自由同盟の活躍
自由同盟とは身分の垣根を越えて共に自由を愛する組織だ。騎士になるのも自由。友になるのも自由。やりたいことを全力でやり遂げる。それが自由同盟なのだ。
そんな自由同盟が今回の事件を見逃す訳がない。人助けも彼等の活動内容にあるのだから。
立ち上がったのは自由同盟のリーダーであるユーグ・アルベルトだ。
「あの厄介な症状を予防できるなら民にも知らせてあげないとね。倒れているのは我が校の生徒だけじゃない。」
言うのは簡単であるが、夏期休暇でもない自分達が学院の外に出られる訳がない……と発言したのはドルガー・ログナーだ。
「君の実家でも僕の家でも沢山あるだろ?僕達が外に出なくてもやりようはある。」
ユーグの実家は元大公家で、その名残でパイプは沢山あるのだ。そしてドルガーの実家はログナー商会で、王都で五指に入る有名な商会だ。
「先ずは発起人のヴォルティス君に会おう。」
彼等の後輩で自由同盟の6人目の会員なのだ。初めての学院生活を送る彼に遠慮して活動に呼ぶのは控えていたが、この騒ぎに出張る位なのだ。そろそろ自由同盟に参加してもらってもいい頃合いだと判断を下した。
ユーグとドルガーの二人だけでヴォルティスのいる食堂に足を運んだ。
思った通り、食堂は激戦区になっていた。料理長を中心に忙しそうであった。そして、二人の目的である人物は並んでいる生徒達にレモーラを配って何かを説明しているようだった。すぐ側には成体になったウルウも行儀よくお座りしていた。
「よし、僕達も手伝おうか。」
「マジかよ……」
ドルガーはげんなりしたが、あれだけ忙しそうにしている後輩を自分達の都合で抜けさせるのは可哀想だと理解しているから拒否は出来なかった。
「ヴォルティス君、僕達も手伝うよ。」
「よぉ。」
「ユーグ先輩、ドルガー先輩。」
『キュウ』(あ、本当だ。ユーグ達だ!)
上着を脱いでシャツの袖を腕捲りした二人の登場にヴォルティスとライトは目を丸くした。
「後輩が何やら頑張っていると聞いて、何か出来る事はないかとね。」
「話は後だ。先ずはこの混乱を早く立て直すぞ。話はそれからだ。」
そう言って作業に入った二人を呆然と見ていたヴォルティスとライトだが、直ぐに二人も作業に向かった。
ジーン料理長達が作ったレモーラを手際よく水筒に移し、並んだ生徒達に渡していく。時には説明し、具合が悪そうな生徒をテーブルに座らせ、休憩するようにしたり。まるで治癒術士のような働きだった。
混雑が終わったのは昼過ぎになってからだった。
「お、終わった……」
「くそダルいぜ……」
テーブルに突っ伏しているのはライトとドルガーで、品よくレモーラを飲んで寛いでいるのはヴォルティスとユーグだ。
「うん、このレモーラは美味しいね。」
「それは良かったです。」
「これ、ヴォルティス君が考えたの?噂では治癒術士も知らないレシピだとか聞いたのだけど。」
「ええ。これはウルウから教えて貰ったのです。そして、あの症状が熱中症という病名だとも。彼女が教えてくれなければレモーラは作れませんでした。」
ヴォルティスの話にユーグとドルガーは信じられない思いでヴォルティスとウルウを見た。
「魔獣が人間に知識を与えた?」
「あり得ない……。」
『クゥ……』(や、やっぱりヤバかったのかな……)
二人の言葉にウルウも不安になってきた。そもそも魔獣が人間に知識を与えないなど知らなかった。ただ、ヴォルティスの手助けになりたくて前世の知識の一部を与えただけなのだ。
「ウルウは優しい魔獣です。それに俺達は深い絆で結ばれているからこそ教えてくれたのだと思います。」
『クゥン』(うん。私もそう思う。ヴォルと私は最高のパートナーだもの。)
スリスリと大きい頭をヴォルティスに擦り付ける。長い九本の尾をヴォルティスの体に巻き付ける。まるで豪奢な毛で出来た椅子にでも座っているかのようだ。
「ウルウが規格外なのは分かっていたけれど、君も規格外なんだね。そこまで魔獣を信頼できるのは君くらいかもね。」
ユーグは苦笑しながら二人を見た。
「それで、先輩達はヴォルティスに用があると言っていましたよね?」
ライトは本題に入ろうと話題を変えた。
「そうだね。」
レモーラを置いたユーグとドルガーは今までの緩い雰囲気を変え、姿勢を正し、先輩としての威厳を見せた。対するヴォルティスとライト同じく姿勢を正す。
「ヴォルティス君。君が考えたレモーラはとても素晴らしい効果がある。生徒達が元気になっているのも見た。治癒術士があれだけ奔走しても防げなかった混乱をこんなに早く立て直すのだから。」
「で、ここから本題だ。このレモーラを市民に提供して欲しいんだ。」
「市民に?」
市民にレモーラを提供する。それはヴォルティスも考えていた事だった。しかし、それは国がきちんと許可を出してからの事になるだろうと思っていたのだ。
「国が許可を出すまで待っていたら夏が終わる。終わってからレモーラを提供したって意味がねぇ。現に、子供や年寄りが倒れて死んでるんだ。」
「カフル副料理長はこのカードを有効利用したいみたいだけど、そこに市民の評価というのも付属するのは悪くないと思う。いつでも国を動かすのは民なんだから。」
二人の話にヴォルティスは二人の考えに同調した。そして、ジーン料理長に説明すれば彼も納得したようだ。
「でも、どうやって広めるのですか?」
「それは僕達の身近にいる人達に協力してもらうのさ。君の執事やメイドに教えればそれがその知り合いに広がる。」
「俺の直属の店に作らせて広めてもいい。金はいくらでも出せば良い。どうせ、国がレモーラの特許を欲しがって高い金額で買い取るだろうからな。」
「……流石、ログナー商会の天才ですね。」
「オレ、ドルガー先輩とは商談なんてやりたくねぇな。」
ライトは顔をひきつらせていた。
『キュウ』(うん。骨の髄まで搾り取られそうだもんね。)
一人と一匹はぶるりと震えた。
「事情は分かりました。市民へ提供も良いでしょう。しかし、そのレシピをウルウが教えたと言わないでください。」
「それは承知しているよ。民も恐れて飲まなくなるだろうし、ウルウもいらぬ危険に遭うことになるからね。」
「ありがとうございます。」
こうしてレモーラはヴォルティス達の手によっていち早く市民に広がる事になる。簡単に手に入る材料に簡単なレシピ、手軽で高齢者や子供でも飲みやすいレモーラは人気になったのは言うまでもない。
民の評価が後押しとなり、料理界の地位向上に繋がったのもあるが、何よりヴォルティスと自由同盟の存在が政府に知らしめたのが今回の大きな収穫となった。
これから彼等に更なる困難が訪れるのも時間の問題になるのだった。