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後編 幸せな結婚

 そうだ。

 間違いない、彼女はセスカ。

 アランを振って見放した。わたしはその現場を目撃していた。


「騙すだなんて酷いです、アランさん……!」


 セスカは遠慮なくズカズカと広間に入ってきて、アランの前に。

 彼はわたしを守るように前へ。


「騙す? なんのことだい」

「あなたが公爵様だったなんて知りませんでした……! なぜ教えてくれなかったんです」


「意味がないからだ」

「え……」


「俺は一緒にいて楽しいと思える人と将来を共にしたい。だから、あえてボロボロの服装をしていた」


 アランは真剣に結婚相手を探していたんだ。

 それは、わたしも同じではあった。

 アランのことを誰よりも詳しく調べていたし、彼のことをよく知っていた。


「そ、そうなのですね。でも、私は真剣でした。本当のことを知っていたら……あなたを拒否することはなかった。今でも遅くありません。結婚しましょう」


「…………」


 アランは無表情で無反応だった。

 それどころか、わたしを守ろうと手を握ってくれた。嬉しすぎる……。


「なぜ何も言ってくれないのですか! まさか……もうその女と」

「エレナを悪く言わないでくれ」

「くっ……!」


 悔しそうに唇を噛み、わたしを睨むセスカ。

 そんな血走った目で見ないで欲しい。

 わたしとアランの幸せな空気をぶち壊さないで。


 次第に恐怖を感じ、震えるわたし。


 アランがぎゅっと手を握ってくれて、わたしは落ち着くことができた。


「大丈夫だよ、エレナ。俺に任せて」

「……はい」


 優しい言葉にわたしは感激した。

 こんなに守ってくれるだなんて……やっぱり、アランで良かった。


 そんな中、セスカは背中に隠し持っていたらしいナイフを取り出した。


 鋭利な刃物をこちらに向ける。

 そんなものを用意していたなんて……!



「もう許せないわ……! 二人とも殺してやる……!! ああああああああああ!!」



 発狂して奇声を上げるセスカ。

 アラン目掛けてナイフを振り下ろす。


 凶器が彼の胸元に迫りくる。わたしは怖くて凍り付いていた。足がまったく動かない。……こんな時なのに、なにもできない。完全に恐怖に支配されていた。


 でも、動かないとアランが……。


 ナイフがグサッと刺さって、わたしは呆然となった。


 うそでしょ……。



「…………危なかった」



 アランはそうつぶやいた。



「アラン様!」

「大丈夫だよ、エレナ」



 よく見るとアランは素手でナイフの刃を握っていた。

 血がポタポタと滴る。

 痛そうだけど、これでセスカのナイフを止められた。



「……う、うそ! 素手で……!」



 さすがのセスカも驚いたようだった。



「セスカ。君は俺のことを何も知らない」

「……え」

「俺はね、大切な人を守る為ならなんだってできる。家族や民、そして婚約者……愛する者の為ならば喜んで血を流そう」


 ナイフを奪い、アランは真っ直ぐとセスカを見据える。

 あまりの迫力にセスカは一歩、また一歩と退いていく。


 公爵は伊達ではないと認識させられ、セスカはついに焦りと畏怖の念を抱いていた。



「…………っ!」



 やがてセスカは走り去って行った。



「……ふぅ」

「ふぅ、ではありません、アラン様! 血塗れではりませんか……」

「これくらい平気さ」

「平気なんかじゃありません。無茶しないでください……」

「でも君を守れた」

「…………そ、それは。はい……とても嬉しいです。ありがとうございます……」


 彼の顔をまともに見れなかった。

 本当に嬉しくて嬉しくたまらなかったから。


 わたしはドレスの裾を破って、アランの右手に巻いた。ひとまずの応急処置だ。


「助かったよ、エレナ」

「すぐ治療します。お父様、すぐにお医者様を」


 隅っこで腰を抜かしているお父様。

 多分、さっきのナイフに驚いて、そんな状態になったのだろう。


「あ、ああ……。エレナ、無事でよかった! さすがローゼル公爵。よく我が娘を守ってくれた……」

「いえ、それよりもお父様の方こそ腰は大丈夫ですか?」

「なんと! わが身よりも、この私の身を案じてくれるか……素晴らしい青年だよ、君は! よし、すぐに医者を手配しよう」


 アランの力を借り、お父様は起き上がった。

 医者を呼んで来てくれるようだ。



 その後、アランは治療を受けて右手は包帯でぐるぐる巻きに。



 さらにセスカが衛兵に捕らえられたと情報が入った。



「捕まったんですね、セスカ」

「そうみたいだ。彼女はこの屋敷に侵入しただけではなく、ナイフで襲ってきた。その罪は重い」


「これで安心ですね」

「ああ、もう大丈夫だ。今後なにがあっても俺が守る」

「はい、信じております。アラン様」



 自然と抱き合って――見つめ合った。


 アランは、こんなにもわたしを愛してくれる。

 わたしもアランを愛している。


 その時を待っていると、アランはわたしにそっとキスをしてくれた。



 これが幸せ。


 わたしだけが知っている幸せ。



 祝福の鐘が響く。



 まもなく、わたしとアランは結婚した――。

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