20 新年会のご案内
終末に投稿するつもりが遅くなりました。
今日は冒険者ギルド支部の支部長室にボクとすずちゃん、クーちゃんの三人で訪れていた。
理由はゲオルクに確認したいことがあるからなんだけど……。
「どうでしたか?」
「お嬢ちゃんに頼まれて調べたが、たしかに例の村で噂になっていたダンジョンマスターは白髪に獣の耳と尻尾を生やした……まあ美人で、名前はクーコってことになっていたな」
なにも言えないボクは、ゆっくり視線を隣に移す。
そこにはソファではなく床に正座させられたクーちゃんと、その背後に黒い炎を揺らめかせて立つすずちゃんがいた。
クーちゃんはかわいそうなくらい青褪めているし、すずちゃんは怖いくらい無表情なので、ボクも下手に擁護できない。
そもそもの発端は、ひとつの噂話だ。
村の少女がダンジョンマスターと出会ったという噂話がギルド側にまで広がったんだけど、その内容が明らかにおかしかった。
なぜかダンジョンの主がクーちゃんになっていたのである。
これを耳にしたすずちゃんは、すぐさま狐楼閣にすっ飛んで締め上げたとか、縄で吊るして尋問したとか……茶々子ちゃんが震えながら語ってくれたよ。
その際にクーちゃんは身に覚えがないと容疑を否定していたけど、こうして調べて貰ったら噂は実際に出回っているのが確認できた。
すずちゃんの尻尾から火炎放射の如く黒炎が立ち昇る……な、なにそれ?
「言い残したことはあるのです?」
「ななななにかの間違い、な、なのじゃぁ!」
「アルマ様の御前なのです。クーコ、潔く反逆を認めるのです」
「すずちゃん……きっとクーちゃんの知らないところで噂になっただけで反逆なんてそんな」
「アルマ様からの慈悲なのです。最後に弁明の余地を与えるのです」
いや最後とかじゃないからね。
でも、とりあえずクーちゃんに心当たりがないか色々と聞いてみたら、少し前に村の子供を狐楼閣に招待したことがわかった。
きっと、その子が勘違いして噂が広まったのだろうとボクは結論付ける。
それに……もしかしたら、これは良い機会かも知れない。
「ゲオルクさん、例の影武者ですけどクーちゃんに任せていいですか?」
「それは構わないが……」
「どっちしても他に適任者がいませんし、だったらちょうどいいと思うんです」
すでにダンジョンの主だと認識されているなら、これから訪れる人も噂を聞くだけで誤解してくれるからね。
ただ、まあちょっとだけ不安ではあるけども。
「アルマ様、これに任せて大丈夫なのです?」
「…………」
鋭い一言にボクは言葉が詰まってしまった。
「も、問題ないのじゃ! アルマちゃん様よ、クーに任せて欲しいのじゃ!」
一方でクーちゃんは活路を見出したようにボクの提案に食い付いていた。すずちゃんがよっぽど怖いのか。
動機はともあれ、本人のやる気があるならお願いしてみよう。
「じゃあクーちゃんは今日からボクの影武者……ボクが裏のダンジョンの主だとしたら、表のダンジョンの主ですね!」
「わかったのじゃ!」
「アルマ様が言うなら……わかったのです」
まだちょっと不満そうだけど、すずちゃんは小さく『普段は狐楼閣に閉じ込めておけばよさそうなのです』などと呟いていた。
少しだけ、なるほど、と思ってしまったのはナイショだ。
「ほれほれ、すずよ。クーはダンジョンの主なのじゃー」
「調子に乗るんじゃねーのです」
「ほぎゃぁ!?」
黒い炎みたいになっている尻尾に顔面を叩かれて、クーちゃんは床をごろごろと転がった。痛そうだけど熱くはないのかな?
ともかく丸く収まってよかった。
影武者の件も解決したし、結果よければオーライだね。
「あっ、そうじゃ! アルマちゃん様にお願いがあったのじゃ」
「なんですか?」
「おいしい羊肉が欲しいのじゃ。あと、お菓子も追加で欲しいのじゃ」
「……お前、本当に、立場を、弁えろ、なのです」
「ひぃ!? 待って欲しいのじゃ! クーが食べたいわけじゃないのじゃ!」
「すずちゃん少し落ち着いて……」
再びすずちゃんの尻尾が黒い炎に包まれて、クーちゃんが青褪めて首をぶんぶん振るので、ボクが仲裁に入った。
よくお菓子をおねだりすることが多いクーちゃんで、この前もコンペイトウをあげたばかりだけど、お肉を欲しがるのは初めてだ。
「お菓子はわかりますけど、どうして羊のお肉なんですか?」
「それは、なのじゃ……」
クーちゃんによると、狐楼閣に招待した村の子供が誕生日のお祝いで食べるはずだった羊が、モンスターの襲撃とヴァルハラへの避難によって台無しになってしまったのだとか。
その時はクーちゃんがお菓子を大盤振る舞いしてお祝いしたけど、できれば本来の予定通り、おいしい羊のお肉を食べさせてあげたい……というのがクーちゃんのお願いだった。
な、なんて……なんて優しいんだろう。
クーちゃんを表のダンジョンの主にしたのは正解だったとボクは直感したよ。
「そういうことだったらボクは大賛成ですよ! すずちゃんもいいですよね?」
「アルマ様が言うならいいのです」
「だったらお嬢ちゃん、四季神祭で出すのはどうだ? その子だけ特別扱いするのは不満に思う奴も出るからな」
「……たしかに、ひとりだけお祝いしたら他の子供がかわいそうですし、かといって全員分のお祝いまでは難しいですね」
ゲオルクの言う四季神祭というのは、新年を前に行われる年越しのお祭りみたいなものらしい。つまり新年祭だね。
ヴァルハラでも開催する予定というか、ボクが放っておいてもギルドの人たちだけで勝手に始める勢いだった。
それくらい楽しみにされている日だ。
だから誕生日のお祝いとしてではなく、新年を祝うお祭りで羊のお肉を出せば特別扱いにはならない……というわけだね。
実際みんなも食べられるわけだから、不満なんてなくなるはずだ。
「じゃあ新年祭で盛大に出しちゃいますね! 羊祭りです!」
「おおっ、ありがとうなのじゃ、アルマちゃん様!」
「むぎゅぅ」
クーちゃんに感謝されながら抱き締められてしまい、苦しいけど温かくて柔らかくて幸せな心地になれる。
ただ問題は、ボクが羊のお肉を上手くイメージできるかどうかなんだけど、今のうちに練習しておこうかな……。
そんなこんなで数日もすると、とうとう雪が降り始めた。
雪が積もると馬車が通れなくなるって聞いていたから、ヴァルハラ内では少しだけ調整して降り過ぎないように設定してある。
おかげで一面の雪景色だけど、歩く分にはそこまで苦労しない程度の積雪量に落ち着いたよ。
一方でヴァルハラの外は、一歩出るのも苦労しそうなほど積もっていた。
ボクも出入口までは見に行ったけど……壁ができあがっていたよ。
あれじゃ馬車どころか、人だってまともに歩けないと思う。早めに村人の避難が終わって本当に良かった。
とりあえずワンダ君たちにお願いして、工事用に作ったゴーレムたちを総動員しての雪かきを実施することで、なんとか街までの道は確保しておく。
これには馬車の往来を諦めていた商人ギルドが、大喜びしていたよ。
聞けば、雪道で荷運びするにはソリを引くしかないという。
せっかく魔術がある世界なのに、他に移動方法がないのかな?
例えば風の魔術で雪の上を走らせるとか。
それをリゼちゃんに聞いてみると、移動するのに魔術を利用するのは一部の貴族や王族など特権階級で、普通はやらないらしい。
なぜならお湯を沸かしたり、洗濯物を洗って乾かしたり、雪かきしたりと、魔術が求められている場所は多いから、魔術師そのものの手が足りていないようだ。
そもそも馬車を浮かせられるような一流の魔術師も、あまり多くなかった。
もっと言えば魔術師も寒い中で遠出したくないし、引きこもって研究に没頭するのが冬の過ごし方のようだ。
たしか前に夜美さんが、他のダンジョンに攻め込まれるかも知れないって心配していたけど……それほど雪道が手ごわいなら春まで安心できそうだね。
モンスターだって雪をかきわけてまで他のダンジョンに攻め込んでも、その頃には凍えて動けないからね。もはや天然の城塞だよ。
そんなことより、今は新年祭について考えよう。
もう二週間ほどで今年も終わる。
これが地球だったら、一週間後くらいにクリスマスがあるんだけど、この世界にクリスマスという概念はなかった。
ないものは仕方ないけど、ボクは少しだけ寂しいというか、もったいない気がしてしまう。
なので、せっかくだから新年祭とクリスマスを一緒にやるつもりだ。
飾り付けはイルミネーションにツリーも用意して、チキンやケーキに、身近の人にはプレゼントも準備しちゃおう。
食べ物はすべて無料で……お酒は、うーん、どうしよう?
未だにゲオルクや他の人たちからお酒の要望書は多い。そんなにボクが作ったお酒が飲みたいのだろうか。
とはいっても、ボクに作れるお酒は月霊酒だけで、これは一種のポーションみたいなものだし、気軽に飲むような物じゃない。
……あれ、もしかしたらお酒もエネルギーなら作れるかも?
今までだって曖昧なイメージでも、なんとなくで料理が出せたりするし、アトラクションも構造はよく知らないのに完成品のイメージだけで作れた。
だから飲んだことも味も知らなくても、こう……おいしいお酒のイメージを込めるだけで作れちゃったりするんじゃ――――。
「……できちゃった」
ボクの手に一本のボトルが出現していた。
イメージしたのがワインだったせいか、中身は赤というか赤みがかった黒っぽい感じだ。
でも色はきっと品質に関係ない。
すべてイメージした通りだったら、たぶん『おいしいお酒』になっているはずだからね。
言ってしまえば、このワインは既存の種類にない、まったく新しい物になる。
実際においしいかどうかは、飲まないとわからないけど……。
「ボクは飲もうとは思わないけどね」
あとで誰かに味見して貰おうと、自分の部屋に保管しておこうとした……その時だった。不意にどこからか鈴の音で呼びかけられた気がした。
「あ、これってダンジョン同士の電話かな?」
エネルギー循環ラインに繋げるという、よくわからない原理の連絡手段で、ボクがナンデモニウムと連絡を取るのに利用しているアレである。
他のダンジョンとも繋げられるから、ボクの認識では家の電話って感じなんだけど、これってどこからだろう?
今までナンデモニウム以外のダンジョンと連絡を取ったことはないので、ちょっと怖いけど放っておくわけにもいかない。
それに、もしかしたら他のダンジョンがボクのヴァルハラに興味を持って連絡してくれたのかも知れないよね。
少し期待しつつ、ダンジョン電話に出てみる。
「はい、ヴァルハラのアルマですけど」
『こちら仲介ダンジョンのナンデモニウムです』
まさかのナンデモニウムだった。
別にいいんだけど、ほんのちょっとだけガッカリしちゃったよ。
さすがに失礼なので気を取り直しつつ、なんの用か聞いてみると、ダンジョンの主が集まる新年会があるので、そのお誘いだという。
「え、集まれるんですか?」
『厳密に表現しますと、肉体はそのままで精神体だけが一堂に会する形となっております』
幽体離脱みたいなものかな?
「他のダンジョンの主は、みんな参加しているんですか?」
『理由はそれぞれですが、全体の過半数は参加しております。特に新しい主の皆様は先達からのアドバイスと支援を得るため、積極的に参加しているようです』
ダンジョンの主にも序列があるようで、まだ小さいダンジョンの主は先輩を頼って助けて貰おうとすることが多いらしい。
でも、だいたいは断られるから、支援を得られるのは、そのダンジョンの主にとってよっぽどの『お気に入り』じゃないと難しいみたいだ。
まあ他にも近隣のダンジョン同士で協力したり、情報交換の場としても活用されるみたいだから、一度は参加しておいたほうがいい、とナンデモニウムの人が教えてくれた。
襲われる危険もないみたいだし、もうボクは参加する気になっている。
「参加してみようと思いますけど、いつからなんですか?」
『ご参加ありがとうございます。今からですので、すぐにご案内します』
「えっ、それって、あ、ちょっとま――――」
ふわぁーっと意識が浮くような感覚がして、目の前が真っ暗になったと思ったら次の瞬間には、ボクはヴァルハラではない場所に立っていた。
……参加するとは言ったけどさ、急すぎるよ。
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