第19話 裏切り
※パトラーの父親視点です(冒頭はフィルド視点です)。名前が1回しか出てきませんが、ライト=オイジュスといいます。
真に信じられるモノは何だろうか?
おカネか? だが、それは価値を失えば、ただの紙切れや金属の塊に過ぎない。
機械か? バトル=アルファのように壊れたら終わりだな。
システムか? 政府の基本である民主主義はもう、壊れているかもな。
己か? 自分を見失ったらどうする。
人間か? それは一番信頼ないものだ。
私はことごとく裏切られた。
人間なんて、裏切りを得意とする生き物さ。
なぁ、クォット? お前はかつて、私を裏切り、見捨てただろう――?
【ハーベストフォレスト 管理区域】
木の葉はすっかり落ち、殺風景な森が広がるのはコールドフォレストだろうか?
ここ、ハーベストフォレストは秋の紅葉だった。真冬にも関わらず、葉や草はオレンジや赤に染まっていた。いつか、娘とも来たいものだ。
「クォット将軍、プランナー長官の情報、どう思いますかな?」
わたしは隣に座るクォット将軍に尋ねる。わたしたちがいるのは政府専用の小型飛空艇だった。全員で僅か4人ほどしか乗れない機だ。左右に翼を持ち、出入り口は機体の後ろとなる。
「ふぅむ……。しかし、彼はウソをつくような人物でもない」
「では、間違いないと?」
「うむ」
実はプランナー長官から驚くべき報告が入った。なんと、連合軍のクローン将官を1人捕えたというのだ。その証拠に映像や写真まで送ってきた。更に、近隣の政府軍支部の人間も確認したという。
わたしとクォット将軍はその捕えたクローン将官の最終確認をしに行くのだ。もし、本物なら直ちに部隊を呼び寄せ、彼女を政府首都グリードシティへと移送する予定だった。
「さ、ハーベスト郡の支部に到着しましたぞ」
飛空艇が小さな広場に着陸する。ここはすでにハーベスト郡の軍用基地であり、管理局の敷地だ。こんな所にも落ち葉や土の地面があるとは……。
わたしとクォット将軍は飛空艇から出る。外では4人のハーベスト警備軍兵士と1人の男性が待っていた。ハーベスト郡長官のプランナーだ。以前は元老院議員もやっていた。
「これは、これは…… クォットさんに、ライトさん、お久しぶりに御座います」
「お久しぶりです。プランナーさんもお変わりないようで何よりです」
プランナーは元老院議員時代、わたしともよき仲であった。退官後は出身のハーベスト郡に戻り、その地の長官となった。
彼の故郷への愛はとても大きいという。ハーベストの森と平原を愛し、その環境保護に全力を尽くす。その為なら労力を惜しまない。それが彼だった。
「……で、そろそろ本題に入りますが、連合軍のクローン将官を1人捕えたと聞きましたが」
「ええ、我がハーベストフォレストに軍を進める為に偵察していたのを捕まえたのです」
プランナーは近くの兵士に合図を送る。白い装甲服に灰色の肩当をした彼は頷くと駆け足でその場を去って行く。
しばらくすると、3人の兵士と共に戻ってきた。彼らに連行されてきたのは1人の少女。赤茶色の髪の毛に同色の瞳。これがあのフィルドのクローン……。
「どうですか? クォット将軍」
「た、確かに……」
彼女は何も言わずに俯いている。捕まった時に抵抗したのか、肌に密着する黒のレザースーツや白色のブーツには土がついていた。
「すぐに艦隊に連絡致します」
「艦隊ですか?」
「ええ、中型飛空艇4隻からなる部隊です」
艦隊に連絡を取っているクォット将軍に変わって私が答える。フィルドのクローンを1人護送するだけで中型艦4隻はやや大げさな気もするが……。おっと、わたしやクォット将軍がいるからか。
クォット将軍が連絡を終え、こちらに戻ってくると、少しの会話の後、プランナーの勧めで艦隊が来るまでハーベスト支部要塞の中で休むことにした。
「戦争が始まって以来、ここも危なくなってきました」
「…………」
「観光客は減り、この森を維持するのも難しく、常に空襲や侵略に備えねばならなくなったのです」
「なるほど……」
「政府はこんな自然地帯を守ってる余裕はないですから、我らは自衛を余儀なくされました」
わたしたちは歩きながら落ち葉の散るハーベストフォレストを歩く。空気のいい所だな。さすが、自然の水郷。美しい所だ。
「自衛ですか。しかし、それは難しいのではないですか? なにしろ、ハーベスト警備軍は240名ほどと聞いておりますし……」
「さよう。この美しい自然を保護するのはもはや無理なのです」
プランナーの言いたい事は何となく分かる。援軍を求めているのだ。だが、政府の特殊軍の軍人はほとんどが防衛や進軍で出払っている。このハーベスト郡にも戦火は及ぼうとしているのは分かっているのだが……。
「申し訳ありません。政府特殊軍の兵はことごとく出払っております。援軍は難しいかと……」
「そうでしょうな。わたくしもそれは分かっています」
「申し訳ない……」
わたしもかつての友を助けたかった。だが、それは私事だ。わたしは元老院議員。クォット将軍は政府軍人。公私を混同してはならない。申し訳ないが、ハーベストの警備はプランナーの仕事だ……。
「だから、わたくしは新たなる方法でこの水郷を守る事にしたのです」
「ほう? それは、それは……」
「どのような方法で守るんですか?」
「……すまない。本当に申し訳ない。わたしはこの水郷に人生の全てをかけてきた。今はハーベスト警備軍の長官。ここを守るのが仕事なんだ。本当にすまない……」
「…………?」
プランナーは少し早歩きでわたしたちから遠ざかる。その瞬間だった。周りの建物の影や茂みからおびただしい数のバトル=アルファが姿を現した! 彼らはハーベスト警備軍の兵士と共にわたし達に銃を突きつける。
「プランナー長官!?」
「……あなた方が悪いんですよ。以前、連合軍のウォゴプルがこの水郷で暴れた。その時、わたしはあなた方政府に援軍を求めた。なのに、それは無視された」
そういえば、聞いた事がある。半年ほど前、連合軍のウォゴプルが完成して間もない頃、ハーベストフォレストでウォゴプルが暴れた、と。
その時、確かにプランナーはわたしたちに援軍を求めた。わたしたちは何度も元老院議会で話し合いをし、その結果、援軍を送ることが決まった。だが、援軍を送る直前、ウォゴプルはコア・シップに乗せられ、姿を消した。だから、援軍を送ることは結局なかった。
「ま、待って下さい。ウォゴプルは連合が作り出した生物兵器ではありませぬか」
「……さよう。連合政府のバトル=オーディンには煮え湯を飲まされた気分です。しかし……」
「動くな、クォット。動いたその瞬間、ライトの首をハネる」
「…………!?」
わたしの首に鋭い刃を持ったブーメランが突きつけられる。まさか、連合軍のケイレイト将軍……!
「ケイレイト将軍はここをお守りになって下さると約束された」
「…………」
「申し訳ありませんが、わたしは連合政府に加盟します。国際政府からは脱退と分離を表明します」
プランナーは悲しそうな顔をして言う。気がつけば、捕えられたフィルド=トルーパーも手錠をハズされていた。最初からワナだったのか……。




