ジュブ=ニグラスでOK?
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ジュブ=ニグラス??
私はマデリーンから教えられた私の正体を聞いてハテナマークを飛ばしていた。
全然ピンとこない。それは誰だろう?マデリーンとアルスの正体だというニャルラトホテプは何となく聞いたことがあるんだけど、ジュブ=ニグラスってなんだ??
「リンダ様、私とアルス様が同一人物だという事どうかどうかお許しください。私は私が好きだとか、嫌だとか言ってリンダ様にご迷惑を……」
なんか、斬新なことで謝られた。
まあ、確かにマデリーンとアルスが同一人物と言うことは、迷惑な一人芝居に付き合わされたという事になるのかもしれないけど、つまりあれでしょ?化身として分かれた後、死んだら合体して一人になるけど、生きてるうちは他人。
別にマデリーンが謝ることはないと思うわ。マデリーンとアルスじゃ見た目も性格も全然違うし、きっとマデリーンはニャルラトホテプの良心の化身とかなのよ。アルスはそう、好奇心とか悪意とかニヤニヤ笑いとかの化身なんだわ。
「良いのよ、マデリーン。それどころか私の正体まで教えてくれてありがとう。それに創造神を眠らせてくれたなんて凄いわ!!」
創造神が眠ってくれたおかげで、今日は地震がないし、雨も止んでいる。これは国から勲章が貰える功績だわ。
それはそうと、私はジオルに向き直った。マデリーンのお母様は死んだと言っていたジオルだけど、別邸に行ってみたらピンピンしていた。
なんでも、私がジオルを元に戻してと言ったから、力の一部を戻して体が死ぬのを防いだらしい。その後、体に戻ったので普通に生きている。
「ジオルはジュブ=ニグラスって知ってる?」
ジオルは頷いた。
「ああ、魔女たちが崇拝する、こちら側の邪神だな。ちなみにニャルラトホテプもこちらの宇宙系統の邪神でジュブ=ニグラスの叔父だったと思う。」
そうなのね。ジオルが味方なのは頼もしいわ。
「で、それが私なの??」
聞いてみると困ったように口籠る。
「いや、違うと思うが……」
ジオルのセリフにマデリーンが激しく反応した。
「え?違うのですか?ではリンダ様の正体は?」
ジオルはバツが悪そうに答える。
「それは、その……覚えていないんだ。その、俺も記憶が曖昧で、もしかしたら、忘れているだけでジュブ=ニグラスなのかもしれないが……」
「使えない……」
マデリーンが毒を吐く。あわわ、私の清らかな親友が……。ジオルを責めないで。私が思い出せば良いだけの話なのよ。
「また、マデリーンのご実家に行って治療してもらうのが一番ね。」
マデリーンは天使のような笑顔になった。
「ええ!母も喜びますわ!」
「その時は俺も行く。」
ジオルも賛成してくれる。
「でも、しばらく行けないわね。お披露目パーティーまでは出歩くなと言われていて。」
そうなのだ。婚約したら婚約パーティーまでの間は身を慎み極力屋敷から出ないのが慣わし。別邸は少し離れているものの、一応屋敷の一部と理屈をつけて来ることも出来るが、流石に町外れには行けない。
せめてジュブ=ニグラスのことやニャルラトホテプの事を調べたいけど、うちにはそういう本はなかった気がする。神話系や魔術系は閉じこもってた頃、だいたいチェックしたのよ。ああ、地球ならネット検索もできるのに……
あ!そうだわ!ネット検索できるようにしてもらいましょう!!
「リンダ様、ベルゼ様からの使者が来られました。お城においでになるようにとのことです。」
「すぐに行くわ。」
機嫌良く言うと、マデリーンとジオルがショックを受けているようだけど、大丈夫の気持ちを込めてウィンクしておいた。
私は迎えの馬車に乗り王宮へ向かう。婚約パーティーの衣装の打ち合わせで何度か呼ばれると聞いていたのでそのことだろう。
グッドタイミング!そうよ、ネットがしたいとかゲームがしたいなんて可愛いお願いじゃない。こう言うのをバンバンお願いして生き易い空間をゲットしなきゃ。
「ごきげん麗しく、おめでとうございます。」
久しぶりに、挨拶を最後まで言えたと、変な達成感がある。目の前には婚約者で皇太子で神で悪魔の悪魔さんが、満足そうに微笑んでいる。
「ありがとう。麗しい婚約者殿。ドレスの見本を持ってこさせたんだ。君はどんなドレスが好みだろう?君によく似合う赤も捨てがたいけど、清らかな白や、水色も婚約パーティーにはふさわしいかもしれないね。特製のネックレスを用意したからこれをつける前提で選んで欲しいんだ。」
目の前には黄金作りのネックレス。少し変わっていて、捻れたような潰れたような黄金が連なり、絶妙なバランスで上品かつ、荘厳な物に仕上がっている。とても綺麗で、高価なものと分かるが、正直、宝石が入っている方が好みだ。
「つけてごらん。」
悪魔さんは上機嫌で、ネックレスをつけてくれた。鏡を見せられると、思ったより似合っている。私は嬉しくなって……
あれ?
私はいつの間にか悪魔さんにへばり付いていた。うん。私からへばりつきに行っている。
周りの侍女達は顔を赤くしたり、含み笑いをしている。悪魔さんが微笑みながら手をひらひらさせると皆、頭を下げて下がって行った。
「あの?あれ?」
「気分は?苦しくない?」
「ええ、苦しくはないのですが……」
行動が制御できませんが……
「直接だと量が多くなって苦しめてしまうから、少しづつ注入する方法を考えたんだ。このネックレスには私の力が染み込ませてあって君にほんの少しづつ入って行く。活動していれば使ってしまえる量だから後で苦しくなったりもしないと思うんだ。」
顔が近づく。唇がゆっくり重なって気持ち良くて、とても幸せ。
「出来るだけ取らないで。私に会う時は必ず付けてきておくれ。」
「はい。ベルゼ様……」
それからの事あまり記憶にありません。ドレスは選んだような気がする。
気がついたら家に帰っていて、ホワホワとしたまま食事をとって、お父様とお母様に早くベルゼ様と結婚したいと言ったそうで、顔が赤いし、病気に違いない!と薬を飲まされ、ベッドに放り込まれました。
寝る前には、もちろんドレスを脱いで、アクセサリーも外したわけで……
「あ!ああああああ!!」
私のゲームにネットにYouTube!!く、く、くくく!!!やられたわ!!何一つ要求もできず、逆らえず、幸せホワホワにされてしまったわ!!
やっぱりあいつ嫌い!!人を操る事を何とも思ってない!!今日、何があったのか、私の操は無事なのか、本当に覚えてないのよ!!嫌すぎるわ!!
私は怒りと恥ずかしさで、意識がプツンと切れてしまった……
気がつくと、あの世界にいた。そう、マデリーンの所で見た記憶の球が飛んでいる白い空間。
悔しすぎて気絶したのかしら?まあ、良いわ。
私はせっかくなので、思い出そうと手近な球を握りしめた。
「屈辱の中、このメッセージを残す。」
あれ?私が何か記録してる?日記かな?
「いずれ憎きベールゼブブに記憶を奪われ、良いようにされるだろう。今、それを止める術はない。だが、私があの男に奪われた力は全てではない。彼奴の奸計にかかりながらも我は力を二つに分け別々のところへ隠した。その一つは彼奴に奪われたが……」
「おい!大丈夫なのか!?」
大丈夫じゃない!!続きが気になるのよ!!
「ジオル……」
「ああ、良かった。突然おかしくなったと聞いて、飛んできたんだ。」
元皇太子の元婚約者で、現在私に仕える精霊ジオル君です。肉体も保持したまま、幽体離脱してくるナイスガイ。精霊になってからはこれでもかと言うほどストレートに好意を示してくる。この人に婚約破棄されたんだけどなあ。
「……心配してくれてありがとう。タイミングが悪かったけど、まあ良いわ。私がおかしかったのは、それのせいよ。」
私は、飾られたネックレスを指した。
「これは……魔界の黄金。なんと禍々しい力だ。お前への執着に満ちている。」
「そ、そうなんだ。」
よく分からないが、ジオルが言うならそうなんだろう。魔界の黄金てなんか凄そう。
「これを付けると少しずつベールゼブブの力が入ってくるようになっているの。付けられてから、ベルゼが好きって気持ちとよく分からない、フワフワした感覚だったわ。はずしたら屈辱で死にそうだったけど。」
「こんな物で我が主を良いようにするつもりか。」
「ベルゼに会う時は必ず付けるようにと言われたわ。せめて、もう少し正気を保てれば良いのだけれど。」
ジオルは半分透けた姿のまま、考えていたが、しばらくして良い案を教えてくれた。
「魔女の水晶を裏側につけてその水晶に力を溜めよう。そうすればお前に影響は出ない。水晶はマデリーンかその母親から手に入るだろう。裏につける加工は俺がしよう。」
「ありがとう。ぜひお願いするわ。あと、記憶が少し戻ったの。私の力は二つに分けて隠してあるから、もう一つを見つければ、もう少しやり易くなると思うの。どこか分からないかしら?」
「俺も、記憶を戻す必要があるな。お前がどこに隠しそうか、知っている気がする。」
「じゃあ、マデリーンのお母様のところに行って治療してもらいましょう。一応マデリーンのお母様に手紙を書いておくわ。」
「ああ、ありがとう。俺の愛しき主。」
ジオルは当然のように跪き、私の手を取る。そしてそれを口の中に……
「あ……」
ジオルの力が流れ込み、私達は深く口付けた。何度も舌を吸ってから唇が銀の糸を引いて離れる。
「愛している。」
悪魔さんとジオルがしている事は同じこと?でも、ジオルからは私への忠誠と敬愛を感じるの。だから私はまだ正気が残っているのに応えてしまうの。
「私もよ。」
って……




