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第五話 おもしろ女すぎるは、さすがに失礼じゃないですか?

「アンリ嬢、無理をする必要は無い」


 訪ねてきた理由を知りたかったら一発芸を披露しろというアズラッドさんの要望。

 これを聞いて、イェルハルド閣下はお茶を一口やって、とても冷静な口調でこう言いました。


「暴力で聞き出せばいい」


 訂正、まったく冷静ではありませんでした。


「落ち着いてください、閣下」

「君の頼みでも難しい。この男は、よりにもよって君に座興(ざきょう)をやれといっているのだ。一度脳天を断ち切ったほうがいい」

「二度と無いのでやめてください」

「いや、これはつまり……そう、こいつを(おもんぱか)っての知性に対する手術という名目の」

「閣下」

「……アズラッド、アンリ嬢に感謝をすることだな!」


 何やら捨て台詞のようなものを吐き出す閣下。

 どうやら私のために怒ってくれているらしいことまではわかるのですが、本人の中で怒りと殺意がイコールになってしまっているようなので、一端遠慮して貰うより他ありません。

 夜のお茶会で流血沙汰は、さすがに引きます。


「わかりました。持ち芸を披露すればいいんですね?」

「さすがお姫さん、飲み込みが早いやんけ」

「ただし、笑ったら絶対に理由を教えてください。嘘偽りは無しで。絶対にですよ?」

「ハードル上げるやんけ……ええで。ワイも男や。二言はない」


 了承を得られたところで、私は呼吸を整えます。

 心配そうにこちらを見詰めてくる――といっても眼差しはいつもの冷たい瞳なのですが――閣下のことも、一度脳内から追い出します。

 これは、心を(から)にしないと出来ない芸なのです。


「では、参ります。お母様の家伝統の、お父様すらイチコロで落としたというテッパン芸……!」


 ゆっくりと両手を頭の上に載せ、左膝を曲げて足の裏を浮かせ、顔は少し小首を傾いで。

 緊張で震える手足をそのままに、小さくジャンプし、私は高らかに叫ぶのです。


「ぴょ、ぴょーん……! 白ウサギの、真似……!」


 一瞬の静寂。

 そして、


「フ、そんなんでワイが笑うわけ」

「……口元がニヤけているぞ、アズラッド」

「仕方ないやろ! これは卑怯やろ!? おんどれも盛大にニヤけとるやないかい!!」

「俺は彼女の夫だから正しいだろう」

「クソボケが……!」


 天を(あお)ぎ、降参したように両手を挙げるアズラッドさん。


「辺境伯夫人が、身を(てい)してやる芸が、あざとさ十割のウサギの真似は、その……アカンやん! あんまりにもおもしろ女すぎるわ。いまも顔真っ赤にして、プルプル震えとるし、破壊力が高すぎるやろうがい!」

「閣下! ちょっとは言い返してくださっても構いませんよ!?」


 たまりかねて涙目で援護を求めれば、イェルハルド閣下は何故か両手で顔を覆っていました。

 え、なんですか、それ……。


「……わからない。急に無理になった。今の君を見ていると、温かくてポワポワとした感情が胸の奥からじんわりとこみ上げてきて耐えられない。直視し続けると俺は消滅する」

「共感性羞恥!? 待ってください閣下、これはお母様一族伝統の、誰もを笑顔にする命懸けの」

「涙が出そうだ」

「閣下!」

「いや、共感性羞恥やないやろそれは。(とうと)みや尊み。あるいは惚気(のろけ)。はー、ほんま面白いは、おどれらは。ええで、お姫さんとイェルハルド、ふたり合わせて及第点や。ワイの来訪理由を話したる」


 口元をも見込んでニヤニヤ二を消したアズラッドさんが、どうやらようやく話してくれる気になったようです。

 よかった、これで正かがなかったら、心が耐えられないところでした……。

 安堵する私を見遣った彼は、じつに簡素に一言。


「おんどれらを離婚させるためじゃ」


 そう、言い放ったのです。


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