーティは絶好のカモなのだろう。あまり好い気はしないが聞かれたわけでもない……。その事実は黙っているのが良いだろう。
三本は興味なさげな目つきで、そう考えながら羽田を見ていた。羽田は不満げな表情で反論ともつかない言葉を言う。
「それは、そうだけれど……」
「……何か?」
「やっぱり僕たちは、この二層は早すぎる気がする……。戦闘にも慣れていないのにレベルが上がってしまって……。パーティのバランスも……」
「パーティのバランスは僕が入ることで改善しているんじゃないのか」
「いや、その……。三本君がいてくれるおかげで安心して二層を探査できているんだけど……。もう、自信がないというか……その……」
――初のチームアップ。上手くいかないのは当然か……。
三本は溜息をつきながら、答える。
「いや、いいんだ。エレベーターホールまで送るよ」
かくして三本健の初の傭兵としての活躍は彼のレベルが25に上がり、他のメンバーのレベルも1上がる成果を出しながら、『失敗』という形で終わった。
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三本は二階のエレベーターホールで『帰宅部トラベラーズ』を見送った後、少しエレベーターを見つめて思う。
――彼らが何故探査を止めたのか……。彼らの目的が何だったのか……。別の僕にはどうでもいいことだ。
「やあ、三本君、『帰宅部トラベラーズ』はどうしたんだい?」
矢本が立ち尽くしている三本に向けて声をかける。
「……ああ、『自信を無くした』とかで行ってしまったよ。元々戦闘慣れが全然できていないパーティだったからな……。いや、そう言うのをカモにしているのかもしれんが……」
矢本は笑って答える。
「人聞きが悪いなァ。でも、ま、三本君、今までパーティでやってたから仕方ないよ。『傭兵のやり方』が分かっていないのだからね」
「傭兵のやり方?」
矢本は影のある笑みを浮かべて三本を見ている。七三分けに、しっかりと整った制服姿の彼はすらりとしたスタイルと笑顔で細められた目がその胡散臭さをより強調しているように三本には思えた。




