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第五特異点、巻き込まれる  作者: 一二三楓


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1話

新作異世界ファンタジー


 なんだかバタバタと外が騒がしい。

 何かあったのだろうか。

 手にした論文の束を机に置き、椅子から腰を浮かせると、ドアを蹴破るような勢いで女性が部屋に飛び込んでくるではないか。

 かなり急いで来たらしい。

 額に汗を浮かべ、肩で息をしている。

 

 「やぁ、クラリス。どうしたんだい?」

 「ジナ!コレはどういうことなのッ?」


 ジナのかけた声を無視するように、クラリスがデスクに叩きつけた一通の手紙。


 見るとそれは、セレストリア共和国にある大学からの書状だった。

 

 「まさかあなた、連邦を出ていくつもり?」


 そう言って、ジナへと詰め寄るクラリス。


 内容は共和国大学に招聘したい旨が綴られている。所謂、引き抜きのお誘いだ。

 どこからこんなものを手に入れてきたのやら。

 

 「まぁ落ち着いて。座ったら?紅茶は?」

 

 ジナがまあまあと紅茶を勧めると、「……いただくわ」と言って、難しい顔のクラリスはソファーに浅く腰掛けた。

 ティーセットを用意してる間もクラリスは、落ち着かない様子で部屋のあちらこちらに視線を彷徨わせていた。

 彼女の前に紅茶を置いてから、ジナは自分も向かい側に腰を下ろす。

 テーブルに置かれた手紙。クラリスがここまで握りしめて持ってきたのだろう。

 だいぶしわくちゃになっている。


 まずはクラリスの誤解を解くところから始めなければならない。


 「どう、落ち着いた?」

 「少しは……」


 紅茶を口に運びながら、クラリスはこちらの表情を何とか盗み見ようと頑張っていた。竜胆色の瞳の奥で揺らめく複雑な感情が見て取れる。


 これはしっかりと話す必要がある。

 ジナは、手紙についての詳しい事情を彼女に説明することにした。


 「最初に言っておくけど、向こうの大学に籍を移す気はないよ。ここに書かれてる話ももう断った」

 「本当に……?」

 

 そう言って一瞬身を乗り出して、すぐにまた表情を暗くするクラリスは、まだジナの言葉に安心できずにいた。


 「本当だよ。そもそも恋人である君に何の相談もなしにこんな話、進めるわけないだろう。もし少しでも共和国行きを検討するなら、真っ先に相談してたよ。今回は受ける気がなかったからわざわざ話さなかったけど」

 「だってぇ……」と言って、クラリスは急にしおらしくなり、俯いてしまった。

 「でも不安にさせたなら謝るよ。話しておくべきだった」


 そして、彼女の頭に手を置いた。


 「ジナぁぁ……」

 

 恋人に潤んだ目でこんな風に上目遣いをされたら、可愛いくて赦したくなってしまう。だが、クラリスが持っていた書状の出処については確認する必要がある。

 今度はこちらが質問をする番だ。


 「で、こんなものどこで手に入れたの?お父さん?お母さん?」

 「……」

 「黙ってちゃ、わからないよ?」

 「……お母様」


 それを聞いてジナは深々とため息をついた。まったく頭が痛い。

 クラリスはすぐに白状した。彼女にこれを渡し、焚き付けたのは母親だと言う。


 今はしゅんとして、小さくなっているクラリス・ヴァンシュタインとは学生時代からの付き合いだ。正確には、群星連邦ぐんせいれんぽうの連邦学術アカデミーから。


 彼女の母は連邦議会議長を務める大物議員で、父は国内最大規模を誇るヴァンシュタイン商会会頭であり、連邦経済界のトップ。

 そんなヴァンシュタイン家の令嬢であるクラリスならこの程度の情報を手に入れることなど造作もない。


 だが、問題はその情報を売ったのが彼女の親である議長だということだ。


 「それで議長、エリザベートさんはなんでこんなことを?」

 「ジナが、国を捨てるって……、だからすぐにやることやって、逃げられないようにしてきなさいって……」

 「はぁッ!?もうや……って、そうじゃない!!」


 あの人は娘に何を吹き込んでるのだ。

 開いた口が塞がらない。


 お分かりいただけただろうか。この国の政財界に君臨する彼女の両親は、子供のことになるとネジが緩む親バカなのだ。


 「はぁ……。やっぱり少し連邦を離れたほうがいいのかもね。身の危険を感じてきた。あの人なら軍の情報部を使った監視くらい平気でやりそうだ」 

 「お母様でも流石にそれは」

 「本当にそう言える?元情報部のクラリス大尉殿?」

 「うッ……」とクラリスは、言葉につまる。

 

 これは本当にだめかもしれない。

 ジナは思い切って、予てからの計画を打ち明けた。


 「クラリス、少し旅に出よう。ネビュラ帝国にでも行って、帝都観光でもしてこよう。そうしよう」

 「本気?」

 「スキルを使って変身すれば、多分バレないよ。もしバレても、議長の耳に入る頃には国外さ」と軽い感じで、その身に魔力を込めると背中まであった美しいプラチナブルーの髪は肩口までの黒に近い濃紺に、アイスブルーの瞳は魔力で灰銀色へと変わっていく。


 「それならジナだってすぐにはわからないかも。性別は変えなくていいの?」

 「女の子の私は嫌い?」と少し揶揄うと、クラリスは顔を覆って、蚊の鳴くような声で「好き」とつぶやいた。



◇◇◇



 「じゃーん!!」


 ジナが満面の笑みで嬉しそうに、披露してくれたのは大型魔導バイクだった。


 「すごい!これ、どうしたのッ!?」

 

 魔導バイクに目を輝かせるクラリス。

 この驚く顔が見たくてジナは、このバイクを手に入れたのだ。


 連邦が誇る魔導バイクの最新モデル『スレイプニル』。

 ボディにはミスリル合金製のレッドフレームを採用。耐久性はもちろん、アブソーバーとしても非常に優秀で、どんな悪路も走破するタフさと乗り心地を兼ね備える。

 動力は魔石と大気中の魔力のハイブリッド。

 燃料の心配がなく、環境に左右されず走り続ける魔導工学の作り出した、まさに優駿。


 「この子で、クラリスを乗せて走るのが夢だったの」とジナは、バイクシートに頬擦りしていた。

 「これで帝国に行くのね」

 「まずは国境沿いのメローペを目指そう」


 ジナがアクセルを回し、バイクのエンジンを吹かすとブォンブォンとパワフルな音が響く。

 スレイプニルも広い大地を駆け回るのを待ちわびているかのようだった。

 


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