3 初めての来場者たち2
「はじめまして。ボクは、このダンジョンの主をやっているアルマです。そしてダンジョンテーマパーク『ヴァルハラ』へようこそ!」
ボクが自己紹介したら、目の前の五人が黙り込んでしまった。
たぶんダンジョン攻略に来たんだと思うけど、もし違ったら名乗り損だ。
でも四日くらい前に変なのがダンジョン前でうろうろしてたから、仲間を連れてくるんだろうなって期待してたんだよね。たぶん間違いないと思う。
改めて観察する。
五人の男女は、年齢も服装もバラバラだ。
全体的に灰色の大男は戦士っぽい恰好で大きな斧を持っているし、それより若いイケメンは弓矢を装備しているから狩人のように見える。
さらに若く、本来のボクと同い年くらいの三人は見習い剣士、僧侶、魔法使いといった感じかな。
見習いだと思ったのは身に着けている防具が大男より貧弱だったからだ。僧侶っぽいのは白いローブだからで、実際は違うかも知れない。魔法使いは逆に黒いローブと大きな帽子なので間違いない。
まるでRPGみたいな人たちだ。
そうして反応を待っていると、リーダーっぽい大男が動いた。
髪もヒゲも灰色なせいで遠目には老人のように見えたけど、その険しい顔付きは老いとは無縁といった風格で歴戦の戦士って感じがする。とても強そうだ。
「あーなんだ、お嬢ちゃんがダンジョンマスターだって言うのか?」
「ダンジョンマスター? いいえ、ダンジョンの主です」
「それをダンジョンマスターと呼ぶんだが……なにか証明できるもんは」
「ちょっと待てよゲオルク、その子の言葉を信じるのかよ」
「そうは言ってないが、手っ取り早く確認だけはしておかないとな」
「つってもよぉ……いくらなんでも」
「あの、これでどうでしょう?」
揉めそうな空気だったので、ボクは信じてくれそうな能力を使う。
もちろんダンジョンの主だから、ダンジョンを作ることしかできないけど、今回はそれで十分のはず。
「ふぬー、ちょいやぁー!」
勇ましい掛け声と共に、地面から白い木製テーブルが生えた。
このくらいなら少ないエネルギーで作れるし、簡単にイメージできる。
「まさか本物か……?」
ようやく信じてくれそうになったゲオルクという人は……あれ?
いつの間にかボクの首に大斧が――。
「ゲオルクさん!?」
少年の声が響いて、ボクも現状を正しく理解した。
あとほんの少し、力を込めて斧を動かせばボクの首は切断される。
足が震えて動かない。喉が詰まって声も出ない。冷や汗が止まらない。心臓がうるさいくらいに鳴っている……あれ、ここで死ぬの?
「見かけは子供だからといってダンジョンマスターを前に黙ってはいられん」
「で、でも……!」
「私からもお願いしますゲオルクさん! その子……怯えています」
「……泣いてる」
今度は女の子二人も声をあげてくれる。
でも泣いてないから。ちょっとビックリしただけだから。
「どう思うユリウス」
「ま、その子に敵意があるなら、こんなに無防備なのもあり得ねえよ」
後ろで静観していたイケメンも、たぶん擁護してくれている。
そのおかげか、ゲオルクはボクの首に当たっていた大斧をそっと外した。
途端、ボクの足から力が急激に抜けて、またしても尻もちをついてしまう。頭は冷静でいるつもりなのに、体が震えて言うことを聞いてくれない。
「ゲオルクさん、とりあえず話だけでも……あ、その前に落ち着かせないと」
「そうなるか……」
そんな少年の提案もあって、ボクはちょっとだけ休む時間を貰えた。
近くで女の子たち……ノーラさんと、リーゼロッテちゃんという名前で、二人が付き添ってくれるけど、女の子に慰められるのが逆に情けなくて落ち込む。
あと泣いてないです。
ふう、いつまでも黙っていられない。
二十分ほどで復活したボクは、少し離れていたゲオルクと再び対峙する。
まだちょっと怖いけど、ここで逃げたら計画が台無しだ。しっかりしろボク。すぐ近くでノーラさんとリーゼロッテちゃんも付き添ってくれているんだ。
「あ、改めましてアルマと言います。ダンジョンマスター? です」
「そういや名乗ってなかったな。俺はゲオルクだ。冒険者ってわかるか?」
「なんとなくは……」
「まあそれは後回しだ。で、こっちはユリウスと……」
「ノーラさんと、リーゼロッテちゃんですよね? あとヨハン」
「なんで僕だけ呼び捨て?」
「なんとなく……」
ボクの本当の年齢からすると、たぶん同い年だからかな。
「んじゃあ、お嬢ちゃん。先に確認するが……お前は俺たちの敵か?」
「違います! そもそもボクは人間のつもりです!」
「なに? いや、だがダンジョンマスターなんだろ?」
「えっと……どこから説明しましょうか」
もっと簡単に説得できると思っていたから、なにも考えてなかったよ。
「初めから言いますが、ボクは人間でした。でも気付いたらダンジョンの主にされていました」
「……いったい誰がどうやってだ?」
「わかりません。記憶がないんです。頭の中にダンジョンの作り方とか、そんな知識はあるんですけど他はなにも……」
「その知識について詳しく教えてくれるか?」
「もちろんです。ボクも勝手にダンジョンに連れて来やがったブラリアンには怒っていますからね! ぜんぶ話してやりますよ!」
「ぶらりあん?」
頭の中で整理しつつ、ボクはゲオルクたちにダンジョンの真実を話した。
人間たちの感情を糧として、より広大に、より邪悪になることを。
「本当はボクもさっさとダンジョンから出て行きたいんですけど、ダンジョンの主はエネルギーがないと生きていけないんです」
「なるほどなぁ……だが、それならダンジョンマスターとして働くしかないように思えるが、なぜ正体を明かしたんだ?」
ようやくここまで話を持って行けた。
ここからが本題だ。ボクは気を引き締めて用意していた乗り物に指をさす。
「はい! なので、あそこのジェットコースターに皆さんで乗ってください! お願いします!」
「その、ジェットってのはなんだ?」
「物凄い速さで走る乗り物です。トロッコはご存じですか?」
「知っているが……なぜ乗らなきゃならないんだ?」
「ですから、皆さんが恐怖を感じればボクは生きていけるんです」
「ああ、そういうことか……」
そう、ボクの計画とはダンジョン内に建造したアトラクションを体験して貰うことで怖がらせ、そこからエネルギー回収するものだ。
モンスターが襲いかかった恐怖で得られるくらいなんだから、高速で落ちたり昇ったり、一回転したりすれば同じエネルギーが入るはず。
成功すれば人を犠牲にせず生きられるし、最終的にダンジョンテーマパークとして運営することも可能だ。
ちなみに『ヴァルハラ』は一足先に考えておいた名前である。意味はあんまり覚えてないけど、天国とか極楽みたいなイメージでかっこいいのを付けた。
「悪いが、それは難しいな」
「なんでですか!?」
「まだ信用できんからだ」
「そ、そんな……」
いきなりボクの計画が頓挫してがっくりと膝をついてしまう。
あれ、それじゃあボクはエネルギーを回収できないし、かといって今さらゲオルクたちを撃退することもできない。
もしかして、詰んだ?
「あの、ゲオルクさん」
「私たちでよければ乗ってみようかと」
「……興味ある」
「み、みなさん……っ!」
ヨハン、ノーラさん、リーゼロッテちゃんが賛成してくれた。
なんて優しいんだ!
「だがな、言っちゃ悪いが俺はまだお嬢ちゃんを信じられん。これが罠だったら全滅する危険もある」
「あ、だったらボクを人質にしてください」
「人質?」
「例えばゲオルクさんがボクを見張って、その間に皆さんがジェットコースターに乗るんです。もし皆さんになにかあればボクを殺しても構いませんよ」
「……そ、そうか」
ボクの提案に、ゲオルクは少し悩んでいた。
ユリウスはさっきから黙っているけど、なにかを警戒しているっぽい。
「じゃあ、お嬢ちゃんの手足をロープで縛るが、それでもいいか?」
「いいですよ」
「いいのか……」
自分で言っておいて、なんで戸惑っているんだろう?
「でも最初はボクが操作しないといけないので、片手だけは自由にさせて貰っていいですか?」
「お嬢ちゃんはこう言っているが、お前たちはいいのか?」
「もちろん!」
「アルマさんからは騙そうとする意志が感じられません」
「……楽しそう」
なぜだかヨハンたちからの信頼がハンパない。
あれかな、さっき慰められてた時に絆レベルが上がったのかな。
でもヨハンだけ関係ない。ただのお人好しなのか。
今はとても助かるので素直に感謝しよう。
「では準備はいいですかー?」
「いいよ!」
「いつでもどうぞ」
「……楽しみ」
ボクたちはジェットコースター乗り場に移動していた。
すでに三人は搭乗して、しっかり安全バーを下ろしている。
あとはボクが操作盤のスイッチを押せば発進して、放っておいても大空間に張り巡らせたレールを伝い、終着地点に着いたら自動で止まる仕組みだ。
「縛らなくていいんですか?」
「さっきのは冗談だ」
両手がフリーのボクが尋ねると、ゲオルクはあっさりそう返した。
とても冗談には聞こえなかったよ。
「な、なあ……アルマちゃん、だったか?」
「なんですか?」
急にユリウスに話しかけられたけど、スイッチは押してしまったのでジェットコースターは少しずつ動き始めている。もう止められない。
「さっきトロッコと言っていたが、あれがレールだとすると……奥でとんでもない動きをすると思うんだが」
「奥というと三回転の辺りですかね? 大丈夫です。試運転では無事でした」
「それは……自分で乗ってか?」
「やだなぁ、ボクが乗ってたら動かせないじゃないですか」
「だ、だよなぁ……」
そんな会話を聞いていたヨハンとノーラさんは顔を青くしていた。
でも実験用マネキンは傷一つなかったから、安全性はばっちりだよ。
一方でリーゼロッテちゃんだけは楽しそうだ。表情は変わらないけど、目が輝いているのでわかりやすい。
「ちゃんと確認してあるので、心配しないでくださーい」
ボクの声が届いたのかは置いておくとして、すでにジェットコースターは上り坂をぐんぐんと登って行く。
最大高度は三十メートルで、そこから一気に下り坂を滑り落ちて地面すれすれを進み、いくつかの急カーブを越えて、再び上り坂からの螺旋コーナーに差し掛かり、最後は三回転ループでトドメを刺す。
正直、この程度のコースでモンスターへの恐怖と同等のエネルギーが得られるかは悩んだけど、その辺は今後の課題として徐々に改良したいね。
まずは現状で、どれだけ効果があるかを確認だ。
「そろそろ頂点を過ぎて一気に降りて来ますよ」
「本当に大丈夫なのか?」
「もちろんです。じゃなかったら乗せませんよ」
言っている間にもジェットコースターは天から地へと滑り落ち……ついに絶叫がダンジョン内に鳴り響いた。
「うわああぁぁぁああぁあぁっぁぁぁああっ!!」
「きゃああああぁぁぁっあああぁぁあああ!!」
「わー」
今回はここまで
明日からは一話ずつ更新になります。




