第20話 十つ国7位国 デスラム王
時を遡る事 少し前ーーー
イシュダリア上空に襲来した伝説の竜が落とされ王都中に人々の歓喜歓声が響き渡る中、王城の最上階に位置する王室の露台からそれを眺める王達の姿があった。
「たっ助かったですゾ、まさかこんな事が起きようとは...」
デスラム王は闘技場の中へと姿を消した竜を見送ると、深いため息と共に九死に一生を得たとばかりにその場へとヘタり込んだ。
そしてその後ろでも、イシュダリアの宰相であるカルラと十つ国第4位国の宰相トンガマが同じ様に床に膝をつきつつもホッと胸を撫で下ろす。
「遠目ではあったがあれはシュナのワイバーン、伝説の竜相手に眷聖達がやってくれたようですね。」
「フッフン、中々やるざまぁすね。それでもこれが我が国ならばそもそも王都にすら近づけさせなかったざまぁす!どうなってるざまぁすかっこの国の警戒守備は!」
そんな眷聖らを讃えるカルラの言葉にトンガマは今だ止まらない体の震えと共に憎まれ口を吐くが、それを受けたカルラは思わず顔を歪ませる。
当然イシュダリアでは魔物の襲来や仇なす者達への警戒警備を怠っている訳でもなく、国境や王都迄の間にある監視塔、王都外への調査兵団の派遣と巡回、冒険者ギルドとの連携強化と王都防衛に尽力はしているつもりであった....
ーーーーが、現実に竜の侵入を許し王と民を危険に晒した以上なにを言っても言い訳にしかならず、またトンガマの言った様に十つ国 下位国のイシュダリアとは違い、兵力の数も実力も装備も防衛施設の設備も数も全てが上回る上位国であるなら実際 今回の様な危機的状況は避けられたかも知れない。
悔しくもカルラは何も言い返さず黙って反論の言葉を飲み込んだ。
そして王室でも周囲の兵士や騎士達からも安堵の声や溜め息が漏れると、突如トンガマが周りを驚愕させる言葉を言い放つ
「んまぁ~それにしてもざまぁす?催事を邪魔した逆賊共の制圧を【私】が指揮していた所へ竜が現れ?その兵士達が竜を倒したならこの功績は【私】にあるざまぁすね?これは私が仕える第4位国 オラリウム法皇国にとっても大変に名誉であり栄誉ざまぁす!!」
ピクッッ
あろうことかシレッと【竜殺し】の称号の獲得を発したトンガマにカルラの眉がつり上がるが、それを察したデスラム王は瞬時に揉み手をしながらトンガマを称賛した。
「ほっほほ...いや流石、これもトンガマ殿の手腕ゆえですゾ?」
それはいくらデスラムが国の王だとしてもトンガマのバックである第4位国の威光は無視できず、結局は十つ国 下位国の上位国に対する忖度にカルラも周囲の兵士達も異を唱える事はせず苦虫を噛み潰した。
「さぁでは今から私が堕とした竜の亡骸でも見に行くとするざまぁすか。皆の者よついてまいれ!」
「 ッッ!!? トンガマ殿っそれは危険ですゾ!? 仮にも伝説とされた生物、まだ何があるか...報告を待たれては??」
そして竜殺しに気分の高揚するトンガマは竜の見物へと闘技場に向かおうとするが、デスラム王はそれを必死に阻止する。
しかし三百年間この大陸で観たものはいないとされた伝説の竜の討伐、そしてその竜の身柄をトンガマの自国である第4位国の王へ献上し、更にそこから第1位国へと献上される事になればトンガマの名声は十つ国 全土に轟く事は間違いない。
そんな輝かしい前途が頭を過ったトンガマは浮かれてデスラム王の言うことなど聞きもしなかった。
だがデスラム王の方としても、万が一にも第4位国の宰相に何かあってはならないとトンガマをその場へ引き止め、そんな押し問答が続くなか突如 デスラム王の側にいた護衛兵が慌ただしい声で叫びだした。
[たっ大変ですっ竜生存っっ竜生存確認です!!]
その兵士の言葉にその場にいた者たち全員がビクリと肩を上げつつ恐る恐る闘技場の方へ目をやると、先ほど堕とされた竜が再び上空へと飛び立つ姿を目視した。
「んぬぁ~~~生きてるざまぁす!?生きてるざまぁすよ!!?」
「や、やはり伝説の竜ですゾっそう簡単には倒せなんだか!!?」
「ぐっ五眷聖達は何をしているっっまさか...やられてしまったのか?!」
デスラム王、トンガマ、カルラや護衛兵らが竜の復活に血相を変えて叫ぶと場は大混乱と化す。
そこへ、まさお達が現れてから今までの騒動の中でデスラム王らの側にいながらも唯一何にも動じず静かに佇んでいただけの王妃が遠くの竜の背中に眼を細め初めて口を開いた。
「クスクス...いつぶりかしら?こんなに心が踊ったのは.....」
ーーーーーーッッッ!!?!??
その王妃の何気ない言葉に他国の宰相であるトンガマだけはスルーしたが、それ以外の者ら全員は驚愕の表情を浮かべた。
[おっ王妃様が笑ったの初めて見た?!]
[馬鹿言うな俺なんか喋るとこすら見た事ねぇ!]
[お、俺は王妃様の側近の護衛して十年になるが五文字以上喋るの初めてだぞ!?]
[だっ誰だ?王妃様が感情を失くす呪いをかけられたとかデマ流した奴は!!?]
周囲の兵士らが驚きのあまり王妃にも聞こえてしまう程の大声でコソコソ話を始めるが、宰相であるカルラも驚きの方が勝ったのかそんな兵士らを諌める事を忘れる。
そしてそれは夫であるデスラム王も同じで、それこそ伝説の竜が襲来した時以上に目を見開き驚いた。
何故なら今から24年前、政略結婚に近い形でデスラム王のもとに王妃が嫁いでから今日まで、誰も王妃の笑う姿を観た者がいなかったからに他ならない。
この普段から一切の感情を出さない王妃は、王族貴族のパーティーなどに出席した時すらも感情のこもっていない礼儀の範疇程度の笑顔しか相手に向けず、
いつしか周囲からは『仮面の王妃』『氷の微笑』『空虚の妃』と呼ばれ、心の病を患っているとか呪いによって心を失くしたとさえ噂される様になっていた。
そんな王妃が遠くの竜を見つめクスクス笑う...
しかし王妃の右手に持つ扇子で口元が隠れ今まで誰も気付かなかったが、厳密に言えば まさお達が現れてから王妃はずっと笑っていたのだ。
そんな王妃がチラッとデスラム王に目をやると、
そっと静かな声でーーー
「やはりあの時アナタに嫁いだのは間違いではなかったわ...」
そんな王妃の言葉にデスラム王の時が一瞬止まる。
しかし次の瞬間、側近の護衛兵らが大声で叫びながらデスラム王達を抱える様に露台から王室内へと引きずった。
[たっ退避ぃ~~退避ぃぃ~~~っっっ!]
[デスラム王様っ王妃様っっ失礼いたします!!]
[さぁカルラ宰相トンガマ宰相様も早く!!!]
ドゴオオオォォォォ~~~~~~~~ン
そして激しい轟音が鳴り響くと同時に何かが王室の壁を突き破り、その衝撃でその場の全員が吹き飛ばされるように王室の隅へと追いやられた。
デスラム王は何事かと辺りを見回すと、一帯は息も出来ない程の砂ぼこりに視界は塞がれ、静まり返る空気の中ただ兵士らのうめき声と咳き込む声だけが聞こえる...
やがて視界が開け、ブチ破られた王室の壁から覗かせる厳つい大きな物体に王妃を除くその場の全員が凍りついた。
グルルゥ
すぐにそれが伝説の竜だと理解したデスラム王達は、静かに己れらを見下ろす竜に対しじっと息を殺し、その辺に散らばった瓦礫の様に化して少しでも竜の気を引かぬよう祈るしか出来なかった...だが、
「ヒィッッ!!?」
そんな竜とバッチリ目が合ってしまったデスラム王は恐怖のあまり思わず声を出してしまう。
そして慌てて口を両手で塞ぐデスラム王が後悔よりも先に死を覚悟した瞬間ーーーー
「おい竜さんっ駄目だろ人ん家ブッ壊しちゃ、メだぞメッッ!」
竜の頭の上から王室へと飛び降りた黒服の半ケツ少年がナニやら竜を叱る姿が目に飛び込んできた。
すると、
「いやいや竜さんは悪くねっスよ、まさおが突撃っつったんじゃないスか。」
更に竜の頭の上から下っぱ口調の少女が王室に降り、
「そ、そうよっ悪いのは まさおよ!」
『りゅ竜を怒っちゃ駄目カイッッ?!』
『また怒って暴れたらどうすんだゼ!!』
「いやどっちもどっだと思うけど。」
「それよりこの壊れた壁どうするか...弁償する金は無いしなぁ、う~ん。」
[グルゥ...ゴメンナサイ]
「「竜が謝ったカナサネッッッ!!?」」
そう口々にしながら謎の一団が竜の頭からワラワラと王室へ降り立ち、その先程の恐怖から一転して和気あいあいとした何とも言えない不思議な光景に、デスラム王だけでなくトンガマやカルラ宰相に他の兵士達も考えが追い付かず我を忘れて呆けていた。
するとその[まさお]と呼ばれた半ケツの少年は、あろう事か王族でありカンダミリア大陸 十つ国の一国の王に向かって何か探し物でも見つけたかの様にビシッと指差しーーーー
「おっビンゴ、お前が闘技場ん所にいたこの国の王様だな?アンタに一言物申しに来てやったぜコノヤロウ!!」
その敬意も恐れもまるで無いウン十年来の友かって位の軽さと涼やかな表情でデスラム王に言い放ったのである。
早く次話を載せれるようペースを上げて頑張ります!読んでください!!




