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第五特異点、巻き込まれる  作者: 一二三楓


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5/10

5話



 「瘴気に晒されて人や動物のアンデッド化!?さらには冥府からアンデッドの群れ!?」 


 ヴァンシュタイン嬢の飛ばした伝令を受け取ったグレゴリー少佐は激しく年季の入ったデスクを殴りつけた。


 「このまま瘴気が漏れ続け、アンデッドの氾濫が起きればメローペ州全体が危ない!」

 

 だが討伐隊を編成しようにも、一般兵士では瘴気のせいで森の中に立ち入ることすらできない。


 「少佐、我々はどうすれば……」

 「弱気になってどうする!?今はできることをする。森一帯を結界で封鎖!周辺の街や村にも連絡して、アンデッドを警戒させろ!司令には俺が話す。行け!」


 グレゴリーに怒鳴られ、怖気付いていた部下たちが慌てて駆けていく。自分も上官とすぐ話をしなければならない。

 少佐は急いで部屋を後にした。

 

 (すぐに連邦首都マイアへ緊急の伝令を送ったが、間に合うかどうか……。最初に死ぬのは、俺の部下なんだぞ!!下手をしたらこの街諸共……)


 「クソッタレがぁ!」


 軍舎の廊下に鈍い音が響く。コンクリート製の壁には少佐の叩き込んだ『鋼拳こうけん』の痕がはっきり残っていた。



◇◇◇


 

 メローペを預かる軍駐屯地の長い廊下はとうに九つの鐘を過ぎたというのに、薄暗い。

 窓から差し込む日の光もなく、魔力灯のオレンジの光だけが点々と続いていた。


 ここだけではない。

 街が、世界が。

 陽の光を失い、朝が来ない今日に怯えている。


 グレゴリーは司令官の執務室の前で立ち止まった。ひどく緊張した面持ちで、深く息を吐いた。

 

 意を決して、扉を叩くと中から唸るような低い声が、「入れ」と告げる。

 「はっ、失礼します」


 中で待っていたのは、メローペの街を守る軍の長を務める『大佐』───名はアルバート・ゴールドスタイン。


 グレゴリーはすぐに敬礼の姿勢を取った。


 巌のような身体。

 顔面を横断する一文字の傷。

 鷹を想わせる鋭い眼光。


 「楽にしろ」

 「はっ!」

 

 報告を受けたアルバート・ゴールドスタイン大佐の雷声はすぐにメローペの街を駆け巡った。

 軍は速やかに街に厳戒態勢を敷いた。

 轟く雷名でもって、メローペの市長、州知事、さらには国家の上層部に至るまで、迫る危機的状況を周知させた。

 

 「グレゴリー。その怪物はアテになるのか?」

 「お言葉ですが、大佐殿。彼女のことをそのように呼ぶのはおやめ下さい。彼女だからこそ、この情報をもたらすことができたのです。そして、それは議長閣下もご承知で在ります」

 「政治屋がどう取り扱うかなどには、興味はない!民間人を守る盾として役に立つか、お前の、『鋼拳のグレゴリー』の評価を聴いているのだ!」 

 「問題ありません。彼女は……ジナ・クリシュ・クシャトーリは、最強種に恐怖する人類の切り札となる女です!」


 グレゴリーは大佐の怒声に一瞬も怯むことなく、そう言い切った。

 

 大佐はニヤリと顔を歪めて「そうか」と呟いた。軍でも指折りの豪傑は猛りを隠そうともしていない。


 これだから軍の猛獣共は。


 呆れるグレゴリーは、部下たちに貴方も同類ですよ、と笑われた気がした。


 「増援は間に合うのでしょうか」

 「わからん……。そもそも一連の流れに最強種が絡んでいるのだとしたら、増援も大した役には立たないだろうな」

 「それは……」

 「心配するな。当てにならないのは戦力としてだ。戦闘以外にも避難や輸送、やることはいくらでもある。手などいくらあっても足らん」


 大佐は窓の外に広がる濃紺に塗りつぶされた空を黙って見つめていた。


 「もう一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

 「なんだ?」

 「大佐殿は、最強種と戦ったことが、お在りですか?」

 「あぁ」


 大佐の低い声がより一層低くなる。

 そして何かを思い出すかのように顔に走る傷に触れた。


 「俺が戦ったのは、龍種だ」

 「龍種……」と繰り返して、グレゴリーは唾液を飲み込むと喉が鳴った。

 「その代償はこの顔の傷とこの腕……」


 そこで言葉を区切り、大佐は自分の左腕を叩いた。

 鈍い金属音を立て、軋む腕。


 「そして、数え切れない戦友たちだ」


 短く語られた壮絶な記憶。

 最強種とはそれほどまでか、と唖然としたグレゴリーの舌はもはや、それ以上上手く回らなかった。



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