21 主たちの集い1
いつの間にかボクは薄暗くて古めかしいけど、清潔感のある洋風の部屋に立っていた。
燭台の明かりで照らし出されるのは、四隅に設置された謎の紫水晶と、足元に描かれた複雑で怪しい魔法陣だ。
たしか精神体だけが集まるって言ってたけど、これがボクを幽体離脱させている装置なのかな?
でも……ボクが自分の体を見回してみても、普段と変わった様子はない。
服装もまったく同じだ。
いきなりだったから薄着のまま連れて来られちゃったけど、部屋の空気が暖かいから寒さは感じないかな。
というか持っている物は、全部そのまま持ち込めるみたいだ。
なぜならボクの手に、ワインボトルが握られていたから。
すごく邪魔なんだけど……ここに置いて行ったら迷惑かな? 迷惑だよね。とりあえず持っとこう。
「ようこそナンデモニウムへ」
「うぇ? あっ、はい。お招きいただきありがとうございます」
天井から吊るされていた筒状のランプが急に話しかけてきた。
誰もいないと思って気を抜いていたから変な声が出ちゃったよ。
「私は主の皆様の案内役を仰せつかっております。何かわからないことがありましたら、どうぞ遠慮なくお聞きください」
「えっと、ここってナンデモニウムなんですか?」
「仰る通りです。夜会の主催者は私を創造された主ですので、会場もこちらで提供させて頂いております」
このランプさんはモンスターだったみたいだ。
いやまあ、他にランプが喋る理由が見つからないけども……。
「他に質問がなければ、会場の方へご案内致しますが」
「……じゃあ、お願いしますね」
色々と急だから心の準備ができてないけど、今さら戻るのも違う気がしたので、覚悟を決めて前へ進むことにした。
「かしこまりました」
ランプは恭しく言うと飛び降りて、吊るされていた一本の細長い鎖をヘビのように動かし、にょろにょろと部屋の外へ移動する。
その足元を照らしてくれる明かりに付いて行くと、石造りのお城のような廊下がまっすぐ伸びて、すぐにトンネルの出口みたいな大きな扉が見えた。
「うわぁ、すごい……」
扉の先には思わず立ち止まってしまう光景が広がっていた。
例えるなら悪の秘密結社の怪人が集まる地下聖堂みたいな感じだ。
広さはコンサートホールくらいで、舞台のところには巨大な祭壇らしきものが壁一面に建てられている。たくさんのロウソクが深い暗闇の中、赤い輝きを放っているのが幻想的だった。
その正面には木製のアンティークっぽい長いテーブルが並べられている。なんとなく魔法学校を思い浮かべるね。
座っていいのかランプに聞くと、特に決まりはないので自由に座ったり移動したりしていいらしい。
ひとまず近くのイスに座っておこう。
落ち着いたところで周囲を見渡すと、ボクが通ってきた通路と同じのが他にいくつもあったみたいで、そこを通って来たらしい他のダンジョンの主の姿があちらこちらに見える。
その数は百人以上……いや、百体かな?
「……怪人のバーゲンセールだ」
ゴーレムみたいな岩の巨人や、内側から青い炎が漏れる骸骨、三メートルくらいあるオオカミ男、白いハニワなどなど。
見た目からして怪物って感じがする。ちょっと怖い。
一見すると人間に近くても、中身が空っぽの騎士甲冑だったり、機械みたいな腕が何本も浮いている怪しいフード人間だったり、頭が時計塔人間だったりと、とにかく普通の人間らしい姿は見当たらない。
中には完全に雪だるまの姿をしていたり、歩くエリンギのお化けや、巨大ブロッコリーみたいなのも混ざっている。会話できるのかも怪しい。
ボク以外のダンジョンの主を初めて見たけど、これが普通なのかな?
どちらかと言えばモンスターっぽい気がしなくもない……できれば人間に近い姿をしてくれていたら話しかけやすいのに。
というのもボクが参加を決めた理由のひとつが、他のダンジョンの主のことを知りたかったのと、少し話がしてみたかったからだ。
ダンジョンは人間の敵って言われているけど、ボクみたいに無理やり任命されて仕方なくモンスターを作っている主だっているかも知れないからね。
もしそうだったら、絶叫マシンで恐怖エネルギーを回収する方法を教えてあげれば、もう人間と戦う必要はなくなるはずだよ。
ついでに例の村を襲ったダンジョンについても調べようと考えている。
夜美さんがボクのダンジョンに攻撃してくるかもって心配していたし、これだけの主が集まっているなら、参加していると思うんだけど……これ、多すぎて逆に見つけるの難しいかも。
せめてボクにダンジョンの主を押し付けたブラリアンが何者なのか、その正体の糸口くらいは掴んでおきたいところだ。
そのためにも、まずはコミュニケーションから始めないといけない。
ボクは隣に視線を向ける。
青いトカゲ……恐竜? 二頭身にデフォルメされた三十センチくらいの、たぶんトカゲっぽい生き物がテーブルの上に座って、ぼんやりと宙を見つめていた。
「あのー」
「……?」
「ボクはアルマと言いまして……」
「……!」
「あ、はい、よろしくお願いします」
トカゲは短いおててをぶんぶん振って、喜びをアピールしているのか、歓迎してくれているのか、あるいは威嚇しているみたいだった。
……なに言ってるのか全然わかんにゃい。
ボクから声をかけておいて申し訳ないけど、せめて言葉が話せる相手にするべきだったね。
やっぱり他の誰かにしようとトカゲから視線を上げたら、三つの異形の影がこちらに向かって来る。
顔みたいな洞がある歩く枯れ木と、二足歩行する外套を纏った山羊と、土のブロックが人の形に積みあがった積み木のおもちゃ人間だ。
「お前、見かけない、ヤツだ」
「もしかして初めてなんじゃないか? ここ来るのはさ」
「人に近いということは血胤を統べる者と同じタイプか」
意外というか、トカゲと違って普通に人間の言葉で話しかけられた。
それぞれ特徴的ながらも、聞き取りやすい声だったのもギャップがあってボクは少し戸惑ってしまう。
「え、ええと……ぶらっどるーらー、というのは知りませんけど、一応ダンジョンの主をやってるアルマと言います」
その三体はボクの言葉に顔らしき部分を見合わせて、納得したように頷く。
「知らない、やっぱり、新しい、ヤツだ」
「それならオレが教えてやろう! 血胤を統べる者というのはだな、遥か昔から存在するっていうダンジョンさ」
「たしか千年前とか、二千年前からいるって言われてるな」
「そ、そんなに前からですか?」
長く生きていればいるほどエネルギーも集まって、強く大きいダンジョンに成長しているはずだ。
もしかして世界最大のダンジョンだったりするんじゃ……。
「本当かは知らん」
「えぇ……」
腕を組んだ山羊がしれっと言うので、ついボクは露骨に落胆してしまった。
「同じくらいのは他に二体いるだけだからな」
「ああ、厄災の魔様と、よくわからん欠落物質だよな」
つまり何千年も生きているかもしれないダンジョンが、合計で三つもあるみたいだけど、それを証明できるのが当事者だけだから真相は曖昧らしい。
ボクが気になったのは、その三者のうち『カラミティ』と呼ばれているダンジョンの主だけが『様』を付けられていたことだ。
「そりゃ厄災の魔様は、厄災の魔様だからさ」
「簡単に言えば、他のどのダンジョンの主より優れた御方だ」
より詳しく聞けば、ダンジョンの主たちにも派閥というかチームというか、所属しているグループがあるみたいだ。
そのトップに君臨しているのが、さっき言っていた三体の主たちで、この山羊たちはカラミティさんのグループに所属しているわけだね。
そしてカラミティさんのグループが一番大きくて、その次にミッシング・マスさん。一番下がブラッドルーラーさんと続くけど……ブラッドさんだけ所属している主が本人の他にいないので、まともなグループになってないらしい。
「ほら、ちょうどあそこにいるのが血胤を統べる者さ」
言われて山羊の蹄が指す先を見ると、テーブルに突っ伏して寝ている銀髪の人がいた。黒いコートが全身を覆っているから素肌は確認できないけど、たしかに普通の人間っぽい見た目だ。
「せっかく集まっているのに寝ちゃってますね」
「あれは寝たふりだ」
「え?」
積み木のおもちゃ人間がこっそり教えてくれる。
「あいつは話をする相手がいないから、いつもああしているんだ」
ブラッドルーラーさん、友だちがいないのかな……。
それなら参加しなければいいのでは、と思ったけど他に参加する理由があるのかも知れないよね。
そっとしておこう……他のみんなもそうしているみたいだし。
それからもボクは山羊たちに、色々なことを教えて貰った。ボクが新人だからなのか、見た目と違って三名とも親切だ。
でも名前はないらしい。
というかダンジョンの主の多くは名前がないようだ。
てきとうに呼んだり呼ばれたりするから必要ないって話だけど、その中でも名前があって、実力もあるカラミティさんたちは本当に特別なダンジョンの主で、人間たちからも恐れられているという。
そのカラミティさんの外見は巨大なドラゴンで、凶悪な見た目の通り『力こそすべて』が信条だから、グループに入るなら覚悟が必要だと注意された。
でも体が大きすぎて邪魔になるから、特に理由がなければこういった集まりに参加しないみたいだ。実は優しい?
あとミッシング・マスさんの外見は白い巨石で、いつも宙に浮いているだけで誰も言葉を交わしたところを見たことがないという。
だけど、なぜか一部の主から慕われる不思議な魅力があるとかないとか。
ダンジョンの主たちのトップクラスだけあって、なかなか癖が強そうだね。
「新顔、人間は、苦しめるの、当然だ。でも、殺さない。気をつけろ」
「……はい?」
枯れ木の喋り方は独特で、長文になると少し理解し辛い。
苦しめるけど、殺さない……あ、もしかして。
「人間を殺したらエネルギーを回収できないからですか?」
「それも、ある」
「あまり人間を殺すと、めちゃくちゃ怒って攻めて来るからさ」
「なるほど……そういう意味でしたか」
前にゲオルクから聞いたけど、あまりにも危険だと判断されたら神殿が本気で攻略に乗り出すらしいから、きっとそれのことだね。
ほどほどに苦しめて、あまり死者を出さないようにするのが、ダンジョンの主が長生きする方法なんだと思う。
だけど、それも絶叫マシンでエネルギーを回収すれば解決――――。
「それ以前の話として、我らの目的は人間を苦しめることだからだな」
「え、苦しめる? つまりエネルギーを回収するって意味ですよね?」
「いいや、エネルギーは手段として必要だろうが、それが目的ではないな」
……どういう意味だろう?
「あの、ボクって気付いたらダンジョンの主になっていて、なんかダンジョンを運営しろって誰かに言われただけで、よくわからないんですけど……」
「オレたちも知らないさ。ただ人間を痛めつけて、泣かせて、追い返すだけでいいんだよ。別に殺さなくてもいいのさ」
なんだかダンジョンという存在そのものに誤解というか、大きな勘違いがあるような気がしてきたよ。
「どうして人間を苦しめるんですか?」
「さあ? お前らは知ってるか」
「知らん」
「考えた、こともない」
とても興味がなさそうな三名の主。
別に人間を殺すつもりはないけど、攻撃したら死んじゃったりもするし、死んでしまったからといって悲しくもないし、別に困ったりもしない。
ただ殺し過ぎると人間たちが本気で攻めて来るから、あまり殺さないように気を付けている……という程度の認識だった。
これは他のダンジョンの主も同じで、基本的に人間がどうなろうとも気にしないらしい。
ボクの予想ではエネルギーを得られないと死んでしまうから、仕方なく人間を苦しめて恐怖を搾取しているんだと思ってたけど、彼らの話ではエネルギーを得るのが目的ではなく、苦しめること自体が目的だという。
もっと詳しく知りたいけど、残念ながら誰も知らないみたいだし、そもそも理由とか少しも気にしてないみたいだ。
やっぱり根本的に、人間とは考え方が違うのかも……。
こうなると絶叫マシンでエネルギーを得る方法を教えても、人間を苦しめるという目的に沿うのか怪しい。最悪の場合、より凶悪なマシンに改造されて拷問道具にされてしまう恐れだってあるよね。
教えるのは控えておこう。
ちなみに血気盛んで武闘派なダンジョンの主も存在していて、そういう主は積極的に人間の街まで攻め込んだりしているのだとか。
人間側が持つダンジョンへのイメージは、ほとんどがそういった一部の主によるものだったらしい。
ダンジョンの主にも、色々いるんだね。
一通り話し終えると、山羊たちも満足したのか他のところに行ってしまった。
もう少し聞きたかったけど、もう本当になにも知らないっぽいし、別の主からも話を聞いてみようかな。
少しだけメタリックチャイルドやるつもりが遅くなりました。
今はアクトレイザーやっています。楽しい。




