定期演奏会
高2のゴールデンウィーク、私は中学の時の部活仲間に誘われて岬の通うG高のマンドリン部の定期演奏会に行った
壇上に並んで色が変わる照明を浴び、アレンジされた懐メロや映画音楽なんかを演奏する岬
似合わない
岬には太陽の光のほうが似合うのに…
岬の他にも中学の時の知り合いがいたので、その娘と岬に一緒に行った四人でお金出し合ってクッキーを差し入れた
夜、二人からお礼のメールが届いた
一斉送信で
その返事で
「岬、下手だったね〜」
って返したら
「俺の音を聞き分けられるのか(笑)」
「お前変わってないな」
って返事が来た
「久しぶりに会わない?」
って送ったら
「了解」
って返ってきた
え…
断られると思ったのに
この時、少し違和感を感じた
次の週の水曜、私も岬も部活がなかったので、中学の学区内にあるマックで待ち合わせた
私はコーラだけ買って先に席に着いていた
来た、岬だ
中学のときは学ランだったけど、G高はブレザー
…益々サラリーマンみたいだ、岬
私に気づいた岬は軽く手を上げてからカウンターに向かった
岬もコーラだけ持って私のところにやって来た
「久しぶり」って声をかけたら
「この前はありがとな」って応えた
私は単刀直入に
「岬、安藤雅と付き合えてる?」って聞いてみた
「なんだそれ」
少し顎を上げて岬が言う
「え〜、岬、安藤雅と同じ高校に行きたくてわざとS高落ちたんじゃないの?」
って言ったら
「お前って平気で人の傷口に塩を塗るやつだなあ」
「そんなことするわけ無いじゃん」
「公立と私立では学費だって違うのに」
「そんな親不孝者に見える?」
って笑った
そしてちょっと真顔になって
「安藤は男と付き合うようなタイプじやないし」
「ってか人と交流したがらないじゃん」
と言った
「あ、じゃあ私と付き合ってよ」
うんと冗談ぽく軽〜く言ってみる
「ダメダメ、俺、今彼女いるし」
「今日お前と会うのだって、彼女に許可もらってきたんだし…」
そういう答えを全く予想してなかった
安藤雅と付き合っていないならフリーだと思った
私は動揺を見せたくなかった
「へ~」
「寛大な彼女がいるんだ」
「私だったら許可できないな」
「こーんな可愛い子と二人で会うなんて」
わざと大きな声で笑った
不自然だったかもしれない
その後私のS高勉強大変でさ〜って話からお互いの学校生活の話に移った
どうでもいい話で、付き合ってよって頼んだことを岬の意識から遠ざけたいと思った
じゃあねと別れてから、私は重い足取りで家に帰った
岬、彼女できたんだ
なんとなく安藤雅への強い執着を感じていたんだけど
そうでもなかったのかな
それとも気持ちが冷めたのかな
あの時の私はそんなことを考えたんだけど…
嘘だった
岬に彼女がいるというのは
あの時岬はまだ岬をあきらめてない私の気持ちを感じとって嘘をついた
ああ、違うかも
最初から私の気持ちを断ち切らせるために会ったのかもしれない
その状況を改善するために、適切に上手な嘘をつく
平気で
そういうやつだった
後から知ったんだけど、岬がマンドリン部に入ったのは安東雅が入ったからだった
けれど彼女は集団に馴染めずぐ辞めてしまったらしい
だからあの時の定期演奏会には出ていなかった
まあ、流石に雅がやめたから自分も辞めるってわけにはいかず、三年間マンドリン部に在席したんだろうな岬…
馬鹿なやつ