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10 アルマの楽しいダンジョン作り

「よーし、やるぞー!」


 ゲオルクたちがボクのダンジョンから帰った、その次の日だ。

 一日たっぷりと休んで心も体も完全回復したボクは、いよいよダンジョンの改築に乗り出そうとしていた。

 ただし、その前に少しだけ情報を整理しよう。


 まずボクの当面の目的は人をダンジョンに招いて、アトラクションで恐怖のエネルギーを回収することだった。

 だけど、実際にリーゼロッテちゃんを見ていて気付いてしまう。


 エネルギー回収って恐怖だけじゃなくてもいいんじゃない?


 元々、エネルギーは感情から得られるものだ。

 だから効率は悪いけど、楽しんでいるリーゼロッテちゃんからもエネルギーは微量ながら回収できたわけで、それなら質より量で補うことだって可能だよね。

 具体的には、大勢の人が安心して気軽にダンジョンを訪れるようになれば、例えひとり十ポイントでも百人で千ポイントだ。

 これはヨハンがジェットコースターに一回乗ったのと、およそ同量である。


 もちろん並行して恐怖エネルギーも回収させて頂こう。

 得られたエネルギーで新しいアトラクションを造り、テーマパークとしてサービスをさらに向上させれば、もっと人が増えてエネルギーも増えて、またアトラクションを作れる。

 上手く回ればボクの計画通り……ダンジョンテーマパークの完成だ!


 ……でも昨日は五人を相手にするだけで手一杯になってしまった。

 もし今後、十人や二十人、それどころか百人も増えたら絶対にボクひとりでは手が足りなくなる。キャパシティオーバーだ。

 近いうちにお手伝いさんを確保しないといけない。


 すぐに思い付くのは当然モンスターだけど、料理を作ったり配膳したり、施設の案内をするようなモンスターっているのかな?

 仮にいたとしても、敵として認識されたら困る。

 そもそもダンジョンを守ってくれるモンスターすらいないんだから、お手伝いモンスターなんて配置して誤解されたら時間稼ぎもできないからね。ボクなんて一撃で倒される最弱ボスだし。


 この辺りはゲオルクたちが来たら相談してみよう。

 まあ、次は別の人たちが調査しにやって来るかも知れないみたいだけど、それならそれで構わないかな。

 向こうだって、サービスの質が良くなるなら嬉しいはずだからね。


 一方で、この世界の人たちが求めるものはなにかな?

 それはゲオルクの様子からするとダンジョン産のアイテムと、たぶんダンジョンの主しか知らない情報だと思う。

 他のダンジョンが攻略される分にはボクは困らないし、はっきり言って人類の敵だから、じゃんじゃん教えるつもりだ。


 そのためにもゲオルクに言われた通り、まずはボクが無害で有益な存在だと信用されなければならない。

 方法は……やっぱりダンジョンで証明するしかないわけだけど、どうすればいいのかは、正直あまり良い案が浮かばない。

 最初に予定していたまま、戦いとは無縁なテーマパークのイメージを前面に押し出したりとか、あとポーションを大量生産するくらいかな?

 そうするとエネルギーがたくさん必要だね。

 だけど今度はエネルギー回収に多くの人の協力が必要で、でもそれには先に信用して貰わないといけなくて……。


「ぐぬぬぬ……卵が先か、ニワトリが先かみたいだ……。これってダンジョンのアピールと、エネルギーの回収は一緒にやらないとダメかな?」


 思ったより難しい気がする。

 向かうべき場所が見えているのに、その道筋がぼんやりしている感じだ。とりあえず調査隊に備えることが先決なのは間違いないよね?

 ダンジョンを見て回って、必要になりそうな施設を作っておこう。


「あ、その前に服を着ないと……」


 白のワンピースはとっくに脱いでいたんだけど、新しい服を考えるのが面倒でパンツ一枚だった。

 どうせダンジョンにはボクしかいないんだから、自分の部屋でくつろいでいるような感覚なんだよね。

 とはいえ不意打ちで誰かがダンジョンに入って来てみっともない姿を見られるのは恥ずかしいので、最奥部の私室以外ではちゃんと着ておかないと。

 もし見られたらリーゼロッテちゃんに、めっ、されちゃう。


「とりあえず作業用として動きやすい服……つなぎ? オーバーオール?」


 少しおしゃれに言うならサロペットかな。

 簡単にイメージできるし、頑丈だからちょうどいい。

 上を白いTシャツにすれば着替えるのも楽だ。

 デニム生地は少しエネルギー消費が多かったけど、ちゃんとイメージ通りに完成できたから良し。


「さて、まずは新しいアトラクションからいってみよう!」



 一時間後。



「できたー!」


 あっという間に新アトラクション『バイキング』が完成した。

 船の形をした大型の乗り物で、振り子のように左右へ大きく揺れる、ジェットコースターやフリーフォールとは少し違ったアトラクションだ。


「でもこれでリーゼロッテちゃんが怖がるかな?」


 あの子は絶叫マシン全般に強い耐性を持っていそうだから、これも楽しみながら乗りこなしてしまうかも。

 そもそもバイキング自体が、ジェットコースターやフリーフォールと比べると絶叫系って感じじゃない。

 もっと意表を突くような仕掛けが欲しいな。


「むしろ怖がらせるのに特化した……お化け屋敷?」


 なにか違う気もするけど、アリかナシで言えばアリかも。

 あ、でも仕掛けは思い付くけど、操作するために人手が必要だし、本物のモンスターを使うと倒されそうだ。

 いったん保留で……うーん、そうなると新しいアトラクションは諦めて、ここは初心に帰るべきか。

 つまりジェットコースターの改良だ。

 新しくレールを伸ばして……いや、でも以前のバージョンも捨てがたいから完全に別のアトラクションとして作ってみよう。


「そうだ、せっかくだから『アレ』をやってみようかな」


 絶叫系であると同時に、ジェットコースターならではの爽快感も求めよう。

 だけど『アレ』を造るには今のダンジョンだと狭い。もしくは浅い。

 せっかくエネルギーがあることだし、地下一階層から二階層に増築しちゃおう。


「もりゃあー!」


 そうしてボクのダンジョンはもりゃっと拡張されて、地下二階になった。

 第一階層はひとつの大空間で、アトラクションや各種施設が立ち並ぶ遊園地。

 第二階層も同じくらい広いけど、大きな違いとして中央に深い湖がどーんと広がっている。群青色をした、冷たそうでいて実はそうでもない澄んだ水だ。

 というか大部分が地底湖で占められているのが第二階層だった。

 ここでは泳いだり、釣りが楽しめるのがコンセプトかな。まだ魚いないけど。


 さらに一階層の中央を吹き抜けにして、上から地底湖の様子が一望できる展望台みたいなのも作ってみた。

 展望台は吹き抜け部分から階段を下った先にあって、二階層から見上げると天井から吊り下げられている、プリンを逆さまにしたような物体が確認できる。簡単に言ってしまえば吊り展望台だ。

 なかなかの出来にボクも思わず頷いてしまった。


 と、ここで問題がひとつ発生する。

 それは第一階層と第二階層の行き来なんだけど、イメージでは普通の階段にするつもりだった。

 でも第二階層を高く作りすぎちゃったから何百段も必要になってしまって非常に足腰に悪いのだ。

 こんな大階段、何度も通りたくない。


 なのでボクはエレベーターの設置を閃いた。

 ダンジョンだからって階段で上り下りしないといけない決まりはないよね。

 とりあえずダンジョンの入口側と最奥部の二か所に用意したので、いつでも下の階層まで楽に移動できる。

 今後は第三、第四階層も作る予定だから、エレベーターなら一気に目的の階層まで行けるようになるし、これは良い判断だと思う。

 特に透明なチューブの内側を通るように設計したから、展望台みたいに地底湖を一望しながら移動できるのが近未来感があって楽しい。


「……あ、あれ?」


 満足感に浸っていたら、急に眩暈がして立っているのも辛くなった。

 幸いすぐに収まったけど、エネルギーの使い過ぎで疲れたのかな?


「ふう、今日はここまでにして続きは明日にしようかな。よく働いたら、しっかり休んで英気を養って、また明日になったら頑張る。それがホワイトなダンジョンを目指す第一歩だ! ボクはブラリアンとは違うぞ!」


 ……それにしても、このダンジョンの広さは普通なのかな?

 歩いて回るだけでも疲れちゃうんだけど……このペースで拡張して行くとボクの足では行き倒れかねない。

 なにか楽に移動できる手段を考えたほうがいいのかも。

 まあ残念ながらボクの頭では良い案がすぐに思い付かないから、いずれね。






 翌日になって気付いた。どうもボクのダンジョンは殺風景だ。

 壁はごつごつした岩肌が剥き出しで、地面は整地して平らだけどコンクリートみたいに無機質で冷たい感じがする。

 テーマパークにあるまじき地味さで、これはちょっといけない。

 とりあえず思い付いたアイデアは、道に見えるように柄の付いたタイルと無地のタイルを床に敷き詰めたり、小さな街路樹とゴシック風な街灯を道に沿うように添えることだ。


 ただ街灯はダンジョン内の明かりをエネルギーで操作できるから、正直いらなかったんだけど、そこでボクはまたしても閃いた。

 ダンジョン内は常に昼間のように明るく、おまけにポカポカとした陽気を維持していて、うっかりベンチで昼寝をしちゃいたくなるほど心地いい環境だ。

 だけど、それだと夜も明るくて、時間の感覚があやふやになってしまう。

 作業に集中していると、うっかり夜遅くまで働いてしまう可能性があるので、これは早急に改善しなくてはならない案件だった。

 例えばSF作品の巨大施設でも、人工的な昼夜を演出している。それをマネするように、これからはボクのダンジョンも夜になったら暗くしよう。

 暗くなったら街灯の明かりを灯せば役に立つし、特に不便もないよね。


 早速タイルと街路樹、街灯を配置していたら、あっという間に半日が過ぎた。

 本当に集中していると時間の感覚がなくなってしまうなぁ。

 昨日も頑張りすぎてしまったから、今日は早めに切り上げて部屋でのんびりごろごろしよう。


 ついでに遊べるおもちゃでも作りたかったけど、この二日間でかなりエネルギーを消費したから、ぐっと堪える。

 安定してエネルギーの収入が得られるようになるまで贅沢は禁物だ。

 ポテチを食べながら、ボクは固く誓った。






 さらに翌日。

 ゲオルクは早ければ三日後……本日中に調査隊が送られると言っていた。

 その前に、最後の仕上げとチェックをしなければ。


 ダンジョン内の罠は、使い捨てタイプであっても何度でも機能する。

 これはエネルギーによって修復と補給が行われ、新品同然のクオリティを保っているからなんだけど、その代わりエネルギーの消費量も激しくなるから、効率を考えたら完全に壊れてから修復するのが最適だ。


 だけどボクのアトラクションは壊れてからでは遅い。

 人命が第一だし、死者でも出したらボクの信頼は一気に崩れて立場どころか命が危うくなってしまう。

 かといってヒビが入っているとか、パーツが欠けていても素人のボクじゃ気付けないから難しい。


 そこで役立つのが、ダンジョンの主が持つ能力である。

 簡単に言えばダンジョンの主は、ダンジョンを『創造』して『管理』する力を持っているのだ。

 逆に、この能力がなければダンジョンの主とは呼べない。


 創造する能力は今までボクがやっていたように、エネルギーを使ってイメージした物を作り出したり、ダンジョンを拡張する能力だ。

 最も基本的なことなので、そんなに難しくない。


 そして管理する能力とは、自分のダンジョン内であればモンスターの居場所はもちろん、集中すれば侵入者の位置すら把握できるのである。

 もちろん罠や施設の状態だって細かく確認可能だけど、遠くから察知できるのは罠が起動しているか、破壊されていないかの大まかな状態くらいで、消耗状況となると近くで実物を目にしなければならない。

 つまりアトラクションを完璧に管理するには、毎日ボクが直接見て回って点検しなければならないのだ。

 テーマパークは広いので、これはなかなか大変な作業になる。


「まあ、そんなことで済むなら安い物だけども」


 本当なら専門の人が検査しないといけないって思えば大した苦労じゃない。

 むしろボクひとりでも運営できるのは、かなり助かる話だ。

 そう前向きに考えたボクは時間をかけて歩き回り、無事にチェックを終える。


「あとは新しいアトラクションも調節して試さないと」


 リーゼロッテちゃんのために地底湖まで用意して新設した『アレ』の特殊ジェットコースターだ。

 すでに他のアトラクションと同じように実験用マネキン君を乗せて安全性は確認しているけど、もうひとつ試したいことがあるからね。


 そのために……ボクはスクール水着に着替えた。

 なぜかって言えば、これから思いっ切りびしょ濡れになるからだよ。

 さすがに男物は無理があるし、あまり可愛い水着は抵抗感があったので、妥協した結果がこれである……。

 まあ男でも似たような水着があるはずだからね。気にしたら負けなんだ。

 誰も見てないから全裸って手も……いや、まあどっちでもいいや。

 もう半分ヤケだよ。






 三十分後。

 何度も試して予想以上にびちょびちょに濡れたボクが、そろそろ部屋に戻ろうと歩いていた時だ。

 アトラクションの調整に集中していて意識から外れていたのもあって、ダンジョンに誰かが入って来ていたのに気付かなかった。


「あれ? もう来てたんですか、みなさん……」


 もう見慣れた五人の姿に、ついそのまま声をかけてしまう。

 ふと自分の格好を思い出して、横着せずにちゃんと水着にして良かったと心の底から過去のボクを称賛したよ。

 これで全裸だったら、みんなの前に顔を出せなくなるところだったからね。

 そう思ってたのに……。


「なっ……!」

「うおっ!」

「えぇ!?」

「アルマさん!?」

「……めっ」

「え、ええぇ、なんですかっ!?」


 なぜか物凄く驚かれたし、ノーラさんからお説教されて、リーゼロッテちゃんはさらに過保護になってしまった……どうして?

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