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10 お泊まり会では絵本を読もう

10

「かつてこの地は不毛の地で生物はいなかった。しかし、神ベルゼアスが舞い降り、心地よい風を創られ、次に優しい水を創られた。神は愛で地を満たし、そこに植物や動物、そして人々が生まれた。神が我らに言われた。我が愛に応えよ。さすれば永遠の安寧を、永遠の繁栄を、永遠の愛を与えよう。」


何を読まされてるんだ私は。


「ありがとう。君の声で聞くと少し照れるね。」


 蕩けきった声を出すのは、この国の皇太子のベルゼで正体はベールゼブブの悪魔さんだ。今日は全く楽しくないお泊まり会。月一回の義務だ。


 今読んだのは我が国の創造神話。まあ、十中八九、目の前の男の行動記録。いえ、ありがたいですよ。うちの神様ですから。


 私の幼馴染の元婚約者ジオルの助命嘆願で、約束させられた月一回のお泊まり会の初回。城に着くと、静々とメイドに風呂場に案内された。嫌な予感バリバリですよ。とは言えお風呂は大好きなので、お城のお風呂を堪能して、用意されたリラックスドレスを素直に着て生贄の子羊は悪魔の前に通された。


「ごきげん麗しくおめでとうございます。本日はお招きいただきありがとうございます。わわわ!!」


とお決まりの挨拶をしていると速攻で抱き抱えられた。


「ようこそ。未来の婚約者殿。今日もなんと麗しい。夕方からのご招待になってすまないね。次はきちんと一日中君といられるよう調整するからね。」


 いえ、結構です。出来うる限り短時間でお願いしたいです。


「さあ、私の部屋に案内しよう。ベッドが合うと良いのだけれど。」


 ああ、分かってたけど、いきなりですか?クンクン匂いを嗅いでくるのやめて下さい。


 悪魔さんに抱えられ無駄に広い部屋をゆらゆら揺れながら進んだ。白い玉石をふんだんに使ったベッドに寝かされる時、心臓が壊れそうにドキドキしていた。そのまま、覆い被さって頬にキスされて、乙女としては顔から火が出るほど恥ずかしくて、でも、はじめての体験にドキドキドキドキしていた。黒い瞳が私を見詰める。長い黒髪が私の首元をくすぐる。私はこのまま……


「これを読んで欲しいんだ。」


 本を渡された……

 

 ああ、穴があったら入りたい……

 何を一人で盛り上がってるのよ!私は、嫌だったはずでしょ。悪魔なんかとそういう事になりたく無いの!!なのに、今、まるで私の方がしたかったみたいじゃない!!したくないわよ!!あの甘い唇でくすぐられたらとか思ってなかったから!!ああ、まずいわ。基本的に面食いなのよ。悪魔ってもっと醜いもんじゃないの!!


 ……というわけで、ベッドに寝転んで、絵本になっている子供向け創世神話を読まされておりました。


「懐かしいね。君のためにこの世界を作ったんだ。なかなか大変だったよ。惑星の軌道を調整するのは骨が折れて……」

 

 そこからやったんだ……

 前世から何年経ってるんだろう?


「アルスが言い出したんだよ。君が好きな世界を作れば、きっと気に入ってくれて、私を受け入れてくれると。今こうして君と同じベッドに入れる。苦労して作って良かったよ。」


「ええ、この世界をありがとうございます。私この世界がとても好きですわ。」


「良かった。君が好きなこと、して欲しいこと、欲しいもの、色々教えておくれ。できる限り叶えて私の愛を示したい。」


 背後から抱きしめられる。もう、ドキドキなんてしないからね!!それにしても、これは好都合。できる限り情報を引き出し、ありとあらゆる要求を認めさせなければ!!あ、でも、今日だけで畳み掛けちゃダメよ。順番も大事。相手がイエスと言いやすい事から初めてイエスの流れを作ってみよう。焦らず、ゆっくり、急がば回れ!!


「好きなこと、というか、そうですわね。暴力は嫌いですわ。叩かれたら多分どんなに好きでも嫌いになります。」


とりあえず、DV阻止から入ろう!!まずは身の安全よ!


「え?」


え?って何??もちろんだよ!!とかじゃないの??愛してるとか言ってたじゃない!!永遠の安寧じゃないの?!


「えーっと、それは愛があっても?プレイとしてもダメ?」


「ダメです!!」


何するつもりだった!!

ああ、これだから悪魔というやつは!!


「う、えーっと、君には色々教えてあげたいんだけど。」


「そちら方面はご遠慮いたします。」


しゅんとしてる!わー犬っぽい。ぺたんと寝た耳の幻が見える。


「わ、分かったよ。我慢する……」


よ、良かった。ただのジャブ、イエスを言わせるためのお願いだったんだけど、言って良かったわ。


「あとは、その、お願いがあるのですが。」


「何??あまり難しいことを言わないで。さっきのは衝撃だった。」


ふかーく落ち込んだように、目をウルウルさせている男には、さっさと本題に入った方が良さそうだ。


「マデリーンがアルス様の妻にはなりたくないと言っていますの。お助け下さいませんか?」


すると、悪魔さんはまた驚いたような顔をする。


「どうして?君はあのカップルが好きだったんだろう?それにマデリーンはもうアルスのプロポーズを受けたはずだけど。」


「それは、アルス様を人間だと思っていた時の事で、その、本性を表されたら性格も随分違うことが分かりましたし……」


悪魔さんは少し考え込んだ。


「私としては、君が良いなら構わないんだけどね。アルスが納得するかな。あいつは少し面倒で。」


「あの、アルス様は何者なのでしょう?ベルゼ様の部下の悪魔ではないのですか?」


「うん。部下ではないんだよ。協力関係になりたいと言われてね。暴れられたら面倒だな。まあ、私の敵ではないんだけどね。」


「あの、ベルゼ様のように私も知っているような有名な悪魔なんですか?」


「うーん。どうなんだろう。君の好奇心に応えてあげたいけれど、アルスに深入りするのはやめた方が良いよ。名前も知らない方が良い。神や悪魔の名前を呼べばそれだけである種の縁ができてしまう。まあ、マデリーンの希望は伝えておくよ。もしかして、ほかに好きな人でも出来たのかな?」


「え、ええ、ちょっとジオル様と良い感じで、私は二人を応援したくて。」


 すると、ベルゼの瞳が輝いた。


「そうなのかい?それは良いね。マデリーンと結ばれてくれれば君との仲を心配しなくて済むからね。それなら頑張って説得してみるよ。でも、明日で良いだろう。さあ、そろそろ眠ろうか。」


 そう言って、柔らかい毛布をかけてくる。え?寝るだけ??本当に?!


「あ、あの、はい、お休みなさい。」


 下手なことを言って寝た子を起こすことはない。私は毛布を頭まで引き上げた。


「ああ、警戒していた?心配しなくても、君とのことは正式に進めるよ。ちゃんと婚約して、結婚してそれからが良いよね?」


「は、はい。そうしていただけるなら、嬉しいです。」


「喜んでもらえて良かったよ。じゃあお休み。楽しい夢を見よう。」


 私は何故か急速に眠くなり、どんどん意識が薄れていった。


「でも、夢の中では良いよね?私の女神。」


最後に甘い甘い悪魔の囁きを聞いた気がした。

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