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8話 最強種共、決着を望む


 

 ───メローペ軍病院施設が、半壊!!

 ───患者、病院関係者の多くが意識不明!!

 ───事故か!?テロか!?


 センセーショナルな見出しが踊り、新聞各紙の一面を飾る大事件。

 世間も現場も騒然とし、メローペはこの話題で持ちきりだった。


 駆けつけた連邦軍は丸々霜に覆われ、軋み傾いた病院を見て唖然としていた。

 

 「軍はテロの可能性も考慮して調査中だって。私、テロリストになっちゃうの?」


 新聞を食い入るように見つめ、ジナは犯罪者の仲間入りかと顔を青くする。

 周りの視線を気にして瞳の色をグレーに、髪を栗色に変えている。ロングの髪をショートにする念の入れようだ。


 「変なところで気が小さいんだから。ゴールドスタイン大佐とグレゴリー少佐にもちゃんと話を通したんだから、大丈夫よ」

 「すっごく、怒ってたケドネ」


 昨晩の記憶が甦り、ジナは遠い目をしていた。

 烈火の如く怒り狂う大佐の迫力は、それはもう凄まじいものだった。

 

 クラリスを盾に脅を効かせるペルセポネーの汚いやり方に、ジナはどうしても我慢できなかった。

 激情に任せて魔力を解放した結果が新聞記事のこれだ。


 「まぁ……仕方ないわね」

 「延々と自重の意味を説教されたよ」

 「やりすぎは良くないよね」とジナは洩らして、目を伏せた。


 だが決して、後悔はしていない。

 何万、何億回、同じ場面に出くわしたとしても、同じことをする自信があった。

 クラリスを傷つける者は赦さない。

 それが最強種だろうと関係ない。

 この手で殴り倒す。

 手をもがれたら、蹴り飛ばす。

 四肢をもがれたら、這ってでも喉を食いちぎる。

 首を落とされたら、視線で刺してやる。

 跡形もなく焼かれたなら、霊体になって祟ってやる。

 霊体を滅ぼされたら、転生してやり返す覚悟だ。

 しぶとさには自信がある。

 

 「でも、こんなこと言ったらアレだけど私は、私のために怒ってくれたって知って嬉しかった」

 「連邦と戦うことになったとして、ジナは私が守るから!」 

 「私もクラリスを守るよ!」

 「ふふ、期待してるわ。私の騎士様」


 クラリスは口元を隠して微笑むと、ジナと互いに拳をコツンとぶつけ合う。

 カフェテラスを抜ける風はコーヒーの香りを運んでいく。ミルクの甘さが少し混じっていた。

 ふたりは再び微笑んだ。

  

 「お母様からよ」


 クラリスが手渡してきた手紙。封蝋には群星連邦の紋章が入っている。

 ということは、クラリスの母としてではなく、連邦政府の長としての手紙ということになる。


 ジナは恐る恐る封を切った。

 

 『神霊への対応はジナさんに一任します。』


 中には走り書きで、そう一言綴られているだけ。


 「えっ?これだけ?」

 

 封筒を逆さに振っても何も出てこない。

 秘密の暗号も───

 なさそうだ。


 クラリスは頭に手をやって、ため息をついた。

 何とも頭が痛い。ジナもクラリスとまったく同じ気持ちだった。


 どこかで見ているのだろう。

 ペルセポネーが笑った気がした。


 「これって丸投げってこと?」

 「まぁそういうことね」


 事実上、政府からペルセポネー関連の全てを委任されたのだ。

 


◇◇◇



 街を行く人の表情はどこか暗い。

 雑踏も沈みがちで覇気がない。

 

 ペルセポネーとの戦いからもう2週間経つ。

 陽の昇らない日々は、人の心と身体を毒す。

 

 (私がどう動くべきか……)


 今いる街角のカフェテラスも客足は少ない。

 

 「コーヒーを楽しむ気になんてなれないよね」

 「ここのコーヒー、おいしいのにね」


 クラリスの横顔にも陰りがさす。


 このコーヒーのように苦い敗北。

 カップに注がれた砂糖とミルクのような甘い女神の誘惑。

 

 戦うか、手を取り合うか。

 小さな風がジナの前髪を弄ぶ。睫毛に降りる微かな霜。


 ミルクで造られたデュランタの氷華。


 花言葉は『あなたを見守る』───。


 また笑う声が聞こえる。

 冬の女神の悪戯だろう。


 「氷の花?綺麗ね」


 無邪気にはしゃぐクラリスの髪に添えられた氷の花の名前はスノードロップ。


 花言葉は『あなたの死を望む』───。


 背筋が凍るようなメッセージを平然と送り付けてくる悪辣さには舌を巻く。


 そっとテーブル越しに身を乗り出して、恋人の頭にある花飾りを取り上げる。不思議そうなクラリスをよそに、ジナは、そのメッセージを力いっぱい握り潰した。


 パラパラと散る氷の欠片。


 「甘いのが好き?苦いのが好き?私は甘いものが好き」と女神が囁く声がした。

 

 暗に手を取れと告げてくる。

 

 

 思いっきり髪をかきあげ、ジナは深く息を吸う。

 落ち着かなければ、また同じことの繰り返しだ。ジナは自分にそう言い聞かせ、冷静さを保つ。

 相手は最大限の譲歩をみせたうえで、こちらの弱みもつついてきている。

 譲歩は飴で、クラリスを使った脅しがムチだ。

 ペルセポネーとの契約にはカグヤも条件付きでなら賛成していた。契約を結べば、少なくともクラリスの安全と太陽の問題は解決する。


 ジナはデュランタの花も握り潰したうえで、ペルセポネーに改めて語りかける。


 (契約をしてやってもいい。ただし、一発殴ってからだ)


 やはり、クラリスにちょっかいをかけようってのが、どうしても気に食わない。遺恨を残さないためにも決着をつける道をジナは選んだ。  


 (ふふっ、貴女のそういうところ好ましく思っているわ)


 ジナは勇者でも、英雄でもない。

 結局は世界の行く末なんてどうでもいい。

 でも、身内が傷つけられるのは我慢ならない。

 

 (やるの?やらないの?)

 (いいわ。傷が癒えたら、死者の都に来なさい。待っているわ)

 (首を洗って待っていなさい!)

 (ええ、今度こそ雌雄を決しましょう)


 その言葉を最後に、ペルセポネーとの繋がりが途絶える感じがした。

 

 少しスッキリとした表情でジナはアイスになったコーヒーを飲み干した。


 「ジナ、なんか嬉しそうね」とクラリスが首を傾げた。

 「今、あのクソ女神に宣戦布告してやった」 

 

 清々しい笑顔でとんでもないことを口にする恋人に、クラリスから「ふぇ?」と間抜けな声が洩れる。

 

 「怪我が治ったら死者の都プルトへ行って、ペルセポネーと決着をつけるわ!」

 「まったく、あなたは……」


 お説教をしてやりたいが、ジナが人間を辞める決意したときに、何があってもついて行くと決めている。惚れた弱みと諦め、クラリスはジナを好きにさせることにした。



◇◇◇



 これからの方針について話し合い、ジナたちはメローペから出ることにした。

 軍病院の一件で、ゴールドスタイン大佐に睨まれてしまったらしい。


 グレゴリー少佐に聞いたところ、大佐は行動制限を課したがっていたようだが、上層部が却下したらしい。

 苦肉の策が隠れての監視だった。


 四六時中、見張られてるのは決して気分がいいものではない。

 

 国境を越えて、ネビュラ帝国領へ。


 動けるようにはなったが、ペルセポネーから受けた傷の治りが極端に遅い。


 カグヤ曰く、「呪詛の類か、冥府の瘴気による汚染か」とのこと。だがカグヤも専門外で、詳しいことは分からないらしい。


 三人で話し合った結果、当面の目的はジナの傷を治癒できる者を探し出すこととなった。

 

 


 


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