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奇妙な魔法少女たち  作者: みずゆめ
9/22

七話 顔合わせ

 レイに昼飯ついでに魔法少女を紹介すると言われ屋上に向かう途中、俺は気になっていたことを質問することにした。


「そう言えばさ、魔法少女って言えばサポートをする不思議生物みたいなやつはいないのか?」

「ああ、いるわよ。”クロ”って言う名前なんだけどね。今は有給休暇中よ」

「有給って……」


 会社員かよ。


「休暇って言ってもいないのは困るんじゃないのか? 代わりのやつとかいないのか?」

「だから人手不足だって言ったじゃない。代わりなんて居ないわよ」


 人手不足でも休暇は取らせてもらえるのか。

 魔法少女の組織はブラック企業的なものだと思っていたので、意外だ。

 思ったよりは良い組織なのかもしれない。レイのせいで悪いイメージを抱いていた。


「まあもう何ヶ月もぶっ続けで働いていて、クロが倒れちゃったから仕方なくの休暇なんだけどね」


 全然良い組織じゃなかった。

 法の裁きを……魔法の世界だから関係ないのかもしれない。地獄か。


 と、レイが何かを思いついたように手をポンと叩いた。


「あ、ハジメって回復魔法使えるんだし、クロに魔法をかければすぐにでも復帰……」

「お前は鬼か! 絶対に断るぞ! そのクロってやつはたっぷりと心身共に休むのが一番の回復魔法だ!」


 俺もこんな組織に所属することになったんだよな……。

 辞めたくなってきた。


「なあ、この組織すげえ不安なんだけど。福利厚生しっかりしてるんだよな? 俺もうちょっと青春を謳歌したいんだけど」

「大丈夫大丈夫。明るくてアットホームなとこだから」

「一気にヤバさが増したぞ! あと、ホントに大丈夫なら俺から目を逸らさずに言ってみろ! さもないと魔法少女辞めるぞ!」


 誤魔化すようにそっぽを向きながら口笛を吹いているレイ。小憎たらしい。

 レイは顔を背けたまま、目だけをこちらへ向けてぽつりと言った。


「もし魔法少女を辞めるんだったら、もう変身は出来ないわねえ」

「相田ハジメは魔法少女として誠心誠意、努力していくことを誓います」

「手のひら返し早っ!? 絶対、誠心誠意じゃないし!」


 失礼な。誠心誠意思う存分、女体を堪能するつもりだ。

 考えてみれば、辞めるのはまだ早いな。どうせならもっと楽しんでから辞めよう。

 レイの友達の魔法少女も見てみたいし。


 ちょうど会話に区切りがついた所で屋上に到着した。

 今日はあいにくの雲り空で、景色はそれほど良くない。

 屋上ともなると風も強いため少し肌寒く感じる。


 俺は屋上を見回し、先に来ている魔法少女を探すが見当たらない。


「レイ、お前の友達はここで待ってるんじゃなかったのか?」


 俺の質問に、レイとは違う声が真後ろから答えた。


「いますわよ」

「うおおっ!?」


 驚きながら振り返ると、屋上の出入り口の扉の影に人がいるのを見つけた。

 その人は少しフラフラしながら近づいてきて、俺の隣にいるレイに話しかけた。


「レイさん、この方が昨日の……?」

「うん。新入りよ。ほら、ハジメ」


 どうやらこの人がレイの言っていた魔法少女のようだ。

 彼女が身につけている制服のリボンの色が3年生を示している。先輩だ。

 レイに促されたまま、俺は自己紹介をする。


「あ、どうも。初めまして。相田ハジメって言います。えっと、男ですけど魔法少女になりました。よろしくお願いします」

「ハジメさん、ですわね。わたくしは涅黒ねくろマリネと申しますわ。マリネで結構ですわ、ハジメさん」


 そう言って、マリネと名乗った人物はゆっくりとお辞儀をした。

 彼女はお辞儀の後、また少しフラついた。

 俺は先程から気になっていたことを質問する。


「あの、マリネ、さん? えっと、体調が悪かったりするんですか? もしそうなら詳しい話はまた今度で、今は保健室にでも……」

「ああ、大丈夫ですわ。わたくしはこれで正常なんですの。あと、呼び捨てで結構ですわよ。同じ魔法少女なんですし、気遣う必要はありませんわ」


 おお、良い人だ。だけど、正常には見えないんだよなあ……。


 このマリネという人は、立っているだけでフラフラしているし、何より顔色がすこぶる悪い。

 腰ぐらいまでの長さの、ゆるくウェーブがかかった綺麗な髪だが、色は灰色で、顔色と相まって今にも倒れそうな印象だ。

 顔はやつれているわけではないが、目元に隈があり、やはり健康そうには見えない。

 

 立っている姿勢も少し前かがみで具合が悪そうだ。あ、胸大きいな……。変身した俺より大きい。

 あの立派な胸に生命力を吸われているのかもしれない。

 

 ただ、はっきりと話すため、やはり本人の言う通り体調は悪くないのだろう。

 まあ本人も言っているし、あまり気遣いすぎるのも失礼か。普通に接することにしよう。


「じゃあ遠慮なくマリネって呼ばせてもらうよ。敬語も使わないぞ」


 マリネは俺の返答に満足したように、微笑みながら頷いた。

 その微笑みがニタァ……っとした悪魔のような笑みでちょっと怖い。


 挨拶が終わり、俺達は昼食に取り掛かった。


 屋上で昼ごはんを食べるのは初めてだな……

 ん? 屋上って学生が許可なく入ってもいいもんだったっけ?


 俺は浮かんだ疑問をそのまま投げかけると、レイがパンを頬張りながら


「その辺は魔法道具でこう、ね?」


 あっけらかんとした態度で答えた。

 大丈夫なのか、それ。


「おい、魔法って一般人に知られちゃいけないんだろ? こんなことに使っていいのかよ」

「バレなければいいんですわ」


 マリネも大きな重箱に入った弁当を食べながらそんな事を言ってきた。

 この人はあまり良い人ではないかもしれない。


「バレなければって事は、バレたらまずいんじゃねえか!」

「まあ。クロさんのような事を仰るのですね。鬱陶しいですわ」

「そうよー。そんなんじゃモテないわよ、ハジメ」


 クロってやつが倒れた理由の一端が見えた気がする。

 真面目だったんだろうなあ……。気の毒に。

 クロに会った時には何かジュースでも奢ろう。


「まあいいか。確か見られても記憶消せるんだったな」

「いい思考ね、ハジメ! 魔法少女らしいわ!」


 そんな魔法少女いねえだろ。あ、ここにいるか。

 俺は不正は絶対に許さないなんて主義ではないので、気にせずに屋上で昼飯を食べ続けることにした。

 まあ、何かあったらこいつらのせいにしよう。


「そうだ、マリネ。俺は回復魔法を使うんだが、お前はどんな魔法なんだ?」

「え? ああ、言ってませんでしたわね。でも、見たことはあるはずですわ」


 ……初対面のはずだが、俺が見たことがある?

 ああ、ひょっとして。


「……マネキン人形の魔法か?」

「ええ、そうですわ。まあ、昨日は急いでいたせいで少々不格好な人形でしたが……。本来なら美しい人形なのですわ」


 昨日、黒い巨人から気を逸らしたり、弱点に気が付くきっかけになったりして俺を危機から救ってくれたマネキンはマリネのものだったらしい。

 あの勝利はマリネなくしてはあり得なかっただろう。


「そうだったのか。ありがとう、マリネ。昨日はお前のおかげでデカブツに勝つことが出来た」

「あら、本当ですの!? お役に立てたようで何よりですわー!」


 俺の礼にマリネは突然立ち上がり、くるくる回り出す。会った時の弱々しさが感じられないほど機敏だ。

 その様子を見るに、マリネも勝利が嬉しいようだ。その嬉しそうな顔もニタリとした感じで少し怖いが。

 それにしても、マリネはとても謙虚だ。レイも見習って欲しい。


「ふふん、どうですの? レイさん! わたくしだってやれば出来るんですわ! やはりわたくしには天性の才能があるんですわ! いつもはわたくしの事を魔法道具係だの、棒立ち人形だの好き放題言ってくれましたわね! 今後はわたくしにひれ伏しなさい! この脳筋!」


 全然謙虚じゃなかった。やっぱりこいつもレイの仲間だ。


「ぐぎぎ……。ふん、まあ助かったことは事実だからお礼は言うけど、あの日はたまたま天気が凄く良い日だったから、なんとか魔法が使えたんでしょ? それに、ハジメの勧誘に成功したの私だし? 結局魔物にトドメ刺したのは私だし? あんたが最後の方まで手助けしなかったのって魔力切れ起こしてたんでしょ? この魔力食い倒し人形!」


 レイの反論に「うっ」とたじろぐマリネ。この二人、所々気になることを言ったな……。

 それよりもレイ、お前は魔法すら使えないだろと突っ込みたいところだが、ここは堪えてこの場を収めよう。


「待った待った。昨日の戦いは皆が頑張ったおかげってことでいいだろ。喧嘩は止めようぜ」

「むう……」

「ぐう……」


 口喧嘩は収まったが、まだにらみ合い続ける二人。

 俺は質問することで空気を変えようとした。


「マリネ、さっきレイが言ってたけど、お前の魔法って天気が良くないと使えないのか?」


 マリネは少し言い辛そうにするも、答えてくれた。


「……ええ、まあ。ですが、使えないというわけではないのですわ。制御ができないんですの」


 制御ができない……。となると、あの人形たちが勝手に動き出すのか。なんでだ?

 今日は曇り空だ。マリネの魔法は制御ができないのだろうか。

 と、そこでレイがマリネの説明を補足した。


「一応、どんな天気でも一体だけなら制御できるみたいよ。ね? マリネ」

「ええ、そうですわ。補足ありがとうございます、レイさん」

「いいってことよ!」


 笑顔でやり取りする二人。さっきまで喧嘩してなかったか?

 付き合いが長そうだし、さっきのようなやり取りも日常茶飯事なのかもしれない。

 まあ仲直りしたならなによりだ。

 

 それにしても、マリネの魔法は使いにくそうだな……。


「よし、それじゃあマリネ! なんかがっかりしてる無礼なハジメにあなたの魔法を見せてやりなさい! 一体でもやれるってところをね!」

「わかりましたわ! おいでなさい”マリちゃん”!」


 マリネの掛け声と共に、彼女自身が光に包まれる。――変身だ。まだ食事中なんだけど……。

 光は一瞬で消え、そこには制服ではない服を着たマリネが立っていた。


 彼女は黒と白のコントラストが綺麗なゴスロリ衣装を身にまとっている。

 スカートの丈が長く、袖も指先近くまであり、全体的にゆったりとした作りになっているようだ。

 しかし、胸元辺りは引き締まっていて、強調されていた。露出があるわけではないが、胸元周りを黒色に、中央を白色にすることで胸部を際立たせている。

 彼女の頭には黒色のヘッドドレスがあり、灰色の髪に似合う。


 マリネが姿勢を正し、彼女が履くブーツによるコツッという小気味よい音が鳴り響く。

 次に勢い良く手を振り上げる。

 その手には彼女によく似た操り人形が吊り下げられていた。 


「さあ、いきますわよ、”ライチ”!」


 続けてそう叫ぶと、マリネの周りに幾つかの光の粒が現れた。

 光の粒はだんだん何かの形になっていき、それぞれが繋ぎ合わされ人型に組み上がっていく。

 次はその人型の体を覆うように光る糸のようなものが纏わり付き、弾けた。

 人型はいつの間にか服を着て、マリネそっくりの姿になっていた。

 髪型だけが本人とは違っていて、その人形は長い髪を真っ赤なリボンで括っていた。


 マリネ人形はこちらへ振り向き、スカートの裾を摘んで小さくお辞儀をした。


「おお……」


 俺はマリネの魔法の美しさに思わず感嘆の声が漏れた。

 賞賛の拍手を送ると、マリネはなぜだか顔色が一層悪くなりぐったりしている。


「はあ、はあ。あ、ありがとうございます……。うっ……。演出にこだわった甲斐がありましたわ……。おえっ……」

「あーあー、無駄に魔力使っちゃって。いつもはもっと簡単にポンって出るのに。大丈夫? 背中さすろうか?」


 レイの言葉通りなら、マリネはどうやら俺に見せるために頑張ってくれたらしい。良い人ではあるんだろうけどズレてるな……。


「ふう……もう大丈夫ですわ、レイさん。助かりましたわ。さあ、ハジメさん、これがわたくしの魔法ですわ」

「おう、凄いと思うぞ。この人形、マリネそっくりだ。昨日もこれを沢山操って戦ったのか」

「ええ、そうですわ。複数体ともなると魔力の消費が激しいので、持って数分なのですが」


 そう言ってマリネは持っている操り人形を動かすと、それに連動して”ライチ”と呼ばれた人形も動く。

 俺の魔法のイメージは、火を出したり、ワープしたりといったものだったが、この人形も立派に魔法だ。

 どうやって動いてるのか皆目見当もつかない。

 

「これが本当の魔法少女ってやつか。な、レイ?」

「なんでそこで私に振るのかしら? 私だって本当の魔法少女なんだけど? ちゃんと魔法使えるんだけど?」

「自分の武器に押しつぶされることが出来る魔法か。はっはっは!」

「わあああマリネええええ! ハジメがいじめるーっ!」


 レイがマリネに泣きつく。

 マリネはそんなレイを受け止めて、よしよしと頭を撫でる。

 ちょっと険悪な空気になったこともあったが、なんだかんだ仲が良い。


 が、マリネはニタっとレイに笑いかけると


「安心してくださいまし、レイさん。これからはちゃんと魔法が使える・・・・・・・・・・わたくしとハジメさんが戦いますので、レイさんは後ろで魔法道具係なり棒立ちなり応援なりしててくださいまし。おほほほほほ!」

「なあっ!? 魔法が使えても結局は物理攻撃のクセに! しかも制御不能のあんたの人形たちってなんかもう、ホラーじゃない! そんな魔法少女いないわよ!」

「ぐうう……」


 やっぱりあんまり仲良くないかもしれない。さっきから俺の上がった好感度をすぐに下げるのやめてくれないかな……。

 ……それより、レイが気になることを言ったな。結局は物理攻撃? ホラー?


「……マリネ、なんか嫌な予感がするからお前の魔法について詳しく知りたいんだけど……っ!? 何の音だ!?」


 突然、けたたましい謎のメロディが辺りに響き渡る。

 電話の着信音にしてはかなりの騒音だ。

 驚いて慌てる俺にマリネが騒音の正体を教えてくれた。


「魔物が担当区域に出現する際のアラートですわ。この”WHS”という魔法道具に搭載されている機能の一つなのですわ」


 マリネが見せてくれた”WHS”は、一昔前の折りたたみ式の携帯電話の様に見えた。


 昨日、そんなものレイは持っていたっけ?

 と、目でレイに訴えると


「ごめん、昨日は充電忘れてて、電源切れちゃってた。充電って言っても動力は魔力だけど」

「意識低いな! めっちゃ重要そうな道具じゃん! ちゃんと管理しろよ!」


 俺は文句を言いながら変身の宝石を取り出す。魔物が出るというなら魔法少女の出番だ。

 黒い巨人のように突然攻撃を仕掛けてくるかもしれないので、すぐに変身し気を引き締める。わあい、数時間ぶりの女体だ! いや、気をつけてるよ?


「あら、随分可愛らしい姿になるんですのね、ハジメさん」

「あ、そう言えば、その宝石の名前って”マジカルジュエル”って言うのよ。教えるの忘れてたわね」

「どっちもどうでもいいわ! そんなことより警戒しろって! マリネ、どこに出るか分かるか?」

「わかりますわ。出現予測地点は……」


 ”WHS”の画面を見ていたマリネの表情が凍りついた。


「ここですわ!!」


 ――空が、ひび割れたように見えた。

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