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24 アルマとリーゼロッテ1

「ようこそリーゼロッテちゃん!」

「ん……きたっ」

「わわっと」


 ダンジョンの入口でリーゼロッテちゃんを出迎えると、ボクを目にした途端に駆け寄ってきて、勢いそのままに抱き着かれてしまった。

 ほんの五日ぶりだけど、また一段と甘えん坊になった気がする。


「ぬふぅ……久しぶりのアルマちゃんは格別……」

「ボクは嗜好品かなにかですか。それにたった五日ですよ」

「……毎日ずっと一緒がいい」


 嬉しい言葉ではあるけど、どうしてこんなに懐かれているのか未だによくわからないんだよね。やっぱり見た目が保護欲を駆り立てるのかな。


「そういえば、今回は冒険者ギルドとは関係ないんですよね?」

「……そう、ひとり」

「だったらずっと一緒ですね」


 少し顔を離してボクの目を見つめるリーゼロッテちゃん。近い。


「……いいの?」

「もちろんです。好きなだけボクのダンジョンにいてください」

「……アルマちゃんすき」

「ボクも好きですよー」


 突然の告白にもボクは狼狽えたりしないで、軽く頭をなでてあげる。

 もうボクにとってリーゼロッテちゃんは年下の友達とか、もしくは妹みたいな感覚だからね。慕われるのは嬉しいけど、恋愛感情は湧かないのである。

 ……というか、今のボクは体だけなら女の子だし。きっとリーゼロッテちゃんの言う『好き』も友達としてだ。

 ちょっと申し訳なく思ってたけど、余計な心配はいらないか。


「とりあえず部屋に行きましょう。疲れてませんか?」

「ん……へいき。道ができてたから楽だった」

「ああ、そういえばそうでした。それも後で説明しますね」


 いつまでも立ち話っていうのもなんだからね。

 まずは冷たいオレンジジュースで、リーゼロッテちゃんをおもてなしだ。






 ボクの部屋でおいしそうにジュースを飲むリーゼロッテちゃんに、まずはダンジョンの現状について一通り説明する。

 ダンジョンの改造をして、今は第六階層まであること。そしてそこには大型ホテルを建設したこと……。

 と、そこでボクはリーゼロッテちゃんがダンジョンで暮らすなら、大型ホテルのロイヤルスイートを使って貰おうと思い付いた。

 細かい内装はまだだけど、すぐにでも取り掛かればいいだけだ。


「リーゼロッテちゃんの部屋は、そのホテルの最上階にある……」

「……ここがいい」

「え?」

「……アルマちゃんの部屋に住む」

「そ、それは、その、ちょっと……狭いですし」

「……ダメ?」


 断ろうとしたら、悲しそうな瞳で見られてしまう。

 うう、ダメとは言い辛い。

 だけど、いくら妹みたいに思っていてもリーゼロッテちゃんは女の子で、ボクの中身は歴とした男だ。同じ部屋で暮らすのは問題があると思う。

 かといって、それを打ち明けるのは……まだちょっと怖いかも。


「わ、わかりました……この部屋を使ってください」

「……ん! ありがとうアルマちゃん」


 そう言って、にこりと笑顔を向けられてしまうと、断らなくて良かったなんて心から感じてしまう。我ながらちょろい。

 まあ、もうオーケーしてしまったので、しばらくは仕方ないと割り切って、いずれ時期を見計らって別々の部屋を提案しよう。

 これはボクだけではなく、リーゼロッテちゃんのためでもあるんだからね。


「……アルマちゃん、本」

「あ、持って来てくれたんですか……って、どこにも見当たりませんね」


 前回、別れ際に頼んだ本の調達だけど、リーゼロッテちゃんは手ぶらだ。本どころか自分の荷物すら持っていないように見える。

 まあ着替えとか日用品はボクが用意できるけど……。


「……ちょっと待ってて」


 どうするのかと黙って眺めていると、リーゼロッテちゃんはポケットから包みを取り出して広げると、中身を床に置いた。

 それは指輪を入れるような小さい箱だった。

 次に唯一の手荷物である杖の先端を、その箱へ向けるリーゼロッテちゃん。


「……コギト・エルゴ・スム・リーゼロッテ」


 小さく呟いたと思ったら、無風のはずの室内にふわりと風が舞った。

 それにエネルギーとは違う、妙な圧力を杖の辺りから感じる。


「な、なにが起きてるんです……?」

「もう終わった」

「え?」


 気付けば小さな箱があった場所に、ボクがすっぽり入れそうなほど大きな宝箱が置かれていた。

 まさかダンジョンで謎を解いたから、てろりられろりら~って出現したわけじゃないだろうし、それにデザインが小さい箱に似ている。


「もしかしてさっきの小箱ですか?」

「……そう、魔術で小さくしてた。中身は本」


 ぱかりとリーゼロッテちゃんが開けると、箱の中にはハードカバーの本がみっしりと詰まっている。


「す、すごい量ですね。重くなかったですか?」

「……空間ごと圧縮するから軽くなる」

「そんな魔術が……」


 魔術とダンジョンは関係ないから、ボクはあまり詳しくない。

 だけど空間を圧縮する魔術なんて普通じゃないことくらい想像できる。ゲームとかアニメでも、だいたい上級魔術みたいな扱いだし……。


「もしかしてリーゼロッテちゃんって、有名な魔術師だったりします?」

「違う」


 いつもより強い語気で否定された。

 それが、なにかを誤魔化しているのは明白だったけど、ボクだって異世界から転生した元男だってことは内緒にしているんだから、リーゼロッテちゃんにだけ話させるのはフェアじゃない。

 なによりボクは言いたくないことは言わなくても良いと思うので、詳しく聞かないでおこうと決める。


「そうなんですか。ところで、この本の代金なんですけど……」

「……プレゼントだから、いらない」

「でも、こんなにたくさん……」

「……今日からここで暮らす。おあいこ」


 つまり、この本は宿泊料の代わりというわけだ。

 それならボクも気兼ねなく貰えるし、リーゼロッテちゃんからしても遠慮なく滞在できるね。


「わかりました。でもお礼がしたいので、おいしいご飯を用意しますね」

「……アルマちゃんの料理すき」

「ふふふー、そんなこと言われたら今日は奮発しちゃいますよ!」

「……やった」

「でもその前に……この本の置き場所を作らないとですね」


 ざっと数えて百冊はありそうだ。

 宝箱も大きいし、このまま部屋に置いておくには少し邪魔になる。


 そんなわけでもう一室、ボクの部屋の隣に繋げて書庫にした。これなら好きな時に持ち出して読めるからね。

 ただ部屋を作るのはいつも通りなので簡単だったけど、大量の本を移動させるのは大変だった。一冊一冊が重い……。


 最初はリーゼロッテちゃんも手伝おうとしてくれたけど、来たばかりのお客さんに重労働はさせられないので、ボクはがんばって運搬作業を続けて一分。

 腕が上がらなくなってしまった。


「……だいじょうぶ? アルマちゃん」

「ぬ、ヌマネコちゃーん!」


 ――にゃーん。


 結局そんな感じでイレブンキャットが軽々と本を背に乗せて、器用に本棚へと収めてくれた。

 一応、言っておくとボクが猫より非力なわけじゃないよ。ヌマネコちゃんたちはモンスターだからね。仕方ないんだよ。


 途中、本のタイトルをいくつか読んでみた。

 不思議と見知らぬ文字はすんなり理解できたから、日本語を読むのと同じくらい違和感がない。


「これは図鑑……動物と植物? こっちは物語。あ、料理の本もある。それとこっちは魔術の本かな。タイトルは『アルス・マグナ』ってあるけど、どういう意味だろう?」


 ……読めても理解できなければ意味がないじゃないか。

 ちょっと気になるけど、今は整理が先だ。

 これが終わったらリーゼロッテちゃんに新しい階層を案内したいし、ワンダ君も紹介したいし、ご飯の準備もしないといけない。

 ゆっくり読めるのは……明日からかな。


 ようやくすべてを本棚に収めて一息付いた。

 重厚な本が並んでいるのを見ると、なんだか胸がときめく。いつかダンジョンに大図書館とか作ってみたいな。


「ありがとうございますリーゼロッテちゃん。大切にしますね」

「……もっと欲しかったら、また持ってくる」

「今はこれで十分ですよ」


 ――にゃーん。


「ヌマネコちゃんたちも、ありがとうございます」


 労いの意味を込めてなでなで、もふもふ。

 するとリーゼロッテちゃんも参加して、二人一緒になでもふ、なでもふ。


「ふう。つい夢中になってしまいましたね」

「……けっこうなお手前。でも一番はアルマちゃん」

「ボクは猫じゃありませんよ」


 抱き着くリーゼロッテちゃんを宥めながら、ヌマネコちゃんたちに自由にしていいと伝える。

 まあ基本的にボクの周りで、ごろごろしてばかりだけどね。


「それじゃあ次は他の階層に……」

「あ……忘れてた」

「どうしました?」

「……手紙」


 さっきとは別のポケットから、リーゼロッテちゃんは封筒を取り出した。しっかりと封蝋で閉じられた、なんだか格式高い感じの手紙だ。


「誰からです?」

「……冒険者ギルドから渡すように頼まれた」

「ということはギルマスさんですね」


 大事な要件だったら大変なので、その場でバリバリと開けて手紙を読む。

 内容は想像していたより言い回しが難しく、さらに数枚も続けて書かれているけど、なんとか頭に入れて理解しようと頭を捻る。


「うーんと、えっと……」

「……その辺りは挨拶だから、飛ばしてだいじょうぶ」

「あ、そうなんですか? ずっと季節がどうとか暗号かと思いました」

「……たぶん、書いたのは専門の人。公的な文書だから読んだら保管して」

「えっと、はい。わかりました」


 詳しいみたいなのでリーゼロッテちゃんに従いつつ、せっかくなので手紙も読んで貰った。

 精神的な年下に頼るのは情けないけど、向き不向きってあるからね。


「どうでした?」

「ん……まずは、これ」

「これは建物の設計図みたいですね」

「……その通りにギルド支部を作って欲しいって書いてある」

「ああ、なるほど。でもこれ建物がひとつだけじゃないですよ?」

「……全部で五つある。その許可も欲しいって書いてある」


 より詳しく聞いてみると、どうやら冒険者ギルドの他に、魔術師ギルド、商人ギルド、薬師ギルド、職人ギルドの支部も作りたいから許可が欲しいみたいだ。

 もしオーケーなら、そのまま建設に入っていいわけだね。

 それぞれ、どういうギルドなのか知らないけど……。


「これってたくさん人が来ることになりますよね?」

「……なると思う」

「じゃあ断る理由がありませんね。手紙はそれだけですか?」

「……あと、料金を取って欲しいって書いてある」


 料金……つまりダンジョンの利用料という意味らしい。

 ギルドの支部を設置する土地代や、ホテルに泊まったり、料理を食べるのにお金を取るのは、普通に考えたら常識だ。

 でもボクはお金よりエネルギーが欲しいわけで、お金なんて使い道がない。


「どうして急にお金を取るように言って来たんですかね?」

「……ちょっと難しい話になる……いい?」

「か、簡単に教えてくれませんか?」

「ん」


 理解できないと思われているのは、ちょっと落ち込みそうになるけど、たぶん事実なので気を取り直す。

 リーゼロッテちゃんの説明によると、お金が動かなくなると人間が暮らす街が困ったことになるらしい。

 だからダンジョンでお金を取って、そのお金で街から色々な物を買ったり、税金を支払って欲しいという。

 具体的な料金設定は、また後日ギルマスさんがダンジョンへ来るそうだから、その時に相談という形になるみたいだ。


「ふむふむ、要するに経済の問題ですね」

「……わかる?」

「なんとなくですが」


 急に建てられた大型デパートがあれこれサービスしたら、商店街にお客さんが来なくなって閉店し、シャッター通りになって街が寂れる感じだ。たぶん。


「よく考えたらボクにとっては得をするだけですね、これ。少し来る人が減っちゃうかもですけど……そんなに高くなければ大丈夫ですよね」


 というわけで、これもオーケーだ。

 次にギルマスさんが来たら、できるだけ安くするように頼んでみよう。


「……これで手紙は終わり」

「ふう、よかった」


 これよりも難しい話をされてたら頭がパンクしていたかも知れない。

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