9 ダンジョンテーマパーク再び
「ここが、そのダンジョンか……」
「ああ、まあ見ての通り、生まれてからそう時間は経っていないぞ」
「報告にあったままか。いや今さら疑うつもりもないがな……」
ダンジョン前でのんきに会話をするヴィルヘルムとゲオルク。
その後ろにはユリウスとヨハン、ノーラとリーゼロッテに加え、さらに四人の男女が随行している。こっちは冒険者ギルドの職員たちだ。
彼らは現在、調査隊としてアルマのダンジョンを訪れていた。
あの報告の場では驚愕の事実が明らかになったが、その結果としてダンジョンマスターの少女アルマは信用できると判断されている。
とはいえ調査隊の派遣は形だけでも必要という結論から、案内役としてゲオルク率いるパーティと職員たち、そしてなぜかギルドマスターであるヴィルヘルムまで同行したのであった。
本人いわく、自分の目で確かめるのが一番だ、ということだ。
常識的に考えればギルドのトップが危険なダンジョンに潜るなど無謀とも言える行動であり、同行する職員たちからも引き止められた。
だがダンジョンマスターを信用できると宣言した二人の少女。
聖女と大賢者の弟子であるノーラとリーゼロッテのおかげで、すでにヴィルヘルムの中ではダンジョンに対する警戒心などなかった。
聖女の弟子とも呼べるノーラ。
そんな彼女が冒険者として活動していた理由は、当の聖女から『冒険者として経験を積むべし』との教えを受けたからだ。
実際、ノーラは白の魔術師として才能もあり、例えダンジョン攻略であっても大いに活躍できるだろう。
ただし、敵はモンスターばかりとは限らない。
悪しき心を持った人間に騙されてしまわないように、聖女はひとつの秘宝をノーラに貸し与えた。
審判の銀杖。
この杖を向けられた者の言葉に嘘偽りがないか、杖を手にした者だけが真偽を判別できる、まさしく名の通り女神が下す審判……とされている。
その正体は大昔にどこかのダンジョンマスターが作り出した魔道具を、攻略者が持ち帰った物だが、真相を知る者はいない。
ともあれ、この杖のおかげでノーラは騙されることもなく活動を続け、そしてアルマが真実のみを述べている正直者だと知ったのだ。
すぐにゲオルクたちパーティメンバーや、冒険者ギルドにも伝えたかったが、自身の素性と杖の性能は、聖女からの教えで秘匿しなければならなかった。
故にノーラは聖女と連絡を取り、限られた相手にのみ打ち明けても良いという承諾を得て、どうにか報告に間に合わせたのである。
一方、リーゼロッテも似たようなものだ。
大賢者の弟子だった彼女もまた、とある経緯から冒険者になった。
そして同じようにアルマが善なる者だと知り、途中からはノーラと協力してアルマ擁護のために動いたのである。
ただノーラと異なり、彼女は嘘ではなく『カルマ』を読み取っていた。
黒の魔術師は六色の属性を操る。
単純に炎、水、風、地、光、闇と大別される内、闇属性の魔術には人間が積み重ねたカルマ……厳密には悪のカルマを色で計測できる魔術があるのだ。
リーゼロッテは出会う人物、全員のカルマを計っており、もちろんアルマに対しても魔術を行使し、そして知った。
そもそもカルマとは、それまでの生き方だ。
良い人生を送れば善のカルマが、悪しき人生を送れば悪のカルマが魂に積み重なるとされている。
具体的にどのような判断基準なのかは解明されていないものの、子供でも悪のカルマは灰色に近く、大人なら褐色に、犯罪者ともなればドス黒い色を宿している辺りから、その者の性質が見透かせるのだが――。
アルマが積み重ねた悪のカルマは……無色だ。
これは赤子と同等であり、完全に無垢なる存在を意味していた。
だがアルマはダンジョンマスター。赤子のように身動きできないわけでもない彼女が、まったく悪のカルマを積み重ねていないのは奇跡に等しい。
いや、むしろアルマこそ奇跡の体現者。つまり天使だ!
……と、リーゼロッテは信じている。
「では打ち合わせ通り、まず俺たちから先に入るぞ」
「ああ、頼んだ」
実際に会ったゲオルクたちと、話を聞いたヴィルヘルムはアルマの善性を知っているが、連れて来たギルド職員たちは違う。
調査隊のメンバーとして、なぜか非戦闘員なのに招集され、向かう先の説明は受けているがノーラとリーゼロッテの素性について知らされていなかった。
安全性だけは説いているが、やはりダンジョンへの怖れは拭い切れない。
そんな職員たちの不安を軽減するために、まずはゲオルクたちだけで先行すると決められていたのである。
「みんなも準備はいいな……といっても、特に危険もないわけだが」
「ダンジョンに入るってのに、こんな緊張感がないのもおかしいけどな」
「安全なら喜んでいいんじゃないかな」
「ですがアルマさんは、こちらの状況を知りませんから慎重に行動しましょう」
「……早く行こう」
三日前と同じメンバーで、しかし三日前とは大違いな気楽さで、五人はダンジョンへと潜って行く。
相変わらず簡素な構造であり、あっという間にアトラクションが待ち受ける、一部にとっては苦々しい表情になってしまう大空間へ到着した。
「さて……呼べば来てくれるか?」
「そうだな、たしか前はいつの間にかいたよな?」
ゲオルクとユリウスが辺りを見回す。
ダンジョンの様子はジェットコースターとフリーフォールの他、新たに様々な物が増えており、見栄えが良くなっているがアルマの姿は見えない。
「この前の建物にいるんじゃないかな」
「そうですね、もうすぐ日も暮れる頃ですし、お料理を作っているのでは?」
「……あっちの新しい乗り物かも」
あえて二人が目を逸らしていた巨大建築物に、リーゼロッテは早く乗ってみたいとでも言いたげに見つめていた。
ノーラは顔を背け、ヨハンに至っては顔色が悪い。
どちらにせよアルマは、そこにはいない。
なぜなら……。
「あれ? もう来てたんですか、みなさん……」
のんびりした声に全員が振り向くと、すぐそこにアルマが立っている。
ただし頭まで川に浸かったかのように全身ずぶ濡れで、おまけに着ているのは服とはとても呼べないほど肌を露出した……紺色の肌着みたいなものであった。
「なっ……!」
「うおっ!」
「えぇ!?」
「アルマさん!?」
「……めっ」
瞬時に紳士であった男性陣が目を逸らし、女性陣二人が慌てて上着をアルマに被せようと飛び掛かって行く。
「え、ええぇ、なんですかっ!?」
紺色の肌着……スクール水着を身に着けたアルマは、ワケがわからないといった声をあげて狼狽える。
なぜならアルマは知らない。
この世界において薄い生地の水着は未だ存在せず、さらに淑女が乱りに肌を晒して男性に見せるのは、はしたない行為とされていたのだ。
つまり、ふとももが完全に露出したアルマの姿は、もはや素っ裸で現れたも同然なのであった。
これは男性側からしても、ちょっと刺激が強くて直視できない格好である。
アルマがノーラとリーゼロッテに建物の陰まで連れ込まれ、お説教されたのは言うまでもない。




