20 アルマのワンダーなダンジョン作り2
透明人間の魔族、ワンダ君に街道作りを頼んで五日が経った。
直近の報告によると、ようやく木々の伐採が終わったところで、ひとまず森の入口まで直通で繋がったそうだ。
もっとも、まだ地面がでこぼこしていたり、大きな岩が埋まっていたりしているので折り返し地点といったところかな?
ここから本格的に整地して、ちゃんとした街道にするみたいだ。
その工事に際して、新しい道具をワンダ君から求められた。
伐採用の斧やらノコギリやらは先に渡してあったからボクも慣れたもので、どういう道具が欲しいのかイメージを受けて、その通りに作成する。単純な道具ほどエネルギー消費も少ないので数を揃えるのも苦じゃない。
一度だけ電動ノコギリを作ろうと思い付いたけど、すぐにエネルギーを供給できないダンジョン外では動かせないと断念した。
もちろん発電機も作れるけど、それを動かすのに今度は燃料を生成しないといけなくて、最終的な変換効率が悪かった。数日でエネルギーが枯渇してしまう。
そこで電源だけダンジョンに置いて、ひたすらコードを伸ばして外に……という方法も試したけど、エネルギーは外に出た時点で消失してしまった。
充電という方法でも同様だったので、どうやらエネルギーはダンジョン内でのみ利用できると割り切るしかなさそうだ。
ここで発想を変えて、モンスターに能力を付与しようと閃いた。
例えばゴーレムは自分の体なら自由に動かせる。そこに着目し、腕がチェーンソーになっているゴーレムを作ってみたところ……。
秒で腕が吹っ飛んだ。
摩擦に耐えられなかったみたいで、危うく自爆するところだった。
元々、ゴーレムは動くだけでも関節部が摩耗する。
それが通常の運用であれば数時間は活動できるし、ダンジョン内であればエネルギーを利用して自動修復するから、攻撃されない限り完全に壊れて動かなくなることはない。
だから単純に、ゴーレムの耐久力に問題があるみたいだ。
これが岩石じゃなくて、もっと高性能な素材で構成された……例えば金属製で関節が滑らかに動くメタルゴーレムだったら、求めている動きができると思う。
だけど、その一体だけで作成と維持に結構なエネルギーリソースを食われてしまうから、何体も揃えるにはコストが悪すぎる。
結果、普通のゴーレムに道具を持たせて伐採させるのが一番だった。
急がば回れというし、何事も下手に楽をするよりも、地道で堅実な道こそが最も近道になるんだろうね。
努力の大切さを知ったところで、この五日間のボクの成果を確認しよう。
まず大型ホテルの大部分が完成した。
逆に未完成な部分が二か所あって、ひとつが高級フロアだ。
一度はボクが考えた最高のロイヤルスイートを作ってみたんだけど、果たしてそれが通用するのか、地味でありきたりじゃないかって、最初は自信があったのに見れば見るほど不安になってしまうんだよね。
もうひとつの未完成部分は、例の空きスペースだ。
大型ホテル正面棟と、東棟は埋まっているのに対し、西棟の大部分はがら空きになっている。
ここにどんな施設を入れるのか五日間ずっと考えていたけど、思い付いたのはカジノとかバーとか、ちょっとイメージが悪いものばかりで困る。
ギャンブルなんて、どう考えてもトラブルの種だし、お酒も同じだ。
他の候補としては映画館やお店だけど、どの作品を上映するか悩むし、なにを売るのか誰が店番をするのか、という問題もある。
そんな感じで結局、悩んだまま放置気味になってしまった。
まあすぐに使う予定もないし、これから泊まる人の意見も参考にしながら改良すればいいよね。
現状でも客室やレストラン、浴場などは完成しているから、宿泊する分には問題ないはずだ。
というわけで次へ行ってみよう。
次は、新しいモンスターの作成だ。
ゲオルクから忠告された通り、信頼できる護衛を用意しないといけない。
一応ゴーレムは揃っているけど、あくまで工事用だから戦闘力は低いし、常にボクの近くで警戒させるには大きすぎる。
もっと小回りが利いて、近くにいても邪魔にならなくて、いざという時にボクを守ってくれる。そんなモンスターを作ったのだけど……。
――にゃーん。
ボクの足元で、気の抜ける鳴き声をあげるモンスター。
でろりと投げ出すように横たわる毛むくじゃらの姿からは、とても護衛として戦えるようには思えない愛らしさで……。
というか猫だ、これ。モンスターじゃない。
いや、ちゃんとエネルギーを注いで生まれた存在なので、相応の戦闘力はあるはずなんだけど、ボクの目には普通の三毛猫にしか見えないよ。
名前はマヌルネコ……じゃなくて『沼る猫』だ。
この猫型モンスターは沼地に潜んで、獲物を引きずり込むというモンスターらしい恐ろしい能力を秘めているようだ。
そういうカタログスペックなんだけど、実際に出来上がった沼る猫は、ちょっと違った能力を持っていた。
この猫、なんと溶けるのである。液体みたいに。
本物の液体というわけではなく、ある程度は形を保っているけど……なんというか、骨がなくなって肉と毛皮だけ残った猫という表現が近いかな。
なんでそんな気色悪い猫になってしまったのかは謎だけど、たぶんボクのイメージが曖昧だったのが影響していると思う。
だって上手く想像できなかったんだもん。沼る猫。
作ってしまったものは仕方ないので、このヌマネコちゃんはボクのペットとして近くを離れないように命令した。
今もボクの目の届く距離でだらだらしている。実に自由だ。
「おいで、ヌマネコちゃーん」
――にゃーん。
「わしゃわしゃわしゃ……ああもう、かわいいなぁ!」
溶けなければ普通の猫なので、これはこれでアリだった。
「よし、ヌマネコちゃん、アターック!」
――にゃーん。
遊びで街灯を指さして命令したら、ヌマネコちゃんが消えた。
あれ? と思って探していたら街灯が半ばから折れて、ゴトンッと音を立てて落ちていた。近くにはドニャ顔のヌマネコちゃん。
「ま、まさか、これをヌマネコちゃんが……?」
――にゃーん。
撫でろと言わんばかりに頭を擦り付けるヌマネコちゃん。
「す、すごい! さすがヌマネコちゃん! かわいいだけじゃない!」
抱き上げてナデナデしたら、にゃふんと満足気に鳴いた。
勢いで一万エルを注いで作っただけはあるね!
これなら護衛の役目も立派に果たせそうだし……あと十匹くらい作ろうか。
毛色や模様を変えてクロヌマネコ、シロヌマネコ、アオヌマネコ、アカヌマネコ、トラヌマネコ、モノヌマネコ、キンヌマネコ、ギンヌマネコ、ハネヌマネコ、モフヌマネコ、ねこねこ。
自分で作っておいて見分けができないのは悲しいので、それぞれ首輪にネームプレートを付けておく。
これで、どれがどの子なのか一目でわかる。
「よーし、君たちの名前はミケ、クロ、シロ、アオ、アカ、トラ、モノ、キン、ギン、モフ、ハネだ!」
モノはモノクロ模様、モフは毛量がすごくてモフモフだからで、ハネは一匹だけうっかり翼が生えてしまったからだ。
キンとギンの希少種感がすごいけど、基本的にどれも同じ能力である。
そんな合計十一匹のイレブンキャットがヴァルハラ内に解き放たれた。この獣たちから逃れる術はない。
「わしゃわしゃわしゃー、わしゃしゃしゃしゃー、もふもふもふふふー!」
『――――』
「おやワンダ君、いつからそこに?」
猫に埋もれている至福タイムを見られてしまった。
ヌマネコちゃんたちは我関せずといった表情でボクの上に鎮座したままだし、ちょっと恥ずかしい。
というか、たしか今の時間は外で工事をしているはずだけど……なにかあったのかな?
『――――』
「え、誰かがダンジョンに向かって来てる?」
『――――』
「これはたぶんリーゼロッテちゃんですね。すぐに行きます」
ボクは寝ころんだまま、ワンダ君が目にした光景を思念で受け取る。
すると切り開かれた森の中を、黒いローブに大きな帽子姿の小柄な人が歩いているイメージが脳裏に浮かぶ。
予想より遅かったけど、彼女が来たのなら色々と説明しないといけないし、とりあえずボクが出迎えよう。
「あれ? あの、ちょっとヌマネコちゃんたち、退いてくれませんか?」
そう頼んでも、気ままで気まぐれなヌマネコちゃんたちは動こうとしない。
なんで言うことを聞いてくれないの?
両腕に二匹ずつ、両足に二匹ずつ、お腹と胸に一匹ずつ、顔に一匹乗っているから、ボクの筋力じゃ身動きできないんですけど?
仕方ないのでワンダ君に頼んで退かして貰ってから、ようやくボクはイレブンキャットのモフモフ天国から名残惜しくも解放された。
……もしかしてボクの未練がヌマネコちゃんたちに伝わって、命令よりモフモフ続行が優先されたのかな?
ようやく変なモンスター第一号が登場できました。




