読切短編 第六感、ほぼ正解
新学期初日、隣の席に座った女子を見た瞬間、確信した。
根拠はなかった。ただ、胸の中で何かがはっきりと鳴った。勘違いとも妄想とも違う、あの感覚。この人だ、と思った。たぶん僕の高校生活は、この子で変わる。そんな気がした。 僕の第六感は、こういうときだけ妙に冴える。何かが始まる、と思った。
彼女の名前は、出席簿で知った。田中さくら。
僕は慎重に距離を縮めた。消しゴムを貸し、ノートを見せ、帰り道が同じ方向だと気づいたふりをした。彼女は、そのたびに少し嬉しそうに笑った。脈はあった。少なくとも、そう読んでいた。
昼休みに話すくらいには、仲良くなっていた。三週間後、彼女に告白した。
「ごめんなさい。ずっと好きな人がいるから」
予感は外れた。少なくとも、そのときは外れたと思った。
僕は笑って「そっか」と言い、その日の夜に友人へ報告した。友人は慰めるでもなく「でもお前の第六感、いつも当たるんじゃなかったっけ」と言った。僕は「今回は外れた」と答えた。そう言いながらも、少しだけ引っかかっていた。
それで終わりのはずだった。
一ヶ月後、田中さくらが好きだと言っていた相手——サッカー部の先輩——と別れた、という噂を聞いた。さらに二週間後、彼女から連絡が来た。「あのとき、ごめんね」という書き出しだった。心臓が、少しだけ早くなった。
胸の奥が、またざわついた。遅れて始まるものも、あるのかもしれないと思った。
やっぱり予感は当たっていた——そう思いかけた瞬間、メッセージの続きが来た。
「実は転校することになって。最後に、クラスのみんなとちゃんと繋がっておきたくて。何人かLINE教えてもらえる?」
既読をつけたまま、返信欄を開いては閉じた。
田中さくらは確かに、僕の人生に関係してきた。ただそれは、クラスメートのLINEを集めるための、ただの通過点として、だった。——僕の第六感は、ほぼ正解だった。
運命というのは、向きまで指定してくれないらしい。




